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『稲盛和夫一日一言』 4月5日

 こんにちは!『稲盛和夫一日一言』 4月5日(金)は、「いい仕事をするために」です。

ポイント:いい仕事をするためには、仕事と自分の距離をなくして、「自分は仕事、仕事は自分」というくらいの不可分の状態を経験してみることが必要。

 2001年発刊の『京セラフィロソフィを語るⅠ』(稲盛和夫著 京セラ経営研究課編/非売品)「真面目に一生懸命仕事に打ち込む」の項で、精進することの大切さについて、稲盛名誉会長は次のように述べられています。

 私は、「真面目に一生懸命仕事に打ち込む」ということを社員に強く訴えてきました。また同時に、「誰にも負けない努力をする」ということも説いています。

 仏教で悟りをひらくということは、心を高める、人間性を向上させる、心を美しくするといったことと同義です。つまり、人間性が高まっていく、心が美しくなっていく、その最終、最高のレベルを「悟りの境地」と言うわけです。
 その悟りをひらくための方法として、お釈迦様は「精進」ということを言われています。悟りをひらくためには、この精進をしなければならないと言っておられるわけです。

 精進するということは、真面目に一生懸命に努めることです。真面目に一生懸命に努めれば、その結果として報酬が得られるばかりではなく、その人の人間性が向上し、人格が高まり、心が美しくなるという第二の効果が得られます。

 世の中、特にものづくりの世界において、名人、達人と言われる人がいます。そう言われるような人は、生涯を通じ、真面目に一生懸命仕事に打ち込んできたからこそ、その領域にまで至ったわけです。しかし、ちょっと努力をしましたという程度では、そこまでなれるわけがありません。

 つまり、名人、達人とは、仕事ができるだけではなく、その人の心、精神状態が非常に崇高なところまで高まっている人たちなのです。良いものが作れるというだけでは、持っている技能が高いと言うことはできても、名人、達人とは言いません。技能ももちろん優れてはいるが、その人の持つ心の状態が作品にも反映し、人を感動させ、感銘を与える。それが、名人、達人です。それはまさに、真面目に一生懸命仕事に打ち込んでいなければできないものなのです。

 人格というものは、時々刻々と変化するものです。しかし、若いときから苦労を重ね、真面目に一生懸命働くことによってつくりあげられた人格というものは、晩年になってもそう簡単に変わってしまうものではありません。
 ですから、そのようなプロセスを経て人格をつくりあげた人をリーダーに選ぶべきだと私は考えています。

 真面目に一生懸命に仕事に打ち込むこと。それは自分の人格、自分の人生をつくりあげるためにも大変大事なことなのです。(要約)

 今日の一言には、「心と身体ごと、仕事の中に投げ込んでしまうほど、仕事を好きになってしまう。いわば、仕事と心中するくらいの深い愛情を持って働いてみないと、仕事の真髄をつかむことはできない」とあります。

 2012年発刊の『京セラものづくりの心得を語る』(伊藤謙介著 京セラ経営研究部編/非売品)の中で、陶芸家で人間国宝の濱田庄司氏のある言葉に感銘を受けられた伊藤元京セラ会長は、次のように述べられています。

 濱田庄司氏は、ものづくりの神髄とも言うべき次のような言葉を残されています。

 大皿一枚を流し掛けで装飾し、釉薬(ゆうやく)を施すのに、実際の作業には15秒以上はかかりません。それで多くの訪問客が尋ねます。
「(釉薬を施すのに)15秒しかかからないのに、あなたの作品はなぜそんなに高価なのか」と。(私は答えます。)皿をつくるのに、60年と15秒かかっているのです。 『 60年+(プラス)15秒 』
  
 
 素焼きの焼き物に釉薬をかける、いわゆる施釉(せゆう)という作業にかかる正味の時間は、わずか15秒ほどです。その後の工程は、窯に入れて焼くだけなのですが、焼き上がった大皿や壺などの作品は、数百万円といった高額で取引されています。

 生まれてから、さまざまなところで修行を繰り返しながらも、まさに陶芸一筋に生きてこられた濱田庄司その人の60年間の生き様というものが、わずか15秒間の施釉という作業に集約される。時間にしてみれば、ほんの一瞬のことでしかありませんが、そこにそれまでの全人生が集約される。

 濱田氏が「60年+15秒」と言われたのは、今までその人が生きてきた生き様というものが、一つひとつの作業のその一瞬に投影されるのだということを示されたかったのだと思います。
 これはまさに真理です。自分の生涯のすべてを込めてできたものだからこそ、その作品に価値が生まれるのです。
(要約)

 『 60年+15秒 』
 
私も、この言葉に惹かれて、京都にある大山崎山荘美術館まで濵田庄司氏の所蔵品を見に行きました。
 残念ながら、芸術作品の出来栄えを語れるほどの知識も見識も持ち合わせていませんが、展示されているいくつかの作品を見ながら、「精進する」「一瞬一瞬の作業に魂を込める」という言葉の持つ意味を考えてみる時間だけは持つことができました。

 「いい仕事」とは、決して自画自賛するものではなく、周囲や世の中が自然と評価してくれるものなのではないでしょうか。


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