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寒い

まだ学齢期に満たない頃、公園で遊んでいたらホームレスの人が汁粉のようなものを食べていた。レストランの入り口に飾ってある食品レプリカを食い入るように見つめていたら、いつの間にか迷子になっていた経験がある私は、おそらくその時も汁粉に釘付けになっていたのだと思う。ホームレスの人は「美味いぞ。食べるか。」と言って、汁粉のような食べ物を差し出してきた。「知らない人から話しかけられてもついていっちゃダメだ」と親からも幼稚園の先生からも散々言われていたことを思い出し、無言でその場を離れた。おじいさんは「なんだ食わないのか。美味いのに。」と淡々とした様子で、また食事に戻った。しばらくホームレスの人たちは公園で寝泊まりしていたようだが、いつの間にかいなくなっていた。その存在を露骨に嫌がる大人もいた。私は知らない人と話さないという約束を果たせた自負もありつつ、どうして公園に住んでいたのか、インスタントのカップ汁粉だったのだろうか、など疑問も残った。当時の自分の対応は賢明であったと今でも思うが、公園で生活している人々が追い出されたニュースを聞く度に、汁粉を差し出してきたおじいさんのことを思い出して胸が痛む。不快な思いをしたことがある人もいると思うので、一概に言えないが、ホームレスの人全員が悪さをするわけが無い。あのおじいさんは確かに変わってはいたけれど、色々な事情があって公園を転々としていたのだと今では思う。わざわざ寒い日に弱い立場の人たちの住処を、追いやらないでほしい。うわべだけのクリーンさ、みたいなものを目指しているのなら間違いだと思うし、開発のためだとしたら人の命の方が大事なので開発なんかしなくていいと思う。

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