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『葬送のフリーレン』のアニメ全話視聴後の感想 & 考察

今さらになりますが、話題になっていた『葬送のフリーレン』をAmazon Primeで全話視聴しました。

結論から言うと、不朽の名作となり得る作品だと断言できると思います。

アニメのテーマは「行こうか、人の心を知る旅路へ」とあり、フリーレンが魔法使いの少女フェルンと戦士の少年シュタルクと共に、死者の魂と対話できる場所となる北端の地エンデへ向かいます。

数あるファンタジー作品のように魔王討伐が主題ではなく、それは過去の話として扱っており、平和な地となった旅路の中で昔の仲間と刻んだ歴史を再確認するのが面白いところです。

つまり魔王はすでにこの世にはおらず、エンデを目指しながら仲間や各地の人々との交流を通して、エルフであるフリーレンの「人の心を知る」ことがアニメの主たるテーマとなります。

ただ、色々と気になったところもありましたので、感想を交えながら全体の考察を語ってみたいと思います。

※あくまで個人的な考察であることをご理解ください。また、ここから先はネタバレも含むため、鑑賞してない方は早急にサイトを閉じましょう

テーマ曲の歌詞にもある「涙の理由を知りたい」意味とは?

最初に「ん?」と思ったのは、昔の仲間であった勇者ヒンメルが亡くなり、フリーレンが涙を流すシーンです。

おそらく、このアニメにとって最も重要なシーンであり、YOASBIが歌う『勇者』の歌詞にも「伝う涙の理由(わけ)を知りたいんだ」と触れているため、フリーレンに共感して涙を流した視聴者も多かったと思います。

全話を視聴しましたが、フリーレンが顔をクチャクチャにするほど感情を露わにするのは、このシーンだけだと言えるでしょう。

引用:TOHO animation チャンネル

ただ正直なところ、私は「なぜ急に泣き出したんだ?」と驚いてしまった感じでした。

アニメのファンから怒られそうな感想ですが、ヒンメルが埋葬される前後の様子を考えると、フリーレンの反応はあまりに極端だと思えたからです……まさか近くの人に「薄情者」だと言われたから急に悲しくなったとか?

もちろん、ヒンメルとの思い出が走馬灯のように蘇ったとも考えられますが、そこまで親しみを感じていたなら50年の間に何度か会いに来るはずです。

涙を流している時、本人は「人間の寿命は短いとわかっていたのに、なんでもっと知ろうと思わなかったんだろう」と言ってますから、もともと自覚はあったみたいなのに……。

――50年の歳月は、長い人生のエルフにとって一瞬の出来事に過ぎません。

だけど、人間はそうでないことくらいフリーレンも分かっているはずなので、ヒンメルが死ぬ寸前まで一度も会いに来ないというのは「薄情者」と言われても仕方のない気はします。

……いや、そもそも最初からフリーレンの行動には違和感がありました。

なぜヒンメルに会いに来なかったのか?

引用:YOASOBI「勇者」 Official Music Video

ハイターやアイゼンは気にしていない様子ですが、私であれば「ヒンメルと夫婦になってくれ」とフリーレンに頼みます。

エルフにとって50年は「たった」と言えるほど短い時間なので、ヒンメルと幸せに暮らす選択肢がフリーレンにもあったはずですし、それほど重い決断でもありません……なのに誰もそこに触れないのは不思議ではありませんか?

ヒンメル自身はフリーレンを束縛したくない理由で求婚するのを止めたという意見もありますが、彼は生涯独身を貫いているため、本当にその理由で諦めたのかは疑わしい感じです。

――そしてフリーレンは仲間たちと別れて旅立ちました、50年後に起きる「半世紀(エーラ)流星」を皆で見るという約束を交わして。

この約束が会いに来なかった理由とも受け取れますが、それでも人間には短い寿命という制限があり、50年生きれるという確たる保証はありません。

私が思ったのは、フリーレンはヒンメルを意図的に避けていたような気がするのです。

フランメと共に過ごした日々

引用:TOHO animation チャンネル

「人の心が理解できない」と思われているフリーレンですが、母親代わりであったフランメとは彼女の寿命が尽きるまで一緒に過ごしているため、まったく理解できないということはないでしょう。

フリーレンの旅は確認作業の旅と言っても良いくらいで、フランメの偽書を探すのも、一緒に過ごした思い出を確認するかのようです。

アニメでは時間の感覚が掴めない感じですが、現代で例えるなら親戚にゴミ扱いされたと言われるレオナルド・ダ・ヴィンチの手記を探すようなもので、それがいかに骨が折れるか分かると思います。

この習慣は後々も続いており、道行く先で人助けするのも「ヒンメルならそうするから」という理由で積極的に行います。

……なぜ彼女はこんな性格なのでしょうか?

同じエルフであるクラフトが登場する回では、長い人生を送る者が最も恐れるのは「忘れる」ことだと淡々と語られ、フリーレンも心の奥底にこの恐怖を抱えていると思われます。

クラフトは絶対的な存在である女神を信じることで精神を保っていますが、対してフリーレンは魔導書探しや仲間の行動を真似ることで、忘却の恐怖から逃れています。

――このクラフトとの出会いから、何となくフリーレンの涙の真相が分かるような気がしました。

フリーレンが人間と交流する態度は極めてドライで、道中に仲間となったザインに対しても、別れ際では非常に素っ気なく振舞う感じです。

ヒンメルの「涙の別れなんて僕達には似合わない、また会ったときに恥ずかしいからね」という言葉に倣った節もありますが、もともと親しくなろうとする素振りを見せないため、フェルンが時折不安になるのも頷けます。

しかし先にも述べた通り、フリーレンはフランメの寿命が尽きるまで一緒に過ごしているため、人間に対してまったく情がないとは言い切れないはず。

……そこで悟るのです、彼女は愛する人を失う怖さを知っているのだと。

エルフたちのどこか歪な生き方

引用:TOHO animation チャンネル

大魔法使いであるゼーリエはフリーレンと性格が合わず、しばらく対立関係にあるとされています。

二人の会話を通して分かるのは、ゼーリエが弟子を取る様は愛玩目的のペットを飼うようであり、審査基準は優劣のみで本人の成長を楽しみとする感じではありません。

対してフリーレンは、「足手まといになる」という割と辛辣な理由から弟子を取るのを明確に避けてはいますが、ハイターの遺志を継いでフェルンと共に旅立ったのはご存じの通りです。

印象的だったのは、フリーレンがゼーリエにフランメが亡くなったことを告げるシーン。

ゼーリエは一瞬だけ言葉に詰まりますが、「今さらそんな感情(悲しみ)を持ってどうする?」とばかりの表情でフランメに対する答えを返します。

原作ではそこまで冷酷な印象はないゼーリエですが、素直に感情を出せない性格はフリーレンとどこか似ています。

決定的に違うのは、簡単に寿命が尽きると分かっていながら次々と弟子を取るタフさがゼーリエにはあり、フリーレンは至って慎重なので、この点は人生経験の差が出ている証拠だと思って良いでしょう。

ただし幼い印象を受けるフリーレンですが、私はそう思っておらず、今回の旅も計画的に進めている節が多々あります。

フェルンとシュタルクの出会い

引用:TOHO animation チャンネル

アイゼンの弟子だからという理由もあり、フリーレンは旅の途中でシュタルクを仲間に加えます。

シュタルクの肩書きは『戦士』ですが、ヒンメルのようなリーダーの資質が欠けているため、初めからフェルンの尻に敷かれている始末です。

おそらく、この二人は将来夫婦になると思われます……いや、そうならないとおかしいくらいイチャイチャ展開を目にするからです。

師匠となるハイターやフリーレンの影響をフェルンは受け易い性格なので、繋がりのあるフランメやゼーリエの歴史を鑑みると、「魔法使いは結婚せずに技術を研鑽する存在」と思い込んでも不思議ではありません。

そんなフェルンを心配してシュタルクを仲間に加えたと思うのは私だけでしょうか?

また、ザインの登場もフリーレンにとっては助け舟となり、あの「もう付き合っちゃえよ!」が出たのは視聴者の気持ちを代弁しているかのようです。

二人の惚気話はさて置き、このカップルのやり取りを通して、フリーレンはヒンメルのことを度々思い出しています……自分の思い描いた恋物語を体現しているかのように。

作中でのエルフという種族の性質は、生殖機能が脆弱で恋愛感情に疎いと言われており、ヒンメルのアプローチに対してフリーレンが気付かなかったというスタンスで語られています。

実際に二人は結婚しなかったので納得ですが、本当に気が付かなかったと言われると甚だ疑問ではあります。

この物語、登場人物の言葉をすべて鵜呑みにして良いのか分からないため、特にフリーレンの話す内容は本音と建前が入り混じっているように感じました。

ヒンメルと歩んだもう一つの人生

引用:TOHO animation チャンネル

見た目で騙されますが、フリーレンは1,000年以上生きている存在であることを忘れてはいけません。

そして稚拙さと老獪さの間で揺れ動く複雑な性格であり、時には自我を保つために本音を隠すことも厭わない存在でもあります。

彼女が涙を流した時、「なんでもっと(ヒンメルのことを)知ろうと思わなかったんだろう」と後悔しますが、これは本音であると共に少しだけ嘘が含まれているような気がしました。

なぜなら、フリーレンはヒンメルのことをちゃんと理解しようした痕跡があるからです……それは幻影鬼(アインザーム)との戦いで分かります。

幻影鬼(アインザーム)は、その人にとって大切だった死者の幻影を見せて誘い込むという魔術を使い、フェルンには当然ながらハイター、そしてフリーレンにはヒンメルが目の前に現れました。

本人は「ヒンメルなんだ」と至って冷静な反応でしたが、内心ではかなり動揺していたのかもしれません。

そして幻影のヒンメルは「フリーレン、撃て」と言い、フリーレンは「そうだね、ヒンメルならそう言う」と返します。

このやり取りで二人の関係性の深さが伺え、長年連れ添った夫婦のような絆を感じさせるのです。

ではなぜヒンメルと共に歩む人生をフリーレンは選ばなかったのでしょうか?

それはこの記事にある「フランメと共に過ごした日々」で語った通り、フリーレンは失う怖さを身に染みて理解していたからです。

ヒンメルの埋葬が済んだあの時、「知ろうとしなかった」自分を責めると同時に、「知るのが怖かった」自分にも向き合ったのだと思います。

フランメを失った過去を思い出し、ヒンメルと過ごした日々を思い出し、そして共に歩むことを夢見た光景を思い浮かべ、その重みに耐え切れずに感情が爆発してしまったのだと考えられます。

それが一話目で起きたために「ん?」と疑問が起こりましたが、全体を通して見ると何となく納得できるようになりました。

あくまで個人的な考察となりますが、皆さんはどうお考えになりましたでしょうか?


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