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公共工事で防疫列島をつくる~シリーズ コロナ禍③


※5/26未明現在。本文に用いた数値や政府の対策は、時々刻々日々変化しております。最新とは限りませんので、ご了承ください。


1.初めに

2020/5月現在も、世界で終息の兆しが見えない新型コロナウィルス禍ですが、2000年以降、SARS、MERSを経験したにもかかわらず、各国政府が感染症対策にここまで無防備だったことに驚きを隠せません。世界各国で様々な取り組みが成されていますが、本文では我が国の取り組みに特化します。

本シリーズコロナ禍①、②では、国、自治体の公共工事における人命軽視の警告として発信をしてきました。シリーズ③では、今後の国・自治体の感染症対策はどうあるべきかについてマクロ、ミクロ視点で考えてみます。まずは目次2.~4.でコロナ禍に適切な対応を執れなかった背景について考察します。

2.NSC(国家安全保障局)の機能不全

以前より構想はありましたが、北朝鮮等の威嚇行動等をきっかけに政府は米国のNSCに倣い、2013年12月に内閣直属の日本版NSC(国家安全保障局)を新設しました。

設置の趣旨としては、多角的な観点から国防の指針や緊急時の対応の対処といった安全保障の重要事項について大臣級が審議する、とされています。専ら他国からの威嚇や攻撃に対しての国防に重きが置かれ、自衛隊の統合幕僚長などの関係者を出席させることもできる定義されています。

2020年1月31日には、コロナウィルスの流行に伴い、緊急事態大臣会合が複数回開催されています。必ずしも軍事的な懸念だけで開催されるわけでは無いことがうかがえます。危機管理の解釈から威嚇行動だけでなく、より幅広く適用できるのです。

しかし、NSCの機能は不完全だったと言えます。確かに新型コロナウィルスの急激な感染拡大は予想外の出来事であるのですが、緊急時の対応の可能性において、軍事行動への対処だけでなくテロや特に疫病、生物兵器が考慮されていなかったとすれば、危機管理の定義が極めてお粗末だったと言えるでしょう。

緊急事態への備えという点では、化学兵器やバイオテロ対策を想定して専門の部隊を持っていた防衛省、自衛隊の備えが遥かに適格であったと言えます。これらに対して素人ともいえる大臣が主体の組織であり、当初から自衛隊のトップである統合幕僚長が構成メンバーで無かったことに驚きを感じざるを得ません。

後日追加

https://www.fdma.go.jp/singi_kento/kento/items/kento250_01_200703-2houdou_z.pdf

https://www.cas.go.jp/jp/gaiyou/jimu/anzenhosyou.html


3.公共工事を取り巻く諸問題

民○党(当時)政権時、公共事業は既得権益で諸悪の根源である、と解釈のもと、「コンクリートから人へ」というスローガンがことさらに強調されていたことを知っている方も多いことでしょう。多くの大規模公共工事が凍結や縮小を余儀なくされました。しかし、そこで削られた費用は何に使われたのでしょう。はっきり答えられる方は少ないのでは無いでしょうか。

国会中継などをきっかけに国民の公共事業に対するイメージは更に低下し、政権が変わった現在も、公務員は楽な仕事で公金で守られた特権がある、専ら税金を納めている非公務員である自分たちと扱いが違うのだという誤解から、憤懣のはけ口とされるという理不尽な風潮が年々拡大していることは紛れもない事実です。公務員こそ、もれなく税金を納付しているのにもかかわらずです。

平成6年(1994)からの景気後退によるリストラクチャリングなどからも、公務員は生活の不満の矛先を向けられ続けています。これらの批判を受けてか、総務省最新統計における地方公共団体の総職員数は、驚くほど減少しています。公務員の業務は、社会の変化に伴う政府の方針に振り回され年々増えていますし、現在給与・福利厚生などの待遇は決して良くありません。さらに皮肉なことに、職員数の減少は非正規労働者が増える最大の要因となっています。

総務省資料

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以上も踏まえ、別側面から公共工事の背景について考えてみます。


4.コンクリートから人へ➡コンクリートも人も

コンクリート自体は悪者ではありません。コンクリートに象徴される公共工事を、国民が求める内容に合ったものにすれば良いのです。それが「コンクリートも人も」とした意味です。

現在、内閣府には国土強靭化推進室という特別チームがあります。大災害に特化し、ハード・ソフトの両面から省庁を横断して昨今の大型台風、局所的な豪雨、大地震等から国民の生命や財産、生活を守る為の治水・利水、防災、災害の早期復旧策の強化を国土強靭化と称しています。


国土強靭化予算枠は、省庁の縦割りを排除し一体として内閣府が統率しています。これは公共工事の重要性とその推進がもたらす効果を示すことに他成りません。内閣府予算と公共工事の一体的かつ大規模な活用は過去に例が無いでしょう。トムロはここに最も注目しました。

内閣府国土強靭化推進室についての公式解説

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平成30年12月14日閣議決定された具体的な内容と予算です。2018年度より3年間の緊急対策で、今年度がその3年目・集大成となります。のちに示しますが、これがグッドタイミングだったと思います。
時系列で予算配分を見てみます。

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事業規模は6.9兆円、平成30年度に対して約0.9兆円の増加と前年までを上回るものとなりました。

ただし、致し方ないところではありますが、当時の政府が考える国土強靭化とは専ら、災害=地震・津波・風水害への対応であったことです。



以下は、令和2年1月の国土強靭化補正予算の概要です。

国土強靭化関連のうち公共事業関係費3兆4535億円。3か年緊急対策の最終年分7902億円。合計は4兆2437億円となります。

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令和2年度国土交通省関係補正予算の概要 (全文はこちらをご覧ください)


平成30年度から始まった国土強靭化計画ですが、最終年度である令和2年度(2020)5月現在、未曽有の事態と重なっていることは、もしかすると数少ない幸運なのかもしれません。



5.国土強靭化と防疫列島構築を同時に推進する提案

ここで私が特に強調しておきたいのは、国土強靭化の基礎は既設インフラストラクチャの維持管理であること。そこに並行して新規対策を機動的に進めていくことです。

新型コロナウィルス禍はその最中に起こったこと。

だからこそ公共工事と一体化して取り組むべきという提案です。ここはまさに国と公務員の立場を知らしめ、増員を獲得できるチャンスとも言えます。

ここで言うインフラストラクチャとは、道路、河川、上下水道、電気網などを指します。

その維持と併せて新たに防疫に関する工事予算を追加する、場合によっては当初予算の一部を防疫のために振り替えよう、という試みのことです。

5.1令和2年度一次補正予算(参考資料)について予習

4月7日、令和2年度一次補正予算が閣議決定されました。その概要は以下のとおりです(近々第2次補正予算が追加される予定:おそらく100兆円規模)

注)補正予算には、いわゆる公共工事分は一切含まれていません。新型コロナウィルス経済対策一次補正予算が、どんな使われ方をするか見ていただくために示すものですが、公共工事に付け替え可能な費目はあるかという視点でご覧ください。Ⅴ.新型コロナウィルス感染症対策今後への備え、はそのまま付け替え出来そうです。


「新型コロナウイルス感染症緊急経済対策」を取りまとめるのに合わせて、2020年度補正予算政府案を閣議決定した(4/7 内閣府発表)

一般会計の概要
全額を国債の増発とし、16兆8057億円の歳出。ただし税収の減少が懸念されても、補正予算では一切考慮していないので、この国債増発はすべて支出増となる。

歳出の概略

基本的考え方 ※スマートフォンだと桁取りが崩れて見にくくなるようです。PC推奨。 トムロ記

○ 新型コロナウイルス感染症緊急経済対策において、取り組む施策として掲げられた
Ⅰ.感染拡大防止策と医療提供体制の整備及び治療薬の開発 1兆8097億円
Ⅱ.雇用の維持と事業の継続                10兆6308億円
Ⅲ.次の段階としての官民を挙げた経済活動の回復     1兆8482億円
Ⅳ.強靱な経済構造の構築                   9172億円
Ⅴ.新型コロナウィルス感染症対策今後への備え      1兆5000億円
のうち、Ⅲ及びⅣの二つの柱について、各項目の実施に必要な経費を計上した。
補正予算国費総額 43,211 百万円
※ この他、「国内に向けた観光需要喚起策」として経済産業省に計上の上、国土交通省
において執行する経費がある


※ 経済産業省に計上、国 費 1兆 6,794 億円 アフターコロナと言われている、その後の費用のこと


6.財布の中身は

最終的に国土交通省公共工事費として確定したした金額はこちらです。


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1月に成立した2019年度補正予算に1兆5699億円、3月に成立した20年度当初予算には6兆7363億円の公共事業費が計上されました。最終年度を迎える『防災・減災、国土強靭(きょうじん)化に向けた3か年緊急対策』の事業費が追加されたことにより、当初予算に計上された予算規模は過去10年では19年度に次ぐ2番目に高い水準です。⇩


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報道資料⇩


以上から、一般会計 6兆7363億円+4.国土強靭化費 3兆4535億円+4. 3か年緊急対策 7902億円10兆9800億円の財布があることになります。

今年度の国家予算が102兆円位ですから、全財産のおよそ10(%)です。初回の財源としてはまあまあです。


7.防疫列島をつくる考え方 近未来の日本

現代のニューディールと言えば解りやすいかもしれません。

ニューディールとはトランプなどのカードゲームで、親が子にカードを配り直すことが語源で、新規まき直しと訳されます。

1930年代に米国のルーズベルト大統領が、大型の公共工事を行うことで世界恐慌を乗り切ろうとした一連の政策のことです。多くの雇用創設、大量の流通、周辺産業の活性化、賃金の上昇など経済のダイナミックな好循環が期待できます。

過去の大恐慌だけでなく、我が国の未来にどのような災厄が起こるのかは誰にもわかりません。
しかし、備えることはできます。

防疫列島ニューディール政策を提案します。

国土強靭化と防疫列島構築を同時に行うのです。使用可能な財源があることはすでに示しました。では1)、2)の前提条件のうえで、具体的な策を考えます。


1)新型コロナウィルスの実態については分析がまだまだ進んでいませんので、薬やワクチンなどの医学的に決定的な解決策や、緊急事態宣言のあるべき数値目標設定など、国民の不安を解消する決定的な政策は依然見えませんが、施設や設備でウィルスの侵入と罹患者を防ぐ、あるいは救うことが出来る策。

医療従事者の待遇や病院や人工呼吸器など。密閉・密集・密接を避ける施設や手続きの遠隔化など。ICT、IoT、i-Constructionなどのテクノロジー活用など。

2)一方で防疫に100(%)はありませんので、共生という道も考える必要があります。


目次4.で取り上げた国土強靭化計画の資料。最もまとまった表にもかかわらず、最終ページに(参考)として添付されていました。

トムロはこの「重点化すべき15のプログラム」こそが、防疫列島構築のイメージとピタリと重なることに気付きました。宝は深く掘ったときに見つかるものです。


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注目すべきは「基本目標」、「事前に備えるべき目標」。完全に防疫の考えと合致します。

国土強靭化対策予算と公共工事予算の融合、勘定費目の付け替え 緊急事態で可能にできるよう、法律の改正も必要かもしれませんが、やってみる価値はあると思います。第二次補正予算と同時に重点化プログラム設計も見直すのです。既存の施設に防疫の為の後付け工事も必要ですが、当初設計に組み込めばより合理的です。

防疫列島構築へ「事前に備えるべき目標」、6項目を提案します。

1.直接死を最大限に防ぐ

・よりコンパクトな人工肺ECMOの常設

 人工呼吸器


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・バイタルサインテレメータ


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・ワクチン 薬の備蓄方法、開発スピード向上

・離島、自衛隊施設内にBSL-3~4施設の増設

・24h発症症例別の対策ができる医療施設

・生物化学兵器の専門医、専門官の増員と組織化


2.医療活動が迅速に行われ避難(在宅)環境を確保する

・簡易陰圧室常備の義務化

・プレファブ型陰圧室の開発とリース体制の構築

・自走高度医療車の開発と格納庫の整備

・バイタルサインテレメータ

・高度遠隔医療の実現

・自己注射キット

・汎用検査キット

・自己DNA採取キット

・簡易施設設置用地の恒常的確保

・2020オリンピック用施設、選手村、合宿施設の流用


3.情報通信・サービスを確保する

・セキュリティ対策無料Wi-Fi

・5G通信による各種IoT活用

・国産UAVと地上基地局の連携 イメージ


株式会社テラ・ラボのUAV試作機と車両型地上支援システム

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・国産監視衛星、通信衛星から個人の通信端末への制限付き接続 イメージ

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4.経済活動を機能不全に陥らせない

・貸付ではなく助成金の配布予算の常時確保と小切手の一般化、既存のインターネットバンキングでの受給システム改良・開発

・ロジスティクスの抜本的見直し。車より鉄道の自動運転システムを優先 

・機能的で動きやすい防護スーツの開発と備蓄

・テレワーク用小型ヘッドセット型のコミュニケーションデバイスの開発 ホロレンズ等

・BCP強化。会社機能の分散および物理的廃止

・通勤に伴う感染シミュレーションの高精度化

・食品販売、教育機関、保育施設の行動指針策定

・デマ発生の監視と解消法の周知


5.インフラストラクチャの確保

・防疫拠点施設を全土に配置 自衛隊施設との連携 #河野太郎

・生物兵器を前提として対処するための施設、部隊の強化

・警察、消防、海保、災害派遣医療チーム(D-MAT、)自衛隊に特殊部隊の設立・強化

・基礎研究への国費の充実

・自立行動可能なロボットによる薬剤の散布、各種センサによる情報収集

・プライバシーに配慮した機内船内車内、空港、港湾施設の維持改修、防疫専用エプロン、メガフロート、カーポート新設、およびサーモグラフィ監視、空中浮遊ウィルス自体の検知技術開発

・富岳を超えるスーパーコンピュータ開発による高度感染・ウィルス変異シミュレーション、ゲノム解析、新薬の開発

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・全国の総合病院に感染症対策(陰圧室、HEPAフィルタ排気構造など)を施す

・簡易病棟を完全分離で多数設置

・衛生教育、検疫エキスパートの育成

・公務員、教員の増員 自治、教育システムの見直し

・緊急時における立法の簡素化


6.複合災害・二次災害を発生させない

・リスクコミュニケーション、全く新らしいコミュニケーション方法の構築

・正しい情報に基づく正しい対処法を学ぶ

・プライバシーに配慮した未発症感染者の探知と、各種隔離技術の向上の高度化に伴う法整備

・人権に配慮した隔離施設の整備

・介護施設などでの集団感染を防止専門官の配置

・クラスタを作らせない、検査キットの汎用化早期発見技術開発

・医療崩壊を防ぐ予備看護師制度

・接触感染、飛沫感染、空気感染教育

・遠隔でメンタルヘルス対応強化

・与野党における国会の在り方の再考

・国際協力の強化



8.終わりに

驚くべきことにゼネコン各社、道路、設備会社等の2020/3月決算は軒並み売上増、利益増なのです。


公共工事の一時中止や民間工事の影響を全く感じさせないのは、公共工事の前倒し発注だけでは説明できません。建設業界には重層下請け構造が良くもあり悪くも存在するのですが、下請けにしわ寄せがいっているからかもしれません。

元請けニューディールも興し、利益の再配分が必要でしょう。

この災厄をきっかけに発生した文字通りの「働き方改革」を前向きにとらえて、「新しい日常」を受け入れつつ防疫列島を構築していくことが求められます。

(誤字脱字、構成については随時修正いたします)

ありがとうございます