見出し画像

『小さな自治-世田谷とポートランド-』イベントレポート

先日、世田谷区役所職員の方々が実施している「せたがや若手自主勉強会」主催のイベント【小さな自治-世田谷とポートランド-】に参加しました。
最初に「世田谷若手自主勉強会」の白石さんからこんな挨拶から始まり、とても印象的でした。

世田谷で動き始めている小さな自治とポートランドの自治を学び、世田谷区ではどのような自治をしていきたいかを所属や立場を超えて一緒に考えましょう!
また、自分はどう生きたいか。自分は自分の周りの人たちとどう生きていきたいかを考えるきっかけになるかもしれません。

私が彼に出会ったのは2018年10月。
「地方公務員が本当にすごい!と思う地方公務員アワード2018」で選出された面白い公務員がいる、というのを知り、会いたいと連絡をしてすぐのことでした。
「こんなにフットワークの軽い公務員がいるんだ…」というのが最初の印象。いい意味で「公務員」のイメージを変えてくれた彼らの主催するイベントはとても「世田谷らしさ」が詰まっていました。
会場も飲食も全部世田谷。
食事は下北沢「かまいキッチン」さん。ドリンクは「ふたこビール」。
そして会の参加費は「Pay it Forward」。今日の気持ちをお金に換えて、次の若手勉強会へ繋ぐ。新しい形のイベントです。

今回のイベントタイトルの「小さな自治」
小さな自治ってなんだろう…?
色々なことをまずは「自分ごと」に落とし込んでみたら…自分の地元でやってみたら…どういう展開が考えられるかを一緒に考えていきたいと思って企画した、と白石さんが話していたのもあり、そういう視点でスピーカーふたりのお話しを聞けました。

まず最初のスピーカーは「村上 優さん」

彼女の生き方は柔軟で今時っぽいけれど、とても芯のある強さを感じました。
18歳でニューヨーク、二十歳でオレゴンに留学。その後流れ流れてポートランドへ。昨年11月に帰国した彼女の目に映るポートランドの話は「一市民」としての話でした。

日本を出たくてまず最初に行ったニューヨークは「東京っぽいな…」という印象。周りにいろいろあるのに、何もしたいことがない。
消費ばかりの都会に疑問を抱き、ふと本屋さんで目にしたオレゴンへ。
そこは一転、学校の中には鹿がいて、山の中の学校でバスは1時間に1本…という超田舎。
そして最初は楽しかったのですが、だんだんとその町の社会に疑問を抱くように…ドラックも蔓延しているし、ホームレスもたくさん。。。
世田谷で生まれ育ったのは恵まれていたんだと気づきました。
その後社会学を学ぼうと思い拠点を移す過程でポートランドに行き着きました。母がNPOで働いていたのも影響していたのかな?という気づきもありました。
ポートランドはゆったりしていて森の中にいるような雰囲気の街。皆が寛容で皆と同じことをしなくても平気な街。
私にとって「自分らしくいても大丈夫な街」だった。
ただ消費するだけではなく自分たちでいろいろ作ったりする雰囲気が好きでした。
そしてそこで所属したのがNPOの「City Repair」。
創立者であるマーク・レイクマンさんが一市民として地域の人たちと交差点をゲリラ的にペイントし、地域交流の居場所へと変えていったことが始まりの「VBC(Village Building Coverage)」のノウハウや「自分たちの街を自分たちで作る」を一緒に実行していく中であることに気づきました。
社会問題を話し合おう!にしてしまうと、結局興味ある人しか集まらない…でもペインティングやろうよ!だと社会問題はちょっと…な人でも気軽に集まれる。コミュニティってそういうことなんだな、と。
参加しようよ!といきなり言われても、何していいかわからないけれど、イベントに参加することは、自分の力を取り戻すための取り組みのファーストステップだと思っています。
いきなり大きなことは思いつかないけど、これやってみたいよね!から始めるといいのかな?と思う。ひとつひとつはそこまで大きくないけど、それが広がったり繋がったりすると大きな取り組みになるということを体感しました。
そこにいる人が手の届く範囲のことをやっていくことが重要なのだということも。

「大切なことはシンプルでいい」と語った彼女。
ポートランドでやっていたことは子どもの頃好きだったことだったそう。
嫌なことはイヤ!と言う、自分の大切に思っていることを大切にできなくなってくる社会はおかしい。「自分らしくいられたら」と思い日々葛藤している彼女が何のためにポートランドに来ているのか…それは、

古きよき日本の良さを何か見出そうとしてポートランドに来てるのかも。
でもそれを日本に帰ってから自分の自治に反映しないのはもったいない。

とお話ししてくださいました。
「一市民」としてコミュニティの活動に参加した彼女だからこそ見えてきたその想いは「自分にとって大切なことだから」でしたが、その小さな一歩が「小さな自治」を作り出していくのかも、と感じました。

ふたりめのスピーカーは「安藤勝信さん」

私自身が世田谷でコミュニティ作りをしたい!と思った時に、いろんな方に「安藤さんに会った?」と聞かれ、やっと最初にお話しを伺ったのが昨年の春のこと。
そんな彼の「コミュニティ作り」のお話しはそれから何度か聞いているのですが、いつも感じるのは「小さな一歩」と「コミュニティは作るものではない」ということ。
今回も、安藤さんのお話しはとても興味深かったです。

僕が今日話せるのは、世田谷でやってきた身の丈でできることの話です。
今、千葉のいすみ市で二拠点居住をしています。二拠点先はシェアハウス。
実は前職は百貨店のバイヤーで周りは敵・ライバルだけでした。
とにかくお客様には消費させまくり!数字・売上重視!という中で、祖父のオレオレ詐欺事件をきっかけに「自分の仕事って周りの人を幸せにしているのかな…」と感じていました。
そして転職。今はファイナンシャルプランナーと、街の大家さんという職業をしています。
でも最初は、住宅が余る時代にどうやっていこう…という悩みばかりでした。
まずは住人と「住みたい部屋を一緒に作る!」をやってみよう!小さな愛着を自分の家に持つように…
そこから、不利な立地でも住みたい!という住人が増えました。住人は顧客ではなく自分の事業のファンになったと感じました。
僕は一緒に作りあげる関係性を作ってあげて見守ってあげるポジションにいればいいんだ。
そして時が過ぎると退去する住人も。その住人が自分で作った部屋を次の住人へ繋ぐ…その時点で住人も、消費者から参加者へ。
マインドセットのゆるやかな変化が起きたと感じました。

そんな彼の考える「アドボカシー・マーケティング」は、自身の抱える空き家問題と家族の介護という現実をも変化させていきます。

祖父の介護をきっかけに、実家の空き家問題にも直面しました。
でも「施設とマッチングさせてしまえばいいのでは?!」と思い、デイサービスと近隣の方々の集える場所を作ろう!と「タガヤセ大蔵」を作りました。
そして元々安藤家は都市農家。自給には多いが売るには…ということで、これもみんなでやってみたら…?!と思い畑も開放しました。
そうすると、近隣の住人や保育園の子どもたちとの交流も出始めるように。
DIYもやってみたら、世田谷のいろんな人たちと出会えました。
開発によって伐採しないといけない木もみんなで切り、その木を地域活動している団体の看板にしたり、畑の野菜も販売していたら少しずつ売れていき、イベントをやってみよう!と実施したら地域の輪が広がっていくのを見ることができました。
時にはデイサービスがDVシェルターになったことも。
介護が必要な方の周りに人が集まる。お互いを活かしあう関係性が出来上がっていたのです。

そんな彼がいつも話してくれる「福祉とは?」という話はいつもとても印象に残ります。

福祉=「しあわせ」や「ゆたかさ」を意味する言葉であり、すべての市民に最低限の幸福と社会的援助を提供するという理念を指す。

いわゆる現代人がイメージする「福祉」は「介護や援助を必要とする人(弱者)へのサービス」。
でも実は、ひとりひとり全ての市民にとってあるべき理念なんだと気づかされます。
そしてその世の中は「8つの資本」で成り立っています。

中でも「物的資本」と「金融資本」がどうしても大きくなりがちな世の中で、彼が新たに着手しているプロジェクトにも注目したいと思いました。

新しいプロジェクトは「シェア型長屋&農家」
今いる地元の人たちと地産地消をしたい。
社会は昔から思ったほど変わっていないんだなぁ…と感じているので、
お互いの違いを寛容に認め、「人を変える」「コミュニティを作る」ではなく、弱みはお互いに補おうという繫がりを作るために立ち上がる。
正しさより楽しさを!

今の私たちは「対立と評価、強者と弱者」となりがちですが、
最も強いのは「敵がいない状態」なので
最強から無敵へ!!と語る安藤さん。

そんな安藤さんは最後にこう〆ます。

Q:この街で一番大きな大家さんは誰?
A:小さな自治

おあとがよろしいようで。
ということで、おふたりのお話しの後は、パネルディスカッション。
ここでも「世田谷らしさ」が出ました。
今回のイベントに参加されていた世田谷区・保坂区長が急遽パネルディスカッションのファシリテーターに!!

「急に言うなよ~」と言いつつ、快く受けてくださる区長とパネラーたち。
パネラーには優ちゃん、安藤さんに加え、前回の世田谷区若手自主勉強会主催トークセッションに登壇した武井浩三さん、世田谷区若手自主勉強会の松原さん。
〈暮らしやすさ〉の都市戦略――ポートランドと世田谷をつなぐ」を書いた保坂区長がポートランドの印象を語りつつ、ディスカッションがスタート。
ディスカッションを聞く中で見えてきたのは、ひとりひとりが同じように「今いる環境をよくしたい!」という想いを抱え、でもなかなかうまくいかない状況に葛藤し、色々と試行錯誤していく中で見つけていった「今の形」が結果的に「世田谷」で「コミュニティ」を作っている、ということ。

「コミュニティの再構築」がこれからの世田谷区の課題、と語る保坂区長は最後にこう話してくださいました。

他人なんだけど家族のようにお互いを支えあうことを共有することで、都市の幸福度に繋がっている気がしている。
ポートランドでは皆、関係性はフラットである。それは日本ではありえない。
ポートランドでは街での立ち話が多い印象。それが街の価値が上がることに繋がると感じているので、世田谷もそんな街にしていきたい。

立場は違えど、こうしてお互いフラットに語り合えそれを参加者全員笑顔で聞くこの場はまさに、パネラーたちの話す「未来の世田谷」のように感じました。

イベント主催の世田谷区若手自主勉強会の松原さんはこう話します。

今までは個人的に世田谷区役所内の職員たちと繋がり、区民の方々と繋がり、区外の公務員の方々と繋がり…ということをしてきました。
でもそれでは何も変わらなかった。
だから所属や立場をごちゃまぜにして「私の」「あなたの」やりたいことをやる。そういう活動をしていきたいと思って動いてみた。
そうしたら、世田谷地域×世田谷区職員×区議会議員×世田谷という地域に興味がある方々と「せたがや未来会議」、学生×世田谷×荒川×地域の「児童福祉勉強会」、世田谷地域×世田谷職員×他自治体職員で「読書会」、世田谷地域×世田谷職員×他自治体職員×世田谷区議会議員×区長で「トークセッション」という会がどんどん生まれていって。
たくさんの「ありがとう」の声を聞けるようになったし、みんなの前向きな気持ちを応援する機会も増えた。
この幸せをどんどん増やしていきたいので、ぜひ今日の参加者の方々は、たくさん「いいね!」してください!たくさん僕らのイベントに参加してください!
そして一緒に!僕はこれを言われて人生変わったので、ぜひ「一緒に」やりましょう!!

イベント終わり、参加者同士で話しているのが聞こえた声が印象的でした。
「行政の方主催のイベントとは思えないあたたかさがあったね」
「区長と話せる場があるんだ…」
「面白いですね、世田谷!」
だから好きです。世田谷。らぶ。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?