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裕太のこと

「無事出産。男の子。高齢ママ頑張る。肉送れ。」
久しぶりのLINEの差し出し人は、愛想のかけらもない箇条書きの報告をくれた。
もう20年前にさっさと旅に出た友人。その妹は埼玉で二人の子のママだったけど、どうやら無事に三人の子のママにクラスアップしたらしい。
天気も良くて、なんとなく嬉しくて、報告ついでに長らく行ってない彼の墓参りに、半休とって行くことにした。
少しだけサボりたい気分だったし。

小学4年の頃、裕太が転校してきた。
おとなしくて、あんまり喋らないから、たまに授業なんかで喋ると
「裕太が喋った!」
とみんなが囃し立てる。そんな感じの子だった。
「お前、近所なんだから一緒に帰ってやれ」
と先生に言われ、押し付けられたような気持ちと、子分が出来たようなちょっと満更でもない感覚。
それでもやっぱり半ば義務的に、どこかぎこちなく僕らは一緒に帰りはじめた。

ある時、ちょっとしたイタズラ心が芽生え
「ねえ、なんであんまり喋らんと?」
と裕太に聞いたら、困ったように笑うだけで、それがなんだか寂しそうにも見えた。
ひどく悪い事をしたような、申し訳ない気持ちになって、だけどそこは小学生男子。
謝るのはハードルが高い。
だからその日、他のヤツにも教えてない僕だけの大事な秘密基地に裕太を初めて連れて行った。
単純な事だけど、単純な僕らは、こんな単純なことで、単純に仲良くなった。

裕太の家は、お母さんと妹の3人暮らし。
お父さんはいない。
お父さんがいない理由は、子供心に聞いてはいけないような気がして、聞かなかった。
お母さんはうどん屋さんで遅くまで働いてて、だから裕太は小学生のくせに、自分でうまかっちゃんを作れた。
コンロを使える事に、僕は恐れおののいた。

妹の分と僕の分、3人分を手際よく作る裕太は、僕にはひどく大人に映って、どこか頼もしくもあって、うまかっちゃんも美味しくて、僕らの秘密基地第二支部に、僕は心の中で裕太の家を策定した。
裕太の家には、おばちゃんがお店で貰ってきた漫画が沢山あって、中でも大長編ドラえもんが揃ってるのが僕にはなにより魅力的だった。
男銀次郎にリングにかけろ、Dr.スランプからドラゴンボール。
世代もバラバラなマンガ英才教育が裕太の家だとお手軽に受ける事が出来た。
僕は自分のファミコンも持ち込んで、毎日のように裕太の家に入り浸った。

おばちゃんが休みの日は、お昼ご飯を作ってくれる。
オムライスが美味しくて、いつもニコニコしてて、
「おばちゃん、うちの鬼ババと代わってよ」
と僕が言ったら
「お母さんの事をそんなん言うたらいけんよ」
と、やっぱり裕太と同じように困った顔で笑ってたので、あぁ裕太はおばちゃん似なんだなぁと思った。


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