
NHKの捕鯨ドキュメンタリーが素晴らしかった話
良い番組を観た。
NHKスペシャル『鯨獲りの海』だ。
商業捕鯨を行う船団の長期航海に密着した番組。
たまたま深夜にテレビをつけたら放映されており、思わず最後まで観てしまった(ちなみに当方、普段あまりテレビを観ないが、観るとしたらたいていNHKである。まじめか)。
船乗りの面構えカッコええ
テレビをつけ、最初に見惚れたのは船乗りたちの面構えだ。
まさに海の男。ひたすらパソコンに向かって仕事をしている(私のような)人間には絶対に醸し出せない雰囲気がある。
特にビビったのは、鯨を大砲型の銛で仕留める「砲手」のおっちゃんの顔だ。
昭和を具現化したような、絵に描いたような職人顔である。
鯨を苦しませないよう必ず一撃で仕留めることを自らに課しており、そのストイックさがそのまま顔に表れている。カッコええ。
捕鯨の持つ「重さ」
捕鯨を題材にしている以上、反対する人も多いだろう。
「クジラは高い知性を持っているから殺すのはかわいそうだ」
「クジラなんか食べなくても生きていけるじゃん」
こんな意見を持っている人もいるかもしれない。
それに対し、「捕鯨は文化だから存続させるべき」という賛成派もいる。
私自身、捕鯨は(商業目的も含め)行った方がいいと思っている。
しかし、「文化だから残そう」とは軽々しく言えない。
というのも、「文化」と形容すると、どうしても軽い感じがしてしまうからだ。
捕鯨の現場は文字通り壮絶だ。命のやり取りをするのだから当然である。
大量に流れる鯨の血、あっという間に肉片になる解体の現場、そして一発で仕留めなければならない砲手のプレッシャー。
そこには「文化」という一語ではとらえきれない「重さ」がある。
では何と言えばいいのか。浅学な私にはわからない。
ただ一つ、確実に言えるのは、捕鯨に野蛮さは全く感じられないということだ。
むしろ船乗りのたたずまいや、鯨のあらゆる部位を無駄にしない徹底ぶりには崇高さすら感じる。
「生き物を殺しているのに崇高とか、野蛮人で草。さすがジャップw」
「またハラキリやカミカゼぶちかましてきそうで恐っ!」
シー〇ェパードやグリーン〇ースの活動家ならこんなふうに言ってくるかもしれない。
だが現代に足りないのは、むしろこうした死を伴う「重さ」の感覚ではないだろうか。
もちろん、だからと言って戦争やテロを容認するわけでは全くない。
しかし、生きる上で何かの命を奪わなければならない以上、捕鯨のような「重い」行為は避けて通れない。そんなことを思わされる番組だった。
NHKをぶっ壊すのはやめて!
こんなふうに書くと、さもNHK側が捕鯨を美化するような撮り方をしているように思われるかもしれない。
しかしそんなことはない。むしろ、驚くほど淡々と撮っている。
捕鯨に賛成か反対か、といった問題提起もあえてしていない。
強いて言えば、船乗りの表情を頻繁にクローズアップしていることくらいか。
それでも過度に視聴者の感情を煽っているわけではなく、「うるさい」感じも全くない。
これだからNHKはやめられない。
巷にはNHKをぶっ壊そうとする向きもあるようだが、カウンターとして「N〇K党からNHKを守る党」が出てきてもいいのではないだろうか。
え、私がやれって?
いや、政見放送で一人コントをやる勇気もユーモアのセンスもないので遠慮します。
それはともかく、NHKにはこれからもこうした「反時代的」な番組を作っていただきたい。
そういう番組が増えるなら、受信料を今の2倍払ってもいい。
たぶん現代人(の一部)は、「時代から取り残された何か」を浮かび上がらせるコンテンツを求めている。
LGBTもSDGsも大いにやってもらって構わないが、それだけでは掬いきれないものが人間社会にはあるからだ。(そうでなければ、クリント・イーストウッドは老体に鞭打って映画を撮り続けていないだろう)。
とにかくいい番組だった。
我がNHKは永久に不滅です。