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A子さんの恋人

「A子さんの恋人」大好きなのと、この漫画をよむと自分も答えをどこかでださなければな、とおもうので整理のためにも文章化してみる。ネタバレあります。ヒロ君が好きです。

執着と呪い

物語はA子とA太郎の伸び切った餅のような関係をベースに友人や恋人との関係が描かれる。(と私はおもっている)はじめから、いきなりそんな展開?!え、どういう関係!?てかなんで?っていうハテナを大量にうかばせてくれるすばらしい導入なのだけど、徐々に複雑にもつれた糸をほどいていくよう何があったのかが解き明かされていく。

この人とは一緒にて楽だなとか、好きなのに一緒にいるとしんどいとか、あんなに仲が良かったのにいつのまにか修復できないような亀裂がはいってしまうとか。ほんと、なんなんでしょうね。お互いが努力しあわないと結局人間関係は維持できない。その努力をしたいとおもうのか、どう努力するのか、そういうのの濃度とか方向が同じであれば付き合いやすく、違うほど関わらないコミュニティで生きていくのかもしれない。

A子とA太郎は、恋人同士としてお互いに自分のなりたい姿を重ねていて気づけば自分を補完してくれる存在として近くに身をおいてしまう。二人で一緒に同じ場所を泳ぐことで成り立っていたけれど、だんだんと泳ぐ場所・泳ぎ方・泳げる範囲がかわってくる二人は、それに気づいていても完全に自由に泳げない。しかしA子がNYにいき、A君と出会い、そしていろんなタイムリミットとともに答えをみつけていくことで、それぞれがそれぞれの泳ぎ方をみつけていく。

作品のなかでA子は「人と一緒にいる時の私自身が好きじゃないんだと思う」という。そしてA太郎が「えいこちゃんがそんなに好きじゃないのは「人」といる時の自分じゃなくて「僕」といた時の自分なんじゃないかな」「A君と一緒にいる時の自分自身は好きなんだよ」と返す。

「一緒にいたい」A太郎と、「一緒に生きていく方法をふたりで考えたい」A君。どちらと一緒にいる自分が好きなのか。A子はA君を選ぶ。

あこがれや、損得勘定、承認欲求などで、気づけば呪いのように誰かに執着してしまうことがだれしもあるのではないだろうか。ありますか?私はあります。A子とA太郎のように、どうあがいても続けることのできないデビュー作のように、白紙にもどすことでしか完成できないとわかっているのに、こわくて手離せない。自分の一部のような人がいなくなることで自分から何かがかけてしまうのではないか。とにかく、こわい。だけど答えは自分しかだせない。そして自分の心のなかにずっともやもや答えはあるのに、それを形にできない。

作中のA子はA君に出会っていて、違う選択肢をみつけているけれど出会っていなければA子とA太郎はどうなっていたのかな。それでもきっと一緒にはいられなくなっているのだろう。

A子・U子・K子・I子、全員なんだかんだ恋人とまるくおさまる展開にすこしむなしくもなる(独身恋人なしの孤独やさみしさがおきざりな気がしてしまう)。「自分以外のだれか」と生活を営むことの尊さであったり満たされない想いや欲をだれかとわかちあうことが救いであり癒やしになるのでは、その相手が見つからなかったらどうすれば?と考えずにはいられない。大人になり、卒業も入学もなくなってからは自分で自分の未来を決めていくしかない。それはあまりにも過酷で不安で、ひとりではきついものなのだ。

A太郎は最後「二度とあわないよ」という

個人的に、最後の空港のシーンでA太郎が二度とあわない、というところでぶわっとくる。「二度と」って、覚悟だよね。別々に生きるという。たまに会っても平気な関係はどうしても築けないんだよね。

A君もいて漫画家として仕事もできていてNYでの新しい生活もあるA子と、日本で1人で対面販売をしているA太郎。A太郎さみしくないのかい、とおもったけど、A太郎はカッコよくて爆モテ野郎でU子ちゃんたちもいるから大丈夫か。ちっ。

あと愛子ちゃんがフられるところ、すっごく好きです。から回って理想と全然ちがう形でいきおいで告白しちゃう感じとか。自分が色々考えてることって他人からしたらほんとどうでもよくて、でもすっごく着飾ったりよく思われたくてがんばってしまうんだよね。みじめだけど、愛子ちゃんがしっかりフラれることで次にすすめるようになる展開にちょっと救われる。A太郎を好きでい続ける苦しみをなんとか終わらせただけ。自分が望む終わり方じゃなかっただけ。終わらせることに意味があるんだなっておもう。

絵と構成が好き

絵がね~好きなのですよ。これも好みは分かれるとおもうんですけど、あの整然とした線で構成される絵。無駄な線を省くことを意識されてるのかな?あんなシンプルなラインでこんなに表現できるものなのか~と感動する。さらに、バレンタインデーのエピソードのように、時系列をいろんな視点やいろんな単位で区切って展開する構成のおかげで読者側のストーリー把握するタイミングをうまくコントロールされるのが気持ちいい。ありがとうございますありがとうございます


この漫画はいまの自分がいまのタイミングで読んでるからこういう受け取り方なんだとおもうし、いま出会えてよかったとおもうけれど、10年後はどんな気持ちになるんだろうな。ともおもう。

どちらかというと、ひねくれた登場人物ばかりのひねくれた物語だとおもうので、お金も時間も健康も自由もあるからハマる気がする。生きることや生活に必死だったらすこし違う視点になるのか・・・そんな変化もまた楽しみな作品である。

そして私もまあまあひねくれてるし、ひねくれてる人が結構好きなのである。

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