冷蔵庫 人事部
冷蔵庫 人事部の俺は、スーパーへ新しい焼肉ダレの面接に向かった。
新人面接はなかなか楽しいものがある。
期待の新人は尽きない。
ダレを採用しようか吟味している時間は至福の時だ。
こういうのは意外とフィーリングだったりする。
"メジャーなところもいいけどなぁ。
たまには少し攻めたものを。"
そんなこんなであちこちに目をやっていると、目がビタッと留まる。
『韓国風焼肉ダレ』
"いまは、韓国が流行ってるっけ。
もう終わったんだっけ。
試してみる価値はありそうだ"
大きめの容器の割に安かった。
パッケージの焼肉が食欲をそそる。
少し遅めのミーハー気分で採用に至った。
そんな新入社員を早速、
会社(冷蔵庫)に引き入れ、
浮かれた気分でさっそく新人にお肉をくぐらせる。
"ん?なにか違う、、"
韓国風とは名ばかりの甘くてパンチ力にかける味。
豆板醤やコチュジャンの効いたドロドロとした濃厚ソースかと思いきやサラサラしていてドレッシングのようだった。
譲歩しても美味しくない。
"あの期待感はなんだったのだ..!!"
この先この新人を使うかと言われたら使わないだろう。
いや。
もしかすると彼にも何か合うものが、、
一度で見切りをつけるのはあまりに酷だ。
ほとんど使っていないものを捨てられるだろうか?
もったいない気がしてならない。
新人をクビにするのは難しい。
この先の使う目処もないまま一度会社に戻す。
——新人が入社してきてどれぐらいが経っただろうか。
料理をする時、彼はいつも会社にいる。
彼のデスクを素通りし、新しく買ってきた後輩、『黄金のタレ』を手に取る。
ものを捨てられない人間はこう思う。
いつか何かの役に立つ時のためにとっておいてると。
いつか使うはずだと思っているいつかは、一向に来ない。
使わない時間が膨大に過ぎていく。
昨日のことだった。
冷蔵庫を開けると、ふと、彼に目が行く。
もうすっかり窓際族のようでどこかそっぽを向いているようだった。
もう一度使ってみよう。
そんなことすら思わなかった。
一度使っただけで見切りをつけたのは酷くないか?
否。
この時間経過こそが彼の価値を証明した。
膨大な時間の中で彼を思った瞬間などない。
"捨て時かな。
でも会社に居ること自体そんなに害はないなぁ。
また明日考えるとするか。"
そう思いながらそっと会社の扉を閉める。
捨てるという形で、買った側の責任を果たすのは辛い。
首なんか切りたくないよ本当は。
最近買ってきた新人の黄金のタレは、着実に仕事をこなし、定年間近である。
韓国ダレはと言うと、またしばらく会社の窓際で空を眺める日を送るのだろう。
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