『交響組曲「シェヘラザード」, Op 35』 リムスキー・コルサコフ

ハンス・シュミット=イッセルシュテット指揮 北ドイツ放送交響楽団 1959年5月16日~19日録音
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『シェヘラザード』(Шехераза́да)作品35は、1888年夏に完成されたニコライ・アンドレイェヴィチ・リムスキー=コルサコフ作曲の交響組曲。千夜一夜物語(アラビアンナイト)の語り手、シェヘラザード(シャハラザード、シェエラザード)の物語をテーマとしている。

概要
千夜一夜物語(アラビアンナイト)の語り手、シェヘラザード(シャハラザード、シェエラザード)の物語が発想の根源であり、シェヘラザードを象徴する独奏ヴァイオリンの主題が全楽章でみられる。しかし、各楽章に付けられていた標題は最終稿で取り去られた。純粋な交響的作品として聴いてもらう意図があったと考えられている。

作者の死後の1910年にミハイル・フォーキンの振付によってバレエ『シェヘラザード』が制作された。

日本での演奏会、録音媒体などでは「シェエラザード」と表記されることもある。

物語のあらすじ
シャフリアール王(Shahryār)は彼の一番目の妻の不貞を発見した怒りから、妻と相手の奴隷の首をはねて殺害する。 女性不信となった王は、街の生娘を宮殿に呼び一夜を過ごしては、翌朝には処刑していた。側近の大臣が困り果てていたとき、大臣の娘のシェヘラザードは王の愚行をやめさせるため王との結婚を志願する。

シェヘラザードは毎晩命がけで、王に興味深い物語を語る。そして物語が佳境に入った所で「続きはまた明日。」と話を打ち切る。

王は新しい話を望んでシェヘラザードを生かし続け、千と一夜の物語を語り終える頃には二人の間には子どもが産まれていた。王は自分とシェヘラザードの間に子供が出来たことを喜び、シェヘラザードを正妻にする。こうしてシェヘラザードは王の悪習を終わらせた。

作曲の経過と初演

「シェヘラザード」レオン・バクストによる。
『シェヘラザード』作曲の頃のリムスキー=コルサコフは、全生涯のうちで最も作曲意欲が湧き上がっていた時期にあり、この作品は『スペイン奇想曲』、『ロシアの復活祭』序曲といった彼の代表作に続いて1888年8月7日に完成したとみられ、同年中にサンクトペテルブルクの交響楽演奏会にて初演された。総譜は1889年に出版された。

日本での初演は1925年4月26日に歌舞伎座における「日露交歓交響管弦楽演奏会」にて、山田耕筰指揮の日露混成オーケストラによるものが初演と見られている。戦前期の日本では難曲とみられており、第二次世界大戦末期の満州でこの曲を指揮したことがある朝比奈隆によれば、当時としては「マーラー級の大曲」だったという。

演奏時間
約45分

楽器編成
木管楽器
ピッコロ
2 フルート(2ndは第2ピッコロの持ち替えを含む)
2 オーボエ
イングリッシュホルン(第2オーボエの持ち替え)
2 クラリネット
2 ファゴット
金管楽器
4 ホルン
2 トランペット
2 トロンボーン
バストロンボーン
チューバ
打楽器
ティンパニ
タンバリン
バスドラム
スネアドラム
シンバル
トライアングル
タムタム
ハープ
弦五部
第1ヴァイオリン(Solo, 6Soli, 2Soli含む)
第2ヴァイオリン(6Soli含む)
ヴィオラ
チェロ(Solo含む)
コントラバス(4Soli含む)
構成
第一楽章 (海とシンドバッドの船)
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第二楽章 (カランダール王子の物語)
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第三楽章 (若い王子と王女)
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第四楽章 (バグダッドの祭り。海。青銅の騎士の立つ岩での難破。)
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ヴァイオリン:
   ナウム・ブリンダー(Naoum Blinder)
指揮:ピエール・モントゥー
管弦楽:サンフランシスコ交響楽団
(録音時期:1942年3月)
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第1楽章《海とシンドバッドの船》(Largo e maestoso—Allegro non troppo)
ホ短調 - ホ長調
力強いユニゾンはシャリアール王の主題、ハープ伴奏の独奏ヴァイオリンがシェヘラザードの主題を示す。これらの序奏が終わったあとに主部となり、うねるような海の様子をよく表す伴奏音型にのって、海の主題、船の主題がつづく。シャリアール王とシェヘラザード王妃の主題が絡み合う。
第2楽章《カランダール王子の物語》(Lento—Andantino—Allegro molto—Con moto)
ロ短調
カランダールとは諸国行脚の苦行僧のこと。シェヘラザードの主題に始まり、ファゴットによる3/8拍子のメロディがカレンダー王の主題を示す。その後、中間部ではトロンボーンやトランペットの力強い響きが特徴的。そしてさまざまな主題が絡み合い、力強く激しく終わる。
第3楽章《若い王子と王女》(Andantino quasi allegretto—Pochissimo più mosso—Come prima—Pochissimo più animato)
ト長調
主部では歌謡的主題をヴァイオリンがゆったりと奏でる。中間部では独特な小太鼓のリズムに乗って、クラリネットが快活な舞曲風の王女の主題を奏する。シェヘラザードの主題を挟みながら、静かにやさしく終わる。
第4楽章《バグダッドの祭り。海。船は青銅の騎士のある岩で難破。終曲》(Allegro molto—Vivo—Allegro non troppo maestoso)
ホ短調 - ホ長調
1楽章のシャリアール王の主題がテンポ違いで示されたあとに、シェヘラザードの主題がそれを受けるところから始まる。主部となり、バグダッドの「祭り」の主題が6/16拍子で激しく奏でられる。前楽章の各主題も回想されつつ、徐々に曲は盛り上がっていく。その頂点で荒れ狂う波に呑まれる船の難破の場面に変わり、そして穏やかに波が引く描写となり「海」の主題を静かに再現、独奏ヴァイオリンのシェヘラザードの主題を奏して、消え行くように終結する。
代表的な録音
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エルネスト・アンセルメ指揮:スイス・ロマンド管弦楽団(1960年録音)
ヴァイオリン・ソロはローラン・フニヴ。
レオポルド・ストコフスキー指揮:ロンドン交響楽団(1964年録音)
ヴァイオリン・ソロはエリック・グリューエンバーグ。
ストコフスキーは都合5回この曲を録音しており、1975年録音のロイヤル・フィルハーモニー管弦楽団との演奏や1951年のフィルハーモニア管弦楽団との演奏、1934年のフィラデルフィア管弦楽団との演奏などがある。1975年のロイヤル・フィルハーモニー管弦楽団でのヴァイオリン・ソロは1964年のロンドン交響楽団との録音と同じくエリック・グリューエンバーグ。1951年のフィルハーモニア管弦楽団ではマヌーク・パリキアン、1934年のフィラデルフィア管弦楽団ではアレグザンダー ・ヒルスバーグがヴァイオリン・ソロを担当している。
ヘルベルト・フォン・カラヤン指揮:ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団(1967年録音)
ミシェル・シュヴァルベによるヴァイオリン・ソロ。
エフゲニー・スヴェトラーノフ指揮:ソヴィエト国立交響楽団(1969年録音)
ヴァイオリン・ソロはゲンリヒ・フリジゲイム。
他にロンドン交響楽団とのスタジオ録音・ライヴ録音(ともに1978年録音)がある。ヴァイオリン・ソロはジョン・ジョージアディス。
キリル・コンドラシン指揮:アムステルダム・コンセルトヘボウ管弦楽団(1979年録音)
メンゲルベルク時代から在団するヘルマン・クレバースがソロを担当。
セルジュ・チェリビダッケ指揮:ミュンヘン・フィルハーモニー管弦楽団(1984年録音)
ライヴを放送用に録音した音源。ヴァイオリン・ソロはヴェルナー・グローブホルツ。
チェリビダッケには、シュトゥットガルト放送交響楽団との放送用のライヴ音源(1982年録音)もある。シュトゥットガルト放送交響楽団とは、これとは別に1982年11月のスタジオでのカラー映像演奏記録もある。ヴァイオリン・ソロはどちらもハンス・カラフースが担当。
ウラジミール・フェドセーエフ指揮:モスクワ放送交響楽団(1994年録音)
ヴァイオリン・ソロは木野雅之。
ヴァレリー・ゲルギエフ指揮: キーロフ歌劇場管弦楽団(2001年録音)
ヴァイオリン・ソロはセルゲイ・レヴェーチン。
バレエ『シェヘラザード』
詳細は「バレエ・リュス」および「ru:Шехеразада (балет)」を参照

ミハイル・フォーキンとベラ・フォーキナによる『シェヘラザード』(1914年)
本作はロシアの「バレエ・リュス」の振付師、ミハイル・フォーキンとレオン・バクストの振付によって同名のバレエ作品に使用されている。1910年にパリのオペラ座で初演された。バレエでの使用は作者の未亡人ナジェージダ・リムスカヤ=コルサコヴァを始め遺族の批判を受けたが、「バレエ・リュス」の芸術活動が評価されると、その代表作品であるバレエ『シェヘラザード』もロシア本国でも受け入れられるようになり、その後ボリショイバレエやマリインスキー・バレエなどロシアのバレエ団でも上演されている。

バレエ『シェヘラザード』は『千夜一夜物語』の冒頭、シェヘラザードが夜伽の際に物語を話すきっかけになった事件を題材にしたもので(詳細は千夜一夜物語のあらすじ #シャハリヤール王と弟シャハザマーン王との物語を参照 )脚本はアレクサンドル・ベノワが、衣装と美術はレオン・バクストが手掛けた。初演時の指揮はニコライ・チェレプニン、主な出演者はイダ・ルビンシュタイン、ヴァーツラフ・ニジンスキーである。

バレエの日本初演は1946年10月14日帝国劇場において、東京バレエ団により行われた。出演は貝谷八百子、東勇作、小牧正英、藤田繁、深沢秀嘉、演出・振付は小牧正英、美術は真木小太郎、衣裳は吉村倭一、照明は橋本義雄、管弦楽は東宝交響楽団、指揮は上田仁、舞台監督は矢沢寛之と長嶺明であった[1][2]。

バレエ『シェヘラザード』あらすじ
シャハリヤール王が狩りで城を留守にしている最中に、彼の愛妾ゾベイダを含む後宮の女奴隷たちは看守のユーマクを買収し、男奴隷部屋のカギを入手する。女奴隷たちは男奴隷たちを解放し、彼らとの逢瀬を楽しむ。ゾベイダもまた「金の奴隷」との逢瀬を楽しむ。そこへ王が帰還。後宮の女たちの不義密通が露見してしまう。王はあらかじめ弟から女たちの留守を利用した不貞の可能性を警告を受けており、今回の狩りでの外出はそれを調べるためのものであった。王は「金の奴隷」を含む男奴隷を皆殺しにする。ゾベイダは悲嘆のあまり短剣で自殺。愛妾の自殺に王は深く悲しむのであった。

出典
^ 小牧正英『バレエと私の戦後史』(1977年、毎日新聞社)pp59-60
^ 西宮安一郎編『モダンダンス江口隆哉と芸術年代史 : 自1900年(明治33年)至1978年(昭和53年)』 (東京新聞出版局, 1989.11) p370

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