見出し画像

海外のコワーキングスペース事情を聞きながら考える、coworkingの本質と価値

年明け早々、ベルリンからCoworkiesの2人が来日してくれた。

Coworkiesはベルリンを拠点に活動する世界最大級のコワーキングスペース専門コミュニティー兼メディアで、世界中のコワーキングスペースを実際に訪れ取材したり、各コワーキングスペースのネットワークを組んだり、さらにはコワーキングスペース利用者同士での仕事のマッチングなども行っている。
これまで世界47都市420箇所以上を訪れているという行動力は本当にすごい。

中心メンバーは、広告代理店出身でコワーキングスペースを運営していたフランス人女性のPauline。そしてベンチャー支援ファンドで働いていた経験もあり、Webデザイナー、グラフィックデザイナーとしての顔も持つブルガリア人男性のDimitar。

元運営メンバーの葉ちゃんの紹介で1年半前に森のオフィス訪れてくれた彼らとは、その後もよくやりとりしていて、今年は日本で大きなプロジェクトを共同で開催することになった。(プロジェクトは詳細が決まり次第書きたいが、東京と富士見の両方で展開される予定)

まるまる2週間ほど一緒に過ごしたが、最初の1週間は富士見町に滞在し、集中的なブレストと企画書への落とし込みをしながら、日毎に企画を固める作業。
次の1週間は一緒に東京でいろいろな会社を回りながら企画に協力してくれそうな人や企業を探して回る作業。

その間はずっと英語だったが、プロセスも英語になると少しずつ変わる気がする。

日本での進め方、日本の企業との交渉の仕方はこれで問題ないか?確認されるたびに、同じことを英語で言う時と、日本語で言う時とで性格や態度も変わるのは、言語が持つ文法が関わっているのか?それとも言語が作られた文化的背景があるのか?と考えてしまう。

同じ英語を話していても、フランス人のPaulineの感覚と、ブルガリア人のDimitarの感覚やニュアンスは少し違ってくる。
さらに他の国の人ならこういうだろうという彼らの話を聞いていると、自分の英語での性格はアメリカ人的で、ヨーロッパ的感覚とはまた違うのだなと感じる。


- So what is coworking space anyway? -

一緒に様々なコワーキングスペースを回ったり、仕事の後に飲みに行ったりしながら、海外のコワーキングスペースの話や、それらの運営の苦労話で盛り上がった。
その最中によく話題にあがり、尚且つ、訪れた各地のコワーキングスペース運営者から最もよく聞かれた質問でもあった話題の一つが、

「コワーキングスペースをビジネスとして見るとなかなか儲からないんだけど、海外ではどうなんですか?」
「コワーキングスペースを運営している価値を、自社でなかなか活かせていないように思えるんだけど、海外ではどうしているんですか?」

これに対し、彼らの答えはこうだ。

“Coworking space is not a profitable business."
コワーキングスペースは、収益性のあるビジネスではない。
Break evenになることはあるが、高収益なものにはならない。
スペース利用料や賃料で稼ごうとするのであれば、それは不動産ビジネスであり、別物である。

仕事でご一緒させてもらっていた、ある大手不動産会社の役員がよく口にしていた言葉を思い出す。

「津田さん、不動産を長年やってきた者からするとね、コワーキングスペースなんて儲からないのは明白なんですよ。普通にテナントにフロア貸ししてる方が絶対儲かるし楽なんだから。Weworkのやり方なんていまにダメになるのも分かりきってるし。でも、ずっとこのまま不動産ビジネスという昔ながらの業態を続けていくわけにもいかないのも分かっている。コワーキングスペースはその変化のきっかけを探す事業だと思っている。」(ちなみにweworkのくだりは今から2年前の話)

確かに数年の賃貸契約をベースにある程度の面積を貸し出すだけで、大して人も介在しない賃貸不動産ビジネスの方が、いつでも解約できたり、都度利用ごとの料金や、運営という面倒な形態を取るコワーキングスペースよりも当然儲かりやすいだろう。

ではコワーキングスペースビジネスとは何なのか?

彼らと過ごしながら話す中、改めて自分の中でも認識できたのは、コワーキングスペースビジネスとはすなわちCultural businessであり、コミュニティーと文化を作り育てる上で成り立つビジネスである。
Coworkは文字通り協働であるが、coworkingは、個人(もちろん法人も)同士が知り合い、自分たち自身の仕事だけでなく、一緒に仕事をしたり助けたり助けられたりする機会を作り出すことである。
そのような文化、あるいはコミュニティーを作り大きくしていく中で、運営側もそこから派生するビジネスを、一緒に作っていかなければならない。

東京に数百以上のコワーキングスペースがあり、大手企業も参入している中、会員料金をベースにした「コワーキングスペース事業」と、その他の事業を分離させている形では、その会社にとってコワーキングスペースは赤字にしかならないだろう。
しかし、スペースではなく人にフォーカスしてみよう。コワーキングスペースを利用する人や訪れる人の幅が広がれば広がるほど、その場所に持ち込まれるものの幅も広くなる。
その中には、誰かと一緒に事業を立ち上げたい人もいるかもしれないし、いま取り組んでいる仕事の解決策が見つからない人もいるかもしれない。仕事の話ではなく、もっと個人的な課題や、もっと大きな社会的な課題について誰かと話したい人もいるかもしれない。

もし運営している人が、利用者のこと(属性や職業など)をまったく把握していなければ、これらの“持ち込み物”の助けにはならないが、もし把握していれば、協力したり解決したりする人を紹介できるだろう。
もし自分自身も解決や協力できるスキルを持っていれば、さらに押し進めることもできるだろう。
そして、もし運営者自身が抱えている仕事や事業で助けが必要であれば、相談相手にも困らないはずだ。

この過程で、予期せぬビジネスが生まれる。
最初はビジネスと呼ぶには小さなことや、お遊びみたいなことだったりもするかもしれないが、大きくなればやがて新規事業となるかもしれないし、自分たちがそれまでやっていたこととはまったく違うジャンルのビジネスになるかもしれない。

前に書いた不動産ビジネスのように、これまでと同じのままでよければそれでも良いだろう。しかし不確実な世界が増す中で、もし自身の変化の可能性や兆しに少しでも触れようと思うのであれば、それは他者との関係性の中で生み出す方が、効果的であると言える。これは、個人にも、企業にも、そして地域にも同じである。

一見儲からないことばかりのコワーキングスペースは、普通の企業的な事業の切り分けからすればコストセンターでしかないかもしれないが、見方と活かし方を変えれば様々な有形無形のプロフィットをもたらすことにつながるかもしれない。

しかし、そのためには、自分自身も人として、人と付き合うことが必要だ。

"Coworking is all about people."

Coworkiesのメンバーがベルリンで取りまとめているコミュニティーは5,000人に上るそうだ。
そこまで大きくなると、彼らが運営している場所はもはや象徴的な存在でしかなく、場所を実際に利用するかしないかはあまり関係なくなってくる。そして彼ら自身も、もはやそのコミュニティーの一部でしかないのだろうが、そのおかげで自分たちの予想を超えたことがどんどん起きる。

彼らと一緒に打ち合わせをしている最中に、たまたま森のオフィスを訪れた人から、仕事の求人の相談を受けた。
仕事を探しているそうなのだが、農業の仕事をしたいそうで、「ここに来ればなにかそんな情報や人に出会えるかもしれないと思って」ということで、相談に来てくれた。

これを聞いたCoworkiesの2人は、「普通、コワーキングスペースに農業の求人の相談をしに来る人なんていないと思うかもしれないけど、この土地ならではの特徴だと思うし、その課題に答えられるということは、それだけ人を知っているということ。そしてこの場所が"Problem solver"(課題解決者)として認識されているということでもあるね」と解釈してくれた。

確かに4年も経つと、たいていの相談には一発か二発で適切な人を紹介したり、良い案を打ち返すことができるようになった。

そして、そのラリーが、また新しいなにかを生み出してくれる。

八ヶ岳、東京、海外。相手がだれであろうと、今後もそんなラリーを、余裕のある限り続けていきたい。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?