見出し画像

退職金支給で本当に問題になる点とは

1 退職金とは何か

退職金の意味や性質を考えたことがあるでしょうか。

“従業員が退職した時に払うお金”

確かに、ごもっともです。ただ、どのような性質のものかを理解しておく必要があります。性質は、退職金を支払う支払わないの話でも密接に関係してきます。

同一労働同一賃金の領域で、均衡・均等な待遇の話になった際も、退職金の性質は密接に関係してきます。

退職金は、一般に支給基準が就業規則などで規定されており、そのことから労働の対象としての賃金と考えられます、また、在職中の労働の対価であることから、賃金の後払いとも考えられます。さらに、勤続年数に応じて上昇する仕組みの場合には、長年の貢献に報いるという功労報償的な意味にも考えられます。別な意味では、生活保障的性質も合わせ持ちます。

ここを切り裂いていくと、様々な説に触れていくことになりますし、今回の本題ではありませんので、今回は概要のみ記載するに留めます。

2 退職金の支給は任意か

 退職金の支給は、賞与の支給と同様に、支給制度を設けるか否は、企業の任意になります。

しかし、実際に退職者に毎回、退職金を支給してきた実態があり、労使慣行となっていて、現に退職金規程がある場合には、不支給の要件に当たる場合は別として、規定に準じて支給しなければなりません

問題となる典型としましては、同じ時期に退職したAさんには支給したが、Bさんには支給しなかったという場合です。

勤続年数や貢献度等により金額に差が出たり、支給条件となる在籍期間が不足しているため不支給となったりした場合には、支給しない正当な理由が説明できますので、トラブルにはなりにくいと考えられます。

注意してほしいのは、支給しないことの理由が説明できるかという点です。「退職金はない」と結論だけ通知するのは、リスクがありますので、必ず理由を説明しましょう。

これは、労務全般に言えることですが、従業員の疑問の多くは、「なぜ」「どうして」に集中します。つまり、事実となった理由の部分です。ここは、労働問題の火種となりやすい箇所です。

Aさん、Bさんに説明できない場合には、退職金の支給の有無について同じように取り扱うことが肝要です。

3 退職金の真の問題点

 これまで多くの労働問題と向き合ってまいりましたが、退職金に関する問題点のほとんどが、支給金額の問題に集中しています。支給を受けた退職者が、支給金額が減額もしくは少ないことへの問題を主張してきます。

これはどういうことかといいますと、退職理由の取り扱いによる問題なのです。つまり、俗にいう会社都合退職か自己都合退職かです。多くの企業では、退職理由が会社都合か自己都合かによって、支給する退職金に差がつく設計になっているのではないでしょうか。

もし、退職理由により退職金に差が出ないのであれば、ここは関係ないお話になりますので、参考として受け止めておいてください。

具体的には、退職金規程における会社都合や自己都合が、いかなる理由を示しているかが不明であることの問題になります。

小職も、労働局や労働委員会のあっせんで紛争解決をする際に、あっせん委員から幾度か、「退職金規程でいう会社都合がいかなる場合を示すのかがよくわからない。そこは問題だ」と話しが出たことがあります。

一般に、退職金規程において、どういう場合が会社都合か、どういう場合が自己都合かとは規定していないと思います。ただ、そこが、労働問題になっていることは現実です。

4 退職金規程の問題点を解消するヒント

「会社都合」「自己都合」だけでは、どのような理由がそれに該当するのか、労使ともにはっきりしていない場合が多くあります。

無難なのは、雇用保険の退職理由の体形とリンクさせておくことも一案と考えます。一般的には、会社都合か自己都合かの2分類で考えてしまっているケースがほとんどなのですが、以下に記載しますように、やや細かく区分けして受け止めておく必要があります。

この話は、退職理由の記事を書く際に具体的に示したいと思いますが、今回はざっくりとだけ記しておきます。

●企業からの働きかけによる退職
 普通解雇
 懲戒解雇
 退職勧奨
●本人の判断による退職
 理由が本人の勝手な個人的事情によるもの
 理由が本人のやむを得ない個人的事情によるもの
 理由が職場に属する理由でやむを得ないもの
●日付の到来による退職
 定年退職
 休職期間満了
 有期雇用契約満了
   更新拒否に対し本人が異議を唱えたもの
   更新拒否に対し本人が異議を唱えないもの

よく登場する退職理由をざっくり区分しても、これだけの違いで考えておく必要があります。

詳細な説明は、今回は割愛させていただきますが、これらはそれぞれ退職理由が異なる類型として扱われますので、十分に理解して、退職金制度における退職理由による支給金額、あるいは、支給金額の算式に関連づけておくことが対策になるかと思います。

ただし、上記の理由区分を適切に措置するためには、専門家の助言を得なければ難しいと言えます。

【特定社会保険労務士 亀岡 亜己雄】


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?