忘れないという強さ(返校)

返校 言葉が消えた日を見た。ネタバレ感想。

1、ゲーム原作として

 舞台は台湾。時代は1960年代。白色テロをテーマにした今作だが、原作はインディーズゲームだ。ゲームの映画化で原作ファンが求めるものは、ゲームの要素をいかに映画内に組み込んでいるかだ。この映画、そこの組み込み方がめちゃくちゃ上手い。ゲーム時の横スクロールと近いカメラワーク、ペンダントやピアノなど原作の中のキーアイテムの登場、息を止めるというアクションを自然と入れ込んである演技…。見ながらゲームプレイ時の記憶が思い出されてにやにやしてしまった。後述するが本作はストーリーだけでも十分に見ごたえがあるため、ゲーム要素を組み込まなくても映画として完成することはできただろう。だが、そこにきちんとゲームを彷彿とさせる要素を取り入れ、散りばめてあるところに監督や制作陣の熱意を感じた。絶対ゲーム好きでしょ…と思ったら、ジョン・スー監督、返校のゲーム発売日に買ってるわ即クリアしてるわサイコブレイクとサイレントヒル好きだわで納得。ゲームが好きな人間が、好きなゲームを映画にしよう!と思って作ってくれたことがまず嬉しい。ありがたい。しかもそのゲーム要素が、映画に違和感無く溶け込んでいるところがまたすごい。ゲームと映画を上手にブレンドしてあるなと感じた。映画モンスターハンター見習ってくれないか?

2、演出について

 ホラー映画としてしっかり怖い!冒頭の体育館のシーンのような唐突さ、不可解さの怖がらせ方もあれば、息をひそめて化け物から隠れる緊張感、奇々怪々から必死に逃れる緊迫感まで味わえる。ストーリーが丁寧に描かれていたが、だからといってホラー要素をないがしろにせず、怖がらせるところはしっかり怖くてホラーとしても楽しめた。ペニーワイズがネタ化されていたように、ホラーって一周するとおもしろくなってしまうのでそこの塩梅が難しいのだが、雰囲気作りがとにかく上手いので興ざめすることなく、最後まで楽しめた。過去と現在を行き来するシーン切り替えも、明度彩度に差をつけていることですごく分かりやすかった。今こういう状況です!という説明はされすぎるとメタ的すぎて見る側が萎えるのだが、冒頭の時代背景の説明以外は本当に必要最低限の描写と台詞で、きちんと伝わるように作られていたのも感動した。私はゲームクリアまで9時間ほどかかったのだが、映画は約100分しかない。どこを切ってどこを残すのか、どこをどう伝えると視聴者にストレス無く伝わるのかしっかり考えてあるんだろうなと思った。(忌中が張り巡らされているシーンも、その前にきちんと忌中の説明を自然に挟んであり、メインの怖がらせたいシーンで解説を入れていない。ノイズがない)私が1番怖かったシーンは喉を掻っ切った後に首から本を出すところ、1番好きなシーンは二人で紙のピアノを弾くところです。あと、防空壕のシーン、完全にボルタンスキーじゃなかった?

3、ストーリーについて

 個人的には、歴史と政治に焦点を当てたことで、ゲーム以上にメッセージ性が強まっていると感じた。私は白色テロについても台湾の歴史についても何も知らなかったが、返校をきっかけに歴史の本を読んでいる。そういう、きっかけ造りもできる作品だと思う。ゲーム要素も、ホラー要素も、演出も、映画を構成する複数の要素がバランス良く配置されているが、どの入り口から入った人も台湾の歩んできた歴史を知りたくなる、いや「忘れてはいけないから、知りたい」と思えるストーリーだった。

 罪は消えない。これはこの世の一つの真理だ。時は巻き戻せないし、起こったことは無かったことにはできない。そんな中で人は、罪を犯しながら生きている。失敗も、間違いも、過ちもせずに生きていくことはできない。なのに、その罪は消えないのだ。それが辛くて苦しいこの世の真理だ。その真理にどう対処するか。蓋をしてなかったことにする、他人や環境のせいにする、自分の記憶から消す、いろんな方法があるが、罪と向き合うことはとても苦しいことだ。向き合ったところでその罪は消えないからだ。でも、それでも、自分が犯した罪を、自分が歩んできた道を、忘れてはいけない。目を背けてはいけない。それが痛いほどに伝わるストーリーだった。忘れたんじゃない、思い出したくないだけ。白色テロによる国民同士の監視と密告。揺らぐ時代の中、登場人物はみんな自分の守りたいものを守ることに必死だった。それ故に全員が罪を犯していた。この物語には悪人も善人もいないが、全員が何かしらの罪を抱えていた。そしてその罪は今を生きる私たちに地続きなのだ。台湾の歴史は変わらない。白色テロがあった事実も消えない。忘れてはいけない。「絶対に忘れません」という言葉をまっすぐファン・レイシンに伝えられるウェイ・ジョンティンの強さを私も持ちたい。

 

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