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インフューズドコーヒーの問題点とは?②(Perfect Daily Grind)

こんにちは、ROUTEMAP COFFEE ROASTERSです。

この記事は、『インフューズドコーヒーの問題点とは?②(Perfect Daily Grind)』の続きになります。ご覧いただいてない方は、下のリンクからどうぞ☺︎


4)他風味インフューズドコーヒーの出現

2019年、Sestic氏はエクアドルで開催された「La Loja competition」の審査に招かれました。彼は第1ラウンドで、あるテーブルをカッピングしているときに、トロピカルフルーツの強烈な香りがする、あるコーヒーを見つけました。

そのコーヒーを試飲してみると、このトロピカルな香りがカップの味わいを完全に支配していました。審査員たちは「生豆の素材そのものでこの味が出せるかどうかを確認してみよう」と提案。そしていくつかのテストを行い、その結果、明らかに人工的にフレーバーが注入されたものであると判断し、そのカップは競技会では失格としました。

翌日、そのコーヒーの生産者に話を聞いてみたところ、CMプロセスを使用しているが、発酵中と発酵後に地元産トロピカルフルーツのフレーバーを加えているとのことだったそう。実際に試飲させてもらい、その味はとても美味しく、コンペティションで提供されていたコーヒーと同じ味がしたそうです。

しかし、数週間後のイタリアのブリューワーズ・カップで、このコーヒーを使用した競技者が優勝しました。なんと驚くべきことに、このコーヒーを使用した競技者自身、このコーヒーがインフュージョンされていることを知らないままだったのです。

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それからしばらくして、Sestic氏にCup of Excellence(各生産国で行われる最も有名なコーヒー豆の審査会、またはその組織)から何度か、同じように強くて変わった味のコロンビア産のコーヒーについて連絡がありました。

彼が実際に試飲してみると、ローズウォーターと赤い果実の独特の香りがして驚いたといいます。

そのコーヒーの生産者の説明によると、「チェリーを18℃で48時間嫌気的に発酵させた」とのこと。その後、「デパルプ(チェリーの果肉を取り除く工程)して、2段階目の嫌気性発酵を18℃で96時間ミューシレージ(果肉と種の間にある、糖分や酸味成分を含む粘液質の薄い膜)の状態で開始した」そうです。

その後、コーヒーに“thermal shock”…熱によるカロリーを与えたと説明してくれました。「40℃の水でパーチメントを洗い、さらに12℃の水でもう一度洗ってから乾燥させるというプロセス」を話してくれました。

しかしこれらの説明だけでは、このトロピカルなフレーバーを生豆本来の成分から発生させる根拠にはならないと、Sestic氏は思いました。なぜなら、彼がコロンビアの同じ地域の農園で何百回も実験した結果から、発酵だけではこのような濃厚な味わいは得られないと思ったからだそうです。

もちろん、彼は自身の意見だけに頼るつもりはなく、それを確かめるために、このコーヒーをヨーロッパの研究機関に送って検査してもらいました。その結果、このコーヒーにはエッセンシャルオイル(精油)が注入されていることが判明したのです。


5)インフューズドコーヒーの問題点とは?

一般消費者には問題はありませんが、世界コーヒー選手権のルールでは、収穫から抽出までの間に添加物、香料、着色料、香水、芳香剤などが加えられたコーヒーを使用してはならないと定められています。

競技者は、失格にならないように生産者から情報を得て、それを確認する必要があります。Sestic氏がアムステルダムとボストンで話を聞いた競技者の2人は、自分たちのロットが100%非加工であることに自信を持っていました。

しかし、非加工であれば、これほど強いシナモンの香りが出るはずがないと彼は述べています。

「コーヒーにはシナモンやローズの香りが現れることがありますが、これほどまでに強い香りは、天然のものである可能性は極めて低いと思うのです。」

最近では、Cup of Excellenceや国内のブリューワーズカップ、バリスタコンペティションなどの権威ある大会で、変わった風味のコーヒーが優勝する傾向も見られています。

Sestic氏は近年のこのような競技会の様子から、「コーヒーのコンペティションは今後どうなるのだろう」と考えました。

このようなインフューズドコーヒーを使用する競技者が増えてきたらどうなのか?

これは私たちの業界に、どのような影響を与えるのだろうか?

「問題は、このようなコーヒーが作られることではありません」と彼は言います。

「エッセンシャルオイルやシナモンスティックを使ってコーヒーに香りをつけることに問題はありません。世界の多くの市場で、このようなコーヒー(おそらくシアトルコーヒーチェーン発祥のフレーバーコーヒーなど)は多くの消費者から人気があるでしょう。問題は生産における透明性です。」

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彼がこの記事を書いている時点では、チャンピオンシップの競合他社は、これらのコーヒーを実験的に発酵させたロットであるかのように装い、購入することができます。ですがそれらは実際にはフレーバーを人工的にインフュージョンされています。

その結果、生産者の信頼性が低下し、競技者がそれを認識しないまま使用し、失格になってしまうこともあるのです。

一方で、インフューズドコーヒーの透明性が向上している地域もあります。

私が昨年カッピングしたCoffeeenetのシナモンコーヒーはとても美味しく、シナモンが入っていることを事前に教えてくれました。

(この透明性において、僕自身知り合いのコーヒー生産組合の人に現地での精製の様子を見せてもらったことがあります。彼も昨今のインフューズドプロセスについて、「情報を共有し、サプライヤーとコンシューマーでしっかり理解をすることが重要」であると、僕に話してくれました)


6)まとめ/Sasa Sestic氏の見解

5)の問題点を説明し、Sestic氏は今後のコーヒーの生産について「過酷な環境でコーヒーを栽培し、希少で高価な品種を栽培している農家が、このようなインフューズドコーヒーのために将来的に損失を被る可能性がある。」と懸念し、さらに以下のように述べています。

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「エスプレッソを完璧に抽出する方法を理解していても、アロマやフレーバーで完璧なスコアを出すインフューズドコーヒーに負けてしまうブリュワーやバリスタもいます。

私が2015年に出場して以来、世界中の農園・生産者が加工方法を革新してきました。しかし、透明性がなければ、次の世代が今やっていることからインスピレーションを得ることができないと思います。

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(出典:Perfect Daily Grind/What’s the problem with infused coffees?

この記事を書いている時点では、審査員はコーヒーがインフューズドされているかどうかを簡単に把握することがまだ困難な状況です。これは将来的に大きな課題になるかもしれません。

次世代のコーヒー業界は、今日のチャンピオンやアンバサダーを見ていることを忘れてはなりません。

私たちには、次世代のコーヒー業界を担う彼らに情報を提供し、教育し、刺激を与え、コーヒー業界全体を改善するためのツールを残す義務があります。

だからこそ、私たちは意識を高め、これらのインフューズドコーヒーについて議論を始める必要があるのです。」

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7)まとめ/Keisukeの個人的な見解

現在、自分の店ROUTEMAP COFFEE ROASTERSで扱うコーヒー豆は、「ウォッシュトプロセス」で処理が行われたロットのみを置いています。

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クリアで甘い特徴、毎日飲みたい味わい、そして農家が負担する生産、維持のコストが比較的軽く、小規模農園向けである精製方法や毎年安定したクオリティで生産されることなどなど…

ウォッシュトを提供する理由は色々あるのですが、Sestic氏が言う「情報の透明性」という点においても、その理由のうちのひとつとして挙げています。

ナチュラルやハニーなど、チェリーの素材そのものを特徴として強くフレーバーに反映される精製方法に比べ、ウォッシュトで精製されたコーヒーは、豆の見た目、味、風味など、少なくとも従来のものと比べて違和感を感じたときに見分けられる判断材料が多くあります。

そのため、他の製法のコーヒー豆と比べて確実にウォッシュトプロセスと言えるコーヒーを、お客様に提供することができます。

(正直なところクリアな質感とプロセス由来のまろやかな優しい甘味が個人的に大好きだというのが一番の理由です…笑)


ですが、もちろんアナエロビックやハニー、ダブルファーメンテーションなど、革新的な精製プロセスを否定するということでは全くありません。

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(ペルーの生産協同組合の知人に見せてもらった精製の様子。ラクティックプロセスで搾汁されたフレッシュなコーヒーチェリーのジュースを、また別の発酵槽に移し、別ロットで収穫されたチェリーに浸漬する工程を見せてくれました)


前提としてコーヒーは、「自由に楽しむもの」であって欲しいと個人的に思っています。

生産地域ごとの条件に見合った適切なプロセス、それまで伝統的に行われてきたプロセスなど、生産の情報がしっかり開示されているコーヒー豆もたくさん流通されているし、気候変動により栽培条件がだんだん不利になっていく中、どうにか高いクオリティのコーヒーを生産するために、トレーニングを受けながら精製を工夫する農園もある。

つまりウォッシュト以外の製法をすべて否定しまうことは、コーヒーそのものを否定してしまうこととほぼ同義になります。

先ほど述べたように、自分がコーヒーと向き合ったときや、お店ごとで、それぞれの「コンセプト」というものがもちろんあると思います。

自分が体験した感動を多くの人に知ってもらいたい、生産者の背景、ストーリーを伝えたい、いろんな種類のコーヒーを楽しんでもらいたい、などといった、それこそ品質や技術以外でコーヒーの「背景」の部分で思うところは、コーヒーに携わる人なら必ずあるはずです。

そのコンセプトを一貫しながら店に立つ以上、それを求めてくるお客さんもいます。需要と供給のバランスが取れているのであれば、商売として成り立っていると言えますし、サプライチェーンに携わる人たちにそのコンセプトごとで通じる部分へ還元することができます。

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しかし、「コーヒーのサプライチェーン上に携わる誰かが、競争において不利な立場になる」ような手段は、決して評価されるべきではないと日頃から強く思います。

「自由であること」を履き違えてしまった、なんでもありな方法が消費国でトレンドとなり、その製品にばかり需要が集中し注目されていく。

そうなると、その製法で生産されたコーヒーに高い価値がつき、今回の「インフューズドコーヒー」の問題が起きてしまったり、情報の透明性、信憑性にまで影響が大きく及んでしまう。

そして、毎年懸命に管理して安定した品質を生産しているコーヒーへの需要が、次第になくなってしまう…というのはまだあくまでも極端な例ではありますが、現に生産が立ち行かなくなり、良い品質のものを生産していても経営が成り立たない小規模農園が実際にはいくつもあります。

Sestic氏や、コーヒー生産組合の知人が言うように、「情報を共有し理解すること」、そして「透明性を提示していくこと」が、消費者にコーヒーを提供する上で最も重要なことであると考えます。コーヒーの将来を発展していくために、プロとしての立場にいる我々が、その都度議論していく必要があるのです。

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①に続き、少々長い内容になってしまいましたが、いかがでしたでしょうか?

ここまで読んでくださって、本当にありがとうございます。


インフューズドコーヒーの話題はコーヒー業界で大きく波紋が広がり、コーヒー業界にいる多くの方々によって情報が発信されていると思います。(しかもとてもわかりやすく解説してくれています!笑)

探してみるとたくさん出てくると思いますので、ぜひいろいろな情報を見比べてみてくださいね。生産面を知るようになると、コーヒーに対する視野が広がり、いつもの1杯に、より深みが出てくると思います🍀

③ではSestic氏による「インフューズドコーヒーの見分け方」について解説していますので、興味のある方はぜひ読んでみてください!


Keisuke

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