あたくしは「劇場版『RE:cycle of the PENGUINDRUM[後編]僕は君を愛してる』を観た(一部ネタバレあり感想)

>>輪る愛のかたち

 10年経って改めて観ても、名作だ。
 多分この先100年経っても、この作品はひとの心を動かすんじゃないかと思う。


 ……というわけで、輪るピングドラムの劇場版を観てきました。前編はタイミングがどうしても合わず、アマプラの力を借りて家で視聴済み。前編は「懐かしいな」という印象が強く、だからこそ、こんなに心に響くとは思っていませんでした。
 感想というか、私個人が強く感じたことを忘れたくなくて、ここに書き記している感じです。ポイントポイントしか書いていない感想ですが、ご容赦ください。なんならもう後半はポエムだ!!!!!

>>物語の続きであり、はじまり

 前編を観た方なら知っていると思うが、この劇場版は不思議な構成になっている。アニメ最終話の続きであり、劇場版のはじまり。アニメ最終話に出てきた少年の姿の高倉兄弟が、今度はすっかり忘れてしまった彼ら自身の話を読み返す流れで物語が進んでいく。アニメよりひとつ外のレイヤー。そこには桃果がいて、彼女の力で本編に「あの帽子」が登場したのが分かる。

 ちょっとびっくりしたのは、プリンチュペンギンの存在。可愛いキャラクターとして見ていたのがひっくり返るのは、凄かった。後編の、プリンチュペンギンが何なのか判明してからの演技は本当に良かった。

>>「恋」になる前に燃え尽きたもの

  後編、最初の方から涙腺にくるシーンが多く、上映時間の3分の2は泣いていたような気がするのだが、中でも一番心に突き刺さったのが、運命の乗り換えのシーンだった。
 魔法の呪文の代償で、その身を火に焼かれる苹果ちゃん。その火を肩代わりして消える道を選ぶ晶馬くん。火を受け取るときに、「愛してる」と彼は言い残す。このシーンが、作中で最も心にきた。私には大きな断絶に感じられたから。

 運命を乗り換えなかったら、変な話、きっと苹果ちゃんと晶馬くんは長く一緒にいたんじゃないかと思う。それが必ずしも恋愛的な意味かは解らないけれど、初めて自分自身を見つけてくれた晶馬のことを、苹果ちゃんは好いていた。これから時がもう少し流れれば、それは「恋」になったかもしれない(もうどこかは、なっていたかもしれない)。
 それが、ぷつんと、このシーンでちぎれる。
 火を受け取った彼は「愛してる」という。晶馬くんは両親の代わりとして、ただ罪滅ぼしのために身を差し出したわけではないと思う。この「愛してる」は、お礼なんじゃないか。荻野目 苹果という存在への感謝の言葉。互いに大切だったからこそ、ここで関係が切れる。多分恋にはなれなかったけど、愛にはなっていた。あそこでふたりは互いに大切なものを失っている。それがなんというか、とても悲劇的に感じられた。

>>陽毬のこころ

 後編の見どころのひとつに、陽毬ちゃんの話がある。陽毬自身の過去の境遇の話や、「運命の人」の話。陽毬は、どうしても倒れていることが多くて心情が語られにくかった。それが後編でぽつりぽつりと見えてくる。
 「幸せだね」と兄ふたりの前で笑う姿や、マフラーを渡して家を出ていく姿。冠葉から陽毬への想いの方が大きく取り扱われているが、もしかしたら、陽毬から晶馬への想いの方がそこまで表だって語られていないだけで、ずっとずっと重たいのかもしれない。家族がいた冠葉や晶馬とは違って、陽毬には晶馬しかいない時期があった。本当に、彼は「運命の人」だったんだろう。
 そんな「運命の人」と別れて行く先は冠葉のところ。何としても止めなくては、と決意する陽毬はすごく強くて、綺麗だった。

>>選びとる愛のかたち

 私の好きな漫画作品の台詞に「一緒にいられるなら恋人でも兄弟でも家族でもなんでもいい」というような意味のものがある。終盤、それを思い出した。自分たちの物語を読み終えて、役目に気づいた高倉兄弟たちが、「陽毬のお兄ちゃん」でいることを選んだから。本当は違うものも選べたかもしれないけれど、彼らはそうあることを望んだ。一度はばらばらになった関係性が、また、まあるく修復されていくみたいだった。

 陽毬は兄ふたりのことを覚えていない。覚えていなかったけど、確かに残っているものもある。最後に追加されたカットを見て、アニメよりもさらにハッピーエンドなんだろうなと感じた。だって、自由になった彼らはどこへでも行けるんだから、もう一度縁が交わることもあるだろう。

>>あれから約10年、何者かになれたのか?

 何かになれたひともいれば、何にもなれなかったひともいる。私は逆に、何か別のものにならなければ生きていけなくなったかもしれない。「何者かになれ」と圧をかけられて、そこから逃げたくて、自分じゃない自分になった。それがいいことなのか悪いことなのかは……まあ、どちらかといえば良い方に作用しているのかな。
 事実は輪るピングドラムより奇なりだったりするし、税金はハチャメチャに高いし、未知のウイルスがはびこって生きにくい社会だけど、前を向いて歩んでいかなければいけないと思う。そうしたら、どこかでご褒美にりんごがもらえるかもしれないから。

 10年後、また新たに運命を乗り換えて超スペシャルなハッピーエンドのルートを作ってくれてもいいと思う。観るたび発見がある素晴らしい作品に出逢えて良かった!! この先も、愛しています。

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