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silent 7 解釈:「必要ない」という手話と、まっすぐ気持ちを伝えること

7話に関しては特に、語るだけ野暮な気のするきれいな回だったが、それでもやっぱり何か言いたい。

「必要ない」という手話

春尾先生(風間俊介)が同僚の先生から独身の同級生を勧められようとしたときの「結構です」で私たちは「必要ない」という手話を印象付けられた。7話では特に「必要ない」がたくさん使われていた。

「青羽には関係ないから気にしないで」
「青羽は気にしなくていいから」
「奈々としか話さないから(声は)必要ないってだけ」

silent 7

 想(目黒蓮)から「必要ない」という手話がでるたびに、紬(川口春奈)は寂しそうな表情をうかべていた。手話が十分に通じない聴者の自分との間に線を引かれたように感じたのではないだろうか。声で話せた頃は、怒られるまでよく話したのに、今はお互いに十分に言葉が通じないせいで、伝えるのを諦めてしまうことが多い。
 紬はつい、想にどうして声で話さないのか尋ねてしまう。後の電話で湊斗(鈴鹿央士)が言っていたように、想にとってはわざわざ言いたくない嫌なことだったのかもしれない。二人が気まずい空気になってしまったとき、陶器の割れる大きな音がするが、想は気がつかない。驚く紬に気づき、想は「どうしたの?」と尋ねる。紬は「何でもない」と答えるが、紬の視線を追って想が振り返ると、店員が割れたカップを片付けていた。向き直ると、紬は寂しそうな表情で、「いただきます」とパスタを食べようとしていた。
 このとき、想は「必要ない」とか「大丈夫」とか「何でもない」という言葉で打ち切って、話しをしてもらえない疎外感に気がついたのではないだろうか。
 その後、紬は湊斗と電話で話し、「必要ない」と言われて引き下がるのではなく、近づくことを決意する。顔を見てちゃんと話せば大丈夫という湊斗の言葉に背中を押されたように見えた。
 想に「気にしなくていい」と言われた奈々(夏帆)と話したいと、連絡先を尋ねる。想も「必要ない」と紬に話をしないで遠ざけてしまっていたことに気づき、反省したのかもしれない。「奈々さんってどんな人?」という紬のメールにちゃんと返信したようだ。
 紬は奈々とカフェで話す。顔を見て話して、少し分かり合えたのではないだろうか。想の好きな本に対する感想が「同じ」だと、奈々が、想に初めて教えた手話を使う。顔を見てちゃんと話せば分かり合えないかもしれないと思った人同士でも、同じところが見つかるのだ。
 
 奈々も「必要ない」を言う場面があった。想に借りていた本を返しにいった際、「振らなくていいよ」と想を気づかった。想の「必要ない」も紬を気づかう意図だったはずだが、同じ「必要ない」でも、相手に伝わるポジティブさが大きく違っていた。
 
 もう一つ、印象的だった「必要ない」があった。
 紬の家で、想が家で二人きりという緊張感を和らげようと「最近覚えた手話、何?」と話題をふる。すると、紬は「片想い」と答える。想は「覚えなくていいよ」と「必要ない」の手話を使う。紬は「そんな頻度の少ない手話、必要ないよ」という意味で捉えたのだろうと思うが、最後の場面を知ってから考えると、想としては「青羽に片想いなんて、ないよ」という意味を含んでいるように思えた。

気持ちを伝えようって必死になってくれる姿ってすごく愛おしい

 紬と奈々がカフェで話した後、奈々は偶然に図書館で想を見つける。想は、小さな男の子に話しかけられ、高いところにある本を取ってほしいとせがまれているようだった。両手で子どもを抱き上げ、ひとつずつ指差して確認し、子どもの欲しい本を取ってあげる。それを見る奈々は何を感じていたのだろうか。想が父親になったらこんなかなと想像していたのかもしれない。子どもを抱えたままコミュニケーションをとる姿に、声が出る想を想像したのかもしれない。必死に取って欲しい本を伝えようとする子どもの姿を愛おしいと思っていたのかもしれない。
 想と奈々は目が合い、話をする。奈々は紬と会ったことを話し、紬が一生懸命に手話で気持ちを伝えようとしてくれて可愛く思えた、想くんもあの子と話すとき、こんな感じなのかなって思った、と和やかに話せたことを伝える。
 話が広がり、想の夢に出てくる奈々の話で、二人は思わず笑ってしまい、さっきの子どもに「しーっ!」と怒られてしまう。3年前の奈々と想は同じ場所で、手話だと静かで怒られないことを喜んでいた。今は、二人で話すと楽しくて笑ってしまい、怒られてしまう。
 想と奈々の良い友達ぶりが喜ばしいのと同時に、今はまだ静かで怒られない紬と想の会話も、いつか8年前と同じように怒られるほど楽しくなるかもしれないと、希望を持たせてくれる場面だった。

2回目の告白

 最後の場面は、2回目の告白だった。2回目の告白は、最初の告白と同じ構造になっていた。まず、紬の「好き」が伝わっているかどうか分からない。最初の告白は想がイヤホンをしていたから。2回目の告白は、口の形を読めているかどうか分からないから。
 伝わったのかどうか分からないまま、今度は想から、好きだということを伝える。最初の告白は、あらためて想が「好き、付き合って」と言って。2回目の告白は想が抱きしめることによって。
 この2回目の告白は、想が紬の両手を掴んで互いの手話を封じて、意を決して声を出そうとするところからはじまる。想が喋ろうとするのを制して「いい。いいよ、大丈夫。喋んなくていいよ。」「喋んなくても好きだから。大丈夫。」と紬はまっすぐ気持ちを伝えようとする。想を思いやる気持ちを必死に伝えようとする紬が、私たちにも愛おしく見えたのだから、想にはなおさら、とても愛おしく見えただろう。紬は「必要ない」をこえて近づいた、想は声で話そうと近づいた。2人がお互いに近づいた結果が抱擁だった。
 一方で、この2回目の告白で、想と紬が気持ちを伝え合うために必要だと私たちが思い込んでいたことが覆された。抱きしめると両手がふさがる。それでも意思が伝わる。抱きしめるとまっすぐ相手を見られなくなる。それでも意思が伝わる。やはり文字にすると野暮な気がするが、とてもいい場面だった。

自己満足

 7話では「自己満足」もキーワードだった。奈々は想に手話を教えたのは自己満足だったといい、律子(篠原涼子)の過度な心配に想の妹、萌(桜田ひより)が「自己満足だよ。」と釘を刺した。
 考えてみれば、人の好意は全部自己満足なのかもしれない。自己満足が他人を傷つけることも、救うこともあるということが、このドラマではいろいろな場面で描かれているのかもしれない。
 律子の自己満足はどんな風に想に届くのだろうか。次回以降を楽しみにしたい。


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