アラブのおっちゃん
アラブのおっちゃんいつだって、錆びた自転車乗ってくる。
ガタガタリンリンカシャカシャと、音が鳴り鳴り歌うたい、近くに来たなとわかるんだ。
アラブのおっちゃん歯が抜けて、すっぽりタバコが嵌まるから、自転車乗り乗りタバコ吸う。
吸って歌って、歌って吸って。
歌はいっつも銭形平次。
アラブのおっちゃん頭には、タオルがいつも巻かれてて、見ようによってはターバンだ。
多分相当臭うけど、大事な大事なターバンだ。
アラブのおっちゃん、ちょくちょくと僕らの基地に入っては、勝手にマンガを読んでいる。
たまに手品をするけれど、ハトも出ないし、旗も出さない。横じまハンカチ縦じまに。
拍手を常に欲しがって、むやみやたらに貪欲だ。
近所の大人のほとんどが、アラブのおっちゃん笑ってる。だけどおっちゃん気にしない。
「笑われるんがおっちゃんは、一番気分が良いきのう。」
ターバン整えニヤけては、ガタガタリンリンカシャカシャと、タバコ挟んでどっか行く。
アラブのおっちゃんお参りを神社で毎日欠かさない。
その時だけは真剣で、神様いつかばあちゃんが、どうか歩けますように、必死必死にお参りしてる。
この時声をかけたなら、鬼の顔して追いかけられる。
おっちゃん機嫌が良い時は、たまにお駄賃くれるけど、だいたい2枚の5円チョコ。
それでも僕らは嬉しくて、前見たテレビの大富豪、アラブの人とおんなじに、アラブのおっちゃん呼んでいる。
アラブのおっちゃんいなくなり、秘密基地にも神社にも、ガタガタリンリンカシャカシャと、うるさい音がなくなった。
「ありゃあ精神病院入ったき。お前ら言うたらいかんぞ」
と、近所のおっさん達が言う。
チョコのお礼は出来なくて、ばあちゃん歩けてないままで、代わりに僕らは何日か、神社でお参りしてたけど、そのうちそれも忘れてく。
僕はもう、おっちゃんよりも歳とって、残念ながら大金も手品のネタも持ってない。
自分のお金で5円チョコ、買えるけれども買ってない。そもそもあんまり売ってない。
多分あってももう買わない。
貰えることが楽しみで、あげられるから嬉しんだ。
それでもまあまあ毎日は、それなりだけど楽しくて、しょっちゅうみんなに笑われながら、ボチボチ元気でやってるよ。
笑ってくれると気分が良いと、歳をとったらよくわかる。
おっちゃんだから、よくわかる。
今日もアラブのおっちゃんは、錆びた自転車またがって、どこか神社に行きながら、ガタガタリンリンカシャカシャと、タバコ挟んで歌ってる。
遠く遠くの灯りの先で、声高らかに歌ってる。
歌はきまって銭形平次。
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