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#183 半流し漉き

『紙について楽しく学ぶラジオ/Rethink Paper Project』
このラジオは、「紙の歴史やニュースなどを楽しく学んで、これからの紙の価値を考えていこう」という番組です。
この番組は、清水紙工(株)の清水聡がお送りします。
よろしくお願いします。

溜め漉きと流し漉き

さて、前回は、手漉きの技法を2つ紹介してきました。
「溜め漉き」と「流し漉き」ですね。

一応簡単におさらいをしておきます。

日本に紙漉きの技術が伝わってきた当初は、紙漉き発祥の地・中国に倣って「溜め漉き」で漉かれていました。
日本製として最古の紙と言われている、正倉院に保管されている702年・戸籍断簡三点の用紙は、どれも「溜め漉き」で作られていることが確認されています。

中世になると、徐々に「流し漉き」の技法が確立していきます。
主な違いは、原料の処理方法、ネリ液の添加、それから、漉きあげる時の動作です。

「溜め漉き」のポイントは、原料の処理の時に、繊維を細かく切断すること、そしてそれをよく叩いて解すこと、でした。
これは、繊維の特性である、水中で沈もうとする「沈降性」と、水中で繊維同士が集まろうとする「凝集性」に対する対策として行われていました。

一方の「流し漉き」のポイントは、ネリ液を添加すること、それから、「化粧水」と「捨て水」です。
ネリ液を添加することで、繊維の分散が促されて、「溜め漉き」のように繊維を切断したりよく叩くといった重労働が改善されました。
古代の「溜め漉き」で漉かれた紙の楮の繊維長は5mm前後であるのに対し、中世の楮の繊維長は7~9mmで、当然古代のように刀で切断した跡もありません。
また、「化粧水」と「捨て水」をすることで、紙の表面は表裏共に繊維方向がほぼ同じになります。

半流し漉き

さて、ここからが、今回の話のポイントです。

あ、ちなみに、前回も今回も、『和紙の歴史 製法と原材料の変遷』という本を参考にしております。

この本の中で、著者の宍倉佐敏さんは、こう語っています。

「(壽岳文章氏の書籍の内容を引用して)我が国の抄紙法が奈良時代の溜め漉きから、一足飛びに現在の流し漉きに転換したように書かれている。現在、和紙に関係している多くの人々は、この文章を基礎として和紙の歴史的製法を論じている思うし、私もつい最近まで同様に論じてきた。
・・・中世和紙の料紙の中には表面と裏面の繊維の方向や、異物の混入量が異なるものがある。これは現在の流し漉きの工程にある「初水」又は「化粧水」は見られるが、最後の「捨て水」の工程が無く、最終は溜め漉き法と同じ脱水法を行ったと推定した。
・・・この様に中世の製紙技術は日々改善されていくが、製紙技術は複雑・多岐にわたるため、一朝一夕には改善できるものではなく、溜め漉き法から牛歩の如くゆっくりと長時間を経て工夫改良が続けられ、時には溜め漉き風の紙や用途によっては流し漉き風の紙を産するなど、多種多様の紙が存在した。
・・・この紙の製法が中世特有の漉き法と考え「半流し漉き」と称することとした。」

出典|『和紙の歴史 製法と原材料の変遷』 宍倉 佐敏 (著)

はい。
「溜め漉き」と「流し漉き」の定義を前回のように定義するとすれば、中世に漉かれていた紙は、その両方の特徴をグラデーションのようにもった「半流し漉き」なのだ、ということです。

例で挙げているのが、漉き初めの「化粧水」はするけど、漉き終わりの「捨て水」はせず、水が落ちていくのを待つという漉き方。
この紙の繊維を観察すると、「化粧水」をした面は繊維方向が一定なのに対して、反対面は「捨て水」をしていないので、繊維方向が一定でない、という現象が起こっていることが分かります。

この様に、中世は製紙技術の改善の過渡期であって、その技法こそが「半流し漉き」だ、という訳です。

面白いですよね。

まとめ

こういったモノづくりにしても、あるいは料理にしても、日本人は、日本風にアレンジを加えるのが、本当に上手だなぁと思いますが、今回のように、「半流し漉き」の時期の職人さんたちが、あーでもないこーでもないと考えながら技術改良をしている様子を思い浮かべると、ぐっとくるものがありました。

とにかく、現在のような「流し漉き」が完成するまでには、中世の紙漉き職人たちの創意工夫があったということです。

中国が発明した紙漉きにイノベーションを起こした日本独自の技法「流し漉き」。
日本の和紙は品質が高いと言われる理由の一つです。
その背景には、中世の紙漉き職人たちが生み出した技術の積み重ねがあった、というお話でした。

はい、という訳で、中世の紙漉きについて解説してきました。いかがだったでしょうか。
それでは、本日も最後までお付き合いいただき、ありがとうございました。

▼参考文献
『和紙の歴史 製法と原材料の変遷』 宍倉 佐敏 (著)

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