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中央アジアの猫

先日までカザフスタンとキルギスタンを旅していたので、そこで出会った猫たちの魅力を話そうと思う。


カザフ、キルギスの街を歩くと至る所で野良犬、野良猫を見かける。野良犬は道端で寝転んでいるか、ごみを漁っている。野良猫は軽やかに歩いているか、高いところに座っている。誰も彼らを気にかけない。日本であれば、姿勢は低く声は高くという暗黙の戒律を守った老若男女が、見開いた瞳孔を猫から一切離さずにゆっくりと、そしてどこまでも追いかけまわしているところだ。

私が関係をもった猫は主に滞在先のホステルで半分飼われている状態の猫たちだった。

一匹目は老いたサビ猫。

カザフスタンのアルマトイのホステルに滞在していた時のこと。

彼はホステルの中庭にあるベンチにいつも座り込んでいる。テーブルと彼が座るベンチの間を、彼にぶつかりながらカニ歩きで通っても、そして横に座っても彼は動じない。ちょうど中庭の木に成っていた洋梨とおなじ色をした目を、こちらに少し向けるだけだった。

軽く握った指の背を近づけると匂いを嗅ぎにくる。そしてザラザラの舌で指の背を舐め始めた。暫く舐めさせていると、指がヒリついて来るので手を離し、お礼に首辺りを撫でてやる。すると頭をもたげて擦り寄ってくる。頭を撫でられるのが好きらしいので要望に応える。

少しの間そうしていると、今度は私の腕を舐めてくる。お礼をしなければ気が済まない律儀な性格らしい。お互い順番交代でグルーミングした。

中庭のベンチに座りに来る度に同じことをしていたので、私はそのベンチの常連になった。

口数の少ない彼と交代でグルーミングする日々だった。


2匹目は、若い黒猫。

キルギスの首都、ビシュケクのホステルに滞在した時のこと。

純白を思わせる清楚な顔立ちの黒猫が、その小さくしなやかな身体をキッチンの窓枠に収めてこちらを見ていた。

猫を飼ったことがない私の想像する「猫」とは、まさにこの子だ。撫でられるのは好きだが、いきなり腕に飛びかかってきたと思えばなにかに向けて走り出すこともある。少なくない数の人間が、来世で生まれ変わることを希望するタイプの猫だ。

ある夜その子が私の寝ているベッドに登ってきた。走り回ってきたのか、私の足元で息を切らして寝転がった。何度か体勢を直した後目を閉じた。

赤い布と青い布の境界でうずくまっているのが黒猫で、その上下の黒い塊は猫ではなく私の脚であることに注意

10分程そうして寝た後、ゆっくりと目を開けあくびをし、伸びをしてから周りを見渡した。頭を撫でようと私が手を伸ばすと、寝転んだままその手を、両手の肉球で捕まえてきた。その頃にはもう目は見開いていて、動くものは全てその子の興味をそそるものとして映っていた。

その目をしている時のその子は、とにかく手に飛びかかってくる。甘噛みをする歯は鋭く、加減を誤り強く噛めば簡単に肉を突き破るだろう。爪も常に完全にしまわれている訳ではなく多少とび出ているので、遊び終わる頃には私の腕は、授業でドッチボールを早くしたくてたまらない小学生が引いた白線のような白い跡が沢山残っていた。

たくさん遊んでやるとその分懐いて甘えてくる、とても愛嬌のある子だった。

ホステルを発つ日の朝、この子が胸に飛び乗ってきた衝撃で早めに起きてしまった。


以上、私がカザフスタンとキルギスタンに行った際に出会って猫たちでした。ホステルには必ずと言っていいほど猫がいますが、聞いたところによるとそれらは野良猫を餌付けたものらしいです。

カザフスタンやキルギスタンに行く機会があれば、看板猫を目当てにホステル巡りをしてみるのも面白いかもしれません。

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