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他人の価値観で生きていく - 市長選挙に負けた自分の未熟さ

6月になった。そのことを「休業を延長します」という飲食店の方々のSNSで知った。こんな寂しい初夏のはじまりは、今まであっただろうか。

緊急事態宣言下の北海道。それでも、外にはおだやか風が吹いている。窓を開ければ、ステイホームの自室に爽やかな世界が微かに香る。庭を眺めると、いつのまにか盛大に育った草花がゆらゆらしている。なんだか君たち、楽しそうだね。

札幌に行くのは、自分の使っていない部屋を貸している家を失った方に、食料を届けることくらいだろうか。仕事をする以外は、長風呂をしたり、料理をつくったり、それはそれで平穏な日々なのかもしれない。

ごく限られた人にしか会っていないが、そのなかで、とても心温まる話を聞いた。そして、そいつのこと、いいやつだな〜〜と思ったんだ。本を読んだり、散歩しながら、なぜ「いいやつ」と思ったのか考えてみて気づいたことを、今日は書いてみたい。


いいやつの誕生


となりの地区で開業の控えた障がい者グループホームに、お手伝い(いや、わたしの悩みを聴いていただいているだけかもしれない……)をするためによく行く。となりの地区は、自分の中学校区でもある。そして、つくづく世間は狭いと思ったものだ。なぜなら、このグループホームをはじめようとしている方の義弟が、同級生だった。

その中学校には、自分の小学校と中学校近くの小学校の生徒が通うわけだけど、当時は一方の小学校の生徒が怖いと評判で、豊幌っ子は怯えながら進学した。そして、自分のクラスで最恐だったのが、その義理の弟さん(仮にSくんとしよう)だ笑

同窓会で、久しぶりSくんに会った。Sくんだけでなく、当時の怖かった組は、総じていいやつになっているのは、あるあるなのだろうか。そして、夜も深まったころ、Sくんに質問された。

直人は、政治家になって、何がしたいの?

酔いが回っていたせいもあるが、このタイミングでまさかのそもそも論に不意を突かれた。結果として、何も共感をしてもらえることが答えられなかったように思う。次の日の朝に相当、落ち込んだ。

最近、凝り固まっちゃってるんじゃないの俺? ということを、3夜連続の飲み会で感じて、ちょっぴり落ち込んで、胃もたれしています(二日酔いではないですっ 第2夜、同窓会にて。同級生と飲んでいて、「で、直人は何をしたいの?」と聞かれたとき、業...

Posted by 堀 直人 on Sunday, January 8, 2017

この長文の様子からも、ちょっぴりどころではないほど落ち込んでいることがわかる。で、最近、そのSくんからすると義理の姉(つまりSくんの兄の配偶者)から、こんな話を聞かされた。

同級生が市長選挙に出るから頼むって、Sは家族や親戚に言ってたよと言うのだ。

なんだ、その涙ちょちょ切れる話は〜〜〜〜!

これはいいやつだ、正真正銘のいいやつが俺のなかで爆誕した。彼に、彼の価値観で共感できる話ができなくて落ち込んだ4年前。それでも、彼は応援してくれたのだ。

それから、彼の気持ちを想像してみた。想像してみて、「(細かいことは抜きにして)ともだちが挑戦しているなら、応援するのが人情だろ」の仮説が生まれた。この価値観を超越した「人情」というものが、いいやつには必要なのではないのだろうか。


仕事のために暮らしを犠牲にして40年


思えば、わたしは情のない人間だ。そういう感情を、成し遂げたいことのために、犠牲にしてきたのだと思う。

ふりかえると、小5のとき、大ちゃんに遊ぶ約束をすっぽかされて、ひとりでファミスタをやっているときに「暇だな〜〜」と思って以来、暇と思ったことがない。高校生になり、漫画家になろうと思ってからは、夜通し漫画を書いては、学校で寝ていた。だって、長くても100年しか生きられないから。

19歳で彼女ができて、同棲をして、せっかく手に入れた暮らしも、27歳のときに失った。1ヶ月に数回しか会わなくなり、久しぶりに会うから料理を用意して待っていたら、もう行かないと言われた(フラれた)

それから以前にも増して、自分が実現しようとすることのために、生活をないがしろにするようになった。歯を磨かないとか、お前は毛沢東なのかと問い詰めたい。生きることのほとんどが仕事、だれかに会っても仕事、どこかに行っても仕事、残りは酒と少しの料理、これがわたしの暮らしのすべて。

29歳に起業して、出版社をつくった。旅をすることの選択肢を増やしたいという想いだけで、販売部数を拡大することに邁進した。34歳で選挙に立候補し、市議会議員になった。公平な未来の選択肢を増やしたい想いから、どうすれば江別市が存続していけるのか、冗談抜きにそのことばかり考えていた。なぜなら、選択肢が存在し、選択する裁量があるということが自由だから。その環境を用意するためには、どうすれば良いのか。

そんなことばかり考えていると、どうなるのか。

ゆるい集まり参加すると、焦ってくる。焦ってくると、正論を振りかざしてしまう。しかし、地域社会の集まりというのは、すべてが仕事ではない。であれば、合理性がものさしのすべてではない。だけど、責任を負わず楽しいことばかりが行われていると、じれったく思えてくる。遊びじゃないんだから。やがて、そう思うに至る。

ああ、これは「いやなやつ」だ。Sくんと真逆で、これじゃ義理も人情もないじゃないか……


自分の価値観が、他人の価値観を否定する


思うに、いやなやつである理由は、それだけではない。

29歳のときに起業して、より合目的的に生きようと思った。そのとき心がけていたのが、全肯定の姿勢である。ひとつは、「見方を変えれば、味方に変わる」よろしく、評価軸を変えて価値にする手法だ。もうひとつは、「受容はしないけど、認知はする」という、肯定に濃淡をつける手法。だけどそれは、自分の価値観を決して譲らず、判断を保留しているだけなんだ。

そう思うと、自分の価値観でしか判断できていないことばかりだった。この際だから言う。たとえば、JC(青年会議所)。今まで黙っていたけど、集まりのたび、JCソングを歌うのが恥ずかしかった。恥ずかしいことをさせるJCに、不服を抱いていた(ごめん!!)。なんで、恥ずかしいと思って歌えなくてごめんねと思えないのだろう。なぜそこで、他責になるのか。

どうも人前で大きな声を強制的に出すことに、抵抗がある(そのせいで、バイトをクビになったことも)。そういう意味では、消防団もそうだ。掛け声が苦手だ。その形式に、意味を見いだす努力をしていなかった。そう、形式的な動作を周囲と同じように執り行うことにも、臆してしまう。だから、議会の儀礼的なしきたりも照れくさかった。ふるまいや服装など、相応しくあろうとする素直さがなかった。どれも、自分の価値観で生きた結果だ。

自分の価値観を通すことが、他人の価値観を脅威に晒してしまう。なぜ、JCを大事にしている人、消防団を大事にしている人、議会を大事にしている人の価値観で、いろんな人が大事にしている価値観で生きられないのか。

政治家という仕事は、極めて幅広い人と関わる仕事だ。いろんな価値観の人がいる。その人の価値観になり世界を見てみないと、その人のことなんてわかるはずがない。政治家は、政策だけ考えていては、絵に描いた餅なんだ。

それもこれも、自分自身が暮らしを大事にしていないからなのだろう。仕事とは、いわば狩り。合理性を無視して、人情で狩りをしていては、全滅してしまう。しかし暮らしは、人情だ。外との争いは理がなければ滅亡するが、情がなければ内で争いになってしまう。そして、暮らしを仕事にさせていただいているのが、政治だ。人情がわからなくて、どうするんだ。


政治とは生活である


そう言った、政治家がいた。生活を知るということは、人情を知るということに他ならないのではないだろうか。そして、あらゆる他人の価値観で生きなければ、本当の意味の政治が務まらないのではないだろうか。法の理屈で動く行政と、個の感情で営まれる生活。この狭間に、自分の足場をしっかり組んで立たなければならない。

こう振り返ってみると、つくづく未熟だった。人情を知らない、他人の価値観で生きられない、これは端的に言うと幼稚ということである。

青年としての自分は死んだ。

その遺言として、20代の自分に言っておきたい。それでも、生かしていただいている。つらいことがいっぱいあるだろうけど、やまない雨はない。幸せになることを諦めないでくれ。

30代の自分には、自分の価値観を確立することは悪いことではない。しかし、それを振りかざしたら凶器になる。自分のなかで、大事に秘めておくに留めるのが良識だ。それに、自己に芯を持つことは重要。だけど、後生大事にしても仕方ないよ。変われない人間は、学べない人間。アップデートを怠らないで、あらゆることから勉強してほしい。

なんだか新米のおっさんから、若者に贈る言葉のようになっていて、やや恥ずかしい気持ちもあるが、これからいろんなおっさんたちが、君たちに頭ごなしに言ってくると思う。だけど、そのおっさんには、おっさんたちなりの背景がある。その世界観を共有することで、若者がおっさんと相互理解を育む導きの糸になればうれしい。

もしも、選挙に勝っていたら。人生にifはないから、どうなっていたかはわからない。だけど、本当の意味で人に感謝できず、カタチだけの謙虚を纏った、いやなやつになっていたんじゃないかな……

おひとりおひとりの想いを、託された21,438票を良い結果につなげられなかった。だから、負けてよかったとは言えない。だけど、未熟な自分に気づかせてくれたこのふるさとに感謝しながら、次回こそ、このご恩を返したい。

#あの失敗があったから

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