とりあえずあそこまで

最初は小さな水たまり
少しずつ形が変わって
やがて円の一点が決壊し
細い流れが旅を始める

流れているのは自分
だけど気持ちとしては
風景のほうが流れて見える
地動説から天動説への回帰

小さな川は旅を続ける
鳥の鳴き声を聞き
雨粒の暴力に耐え
人の話に耳を傾ける

いつしか流れは広くなった
広く広く幅を広げて
対岸が自分でも見えないほど
そして流れは強くきつく

支流もどうやらできたらしい
自分でももう分からない
自分がどこに向かっているのか
自分はどうやってここまで来たのか

途方に暮れて遠くを見やる
そこには明るい太陽か月が
近くの景色は常に流れれど
遠くを見ればいつも同じ景色

見れば自分の流れの上には
幾万のものが浮いていて
葉っぱやゴミや虫の死骸や
誰かの吐いた愛の言葉や

私の上にありながら
私の中にありながら
それらは私と同化せず
されど関係なくもなく

かすかに記憶にある
私はかつて水たまりだった
小さな小さな水たまりで
日が照れば消える運命だった

それがいつしか動き出し
幾多を飲み込み流れ増やし
支流の数すら覚えていない
共に行く幾万の浮遊物と

流れは川から海となり
動いているのかも分からない
どこに向かうのか
なぜ向かうのか

空を見る
遠くを見る
月か太陽か
とりあえずあそこまで

とりあえずあそこまで

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