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反社会人サークル的ソーシャルおべっか ソリューション

2012年5月6日発行 ロウドウジンVol.4 所収

メディアによる社畜プロモーションの歴史と最先端のそれを目の当たりにした今、われわれは絶望の淵に立たされているといえる。もうメディアによる社畜化への支配から逃れられないのだろうか? ここからは明るい「未来」に向けて、反社会人サークルからの提案を行う。


 メディアによる労働者への洗脳は、マスメディアだけに留まらない。民衆を繋ぐメディアとして注目を集め、一見体制側から遠いところにあるように思われているソーシャルメディアにおいても、社畜産業資本がじゃぶじゃぶ投入されている。その結果、彼らにとって都合の良い言説が形作られるようになった。

 匿名叩きが盛んなマスメディアの後押しもあり、mixiをはじめとする匿名可能ソーシャルメディアから、Facebookのような実名ソーシャルメディアへユーザーが移行した。これで、無間労働地獄の準備が整った。

 そこではまず、仕事が大好きだと思い込まないと死んでしまう意識の高い社会人が、仕事とプライベートの垣根なく友達申請をし続けた。意識のない社会人は和を乱すことなくこれを承認し、社内ネットワークに広く浸透していったのである。

 上司のカジュアルな食事写真、取引先のカジュアルな週末充写真に対し、「いいね!」を押す。休日に街で上司を見かけたら挨拶をするのは当然だが、嫌な上司であったとしてもそこまで高い頻度で発生するわけではない。ところがFacebook上ではどうか。もし上司がInstagramでバシバシ写真を上げていたとしたら、その都度、あなたのFacebookフィードに表示されるだろう。そこには、あなたの同僚による「いいね!」が我先にと記録されている。この状況で「いいね!」を押すことは、あるいは押さないということはどういうことか。いずれにしてもカジュアルな行為ではない。

 かつて「ソーシャル疲れ」という言葉があった。ところが上記の理由により、もはや仕事疲れと同義となり、例えば休日にゴルフに行くような、単なる社畜活動維持のための疲れと区別がつかなくなった。即ち社会(ソーシャル)人疲れである。皮肉にも二重の意味が与えられるようになってしまった。

 この疲労は、ゴルフや飲み会のようにまとまった時間によって発生するわけではない。労働の隙間時間にFacebookを覗く度に、時間と精神力をじりじりと消耗していく。この地獄から逃れるにはもはやネット絶ちしかない。

労働のゲーム化と搾取の構造

 一方で、これをポジティヴに捉えている言説もある。例えば労働のゲーム化。SNS上のコミュニケーションによって、労働者のモチヴェーションを高め、より良い仕事をしてもらおうという算段である。具体的には、業務上での感謝にポイントを与える。こうしてポイントがたまったら称号を与える。これまで可視化されていなかった要素を、コンピューターネットワークによって計測し、HP(ヒットポイント)をはじめとするゲーム上のパラメーターであるかのように可視化する。経験値のゲージが右に伸びていく楽しみと労働を紐づけることで、楽しく労働してもらうのだ。一般的には「ゲーミフィケーション」と呼ばれる取組の一例である。

 もちろんこれをそのまま肯定することはできない。無自覚な労働者がゲームに放り込まれ、自らのモチヴェーションの源泉を意識することなしに社畜となる。ゲーマーが何の見返りも求めることなく、電源を切るまでゲームを続けるように、労働者は労働の価値を鑑みることなく、使い捨てられるまでゲーム化された労働を続けるのだ。いわゆる「やりがいの搾取」と同等の現象が起きていると言える。古来より日本の労働者は、社会人サークル(社員クラブ)や、飲み会等の社内行事によって、幻のモチヴェーションややりがいを与えられ続けてきた。終身雇用制度の崩壊とともにそれらの嘘が暴かれつつある今、また別の搾取構造が生まれたのである。

無間「いいね!」地獄のはじまり

 Facebookで「いいね!」を押すだけで、上司のポイントを稼ぐことができるなんてラッキー。今はそう思っていても、いずれ無間「いいね!」(=労働)地獄に引きずり込まれることは避けられない。「いいね!」によって同僚への感謝の気持ちを伝えたり、社長からの「いいね!」が福利厚生の一環として与えられるようになるのも時間の問題である。あなたはゲームのように「いいね!」を集めることになる。労働に限らず、ゲーム特有の競争心や達成願望、射幸心を煽って、過剰にモチヴェーションややりがいを与える詐欺があらゆる分野で頻出することだろう。

参考/『いいね!の乞食』(http://picup.omocoro.jp/?eid=1330

 はじめからこれを業務の延長線上だとと捉えてソーシャル疲れに至るか、あるいは本当は業務なのに業務だと思わせないことによって搾取されるか。いずれにしても我々は、敢然と抵抗する術を身に付ければならない。

反社会人サークルはメディアによる社畜化に抵抗する!

 といってみたものの、世界を変えるにはどうすればいいか。政府が信頼されている時代であれば、政治家になって国を変えるという選択があった。あるいは、革命家になって政府そのものを変えるという選択が信じられていた時代もあった。ところが現代においては、いずれも賢明な手段とは言えない。

 手っ取り早いのは、事件を起こすことだろう。例えば、歌舞伎町ビル火災によって、消防法が改正されたり、中道大橋飲酒運転事故によって、飲酒運転に対する風当たりと道路交通法による罰則が強化されるなどしている。しかしここで「『いいね!』ボタン殺人事件」を我々が実行したところで、チャンスは一度きりだ。例えば秋葉原通り魔事件によって労働者派遣法は特に変わっていない。そのような失敗は許されない。失敗が許されない社会は許されないが、この場合方法が悪い。

 そんな「『いいね!』ボタン殺人事件」は巻末のロウドウムービーのネタに取っておくとして、ここでは再チャレンジできる方法として、自らがザッカーバーグとなる手段を取りたい。つまり、世の中を変えるプロダクトを作るのだ。

 そこで、反社会人サークルの下部組織である株式会社ポップリベラルとともに、上司への「いいね!」(ソーシャルおべっか)をアウトソースできるサービスを開発してみた。上記のスライドをご覧いただきたい。このサービスを利用することで、無駄なSNS活動を避け、きちんとライフワークバランスを遂行できるようになるのだ。

スライド1

スライド2

スライド3

スライド4

スライド5

スライド6

ソーシャルおべっかソリューションSOBECKは「本当に」販売開始されます(販売:株式会社ポップリベラル)。下記のニュースリリースは本誌が頒布される第十四回文学フリマ当日に報道機関向けに発表される予定です。実は人力ソリューションなんですけどね。

SOBECK_プレスリリース

SOBECKによる復興支援

なんと、SOBECKを皆様が利用されることによる復興支援も予定されているのだ。ディー・エヌ・エーがカスタマーサポートセンターの労働者を東北地方太平洋沖地震の被災者から募集したのは記憶に新しいが、サポートセンターのような、高度な技能の要らない労働集約型の業務は、復興支援に最適だ。実はSOBECKも同じく、労働集約型のサービスとなっている。「いいね!」を自動的に付けるといっても、どんな投稿にも「いいね!」を付ければいいというわけじゃない。しかもそれは明らかな悲劇に限らない。上司の「改めて初心に帰って頑張ろう」という前向きな書き込みに対し、部下でクズなあなたが「いいね!」を付けてしまうと波紋を呼ぶこと必至だ。この判断はやはり人に委ねられる。そのため、SOBECKのユーザーが十万人を突破した暁には、被災地で数百人規模の「『いいね!』クリックセンター」を開設し、「いいね!」雇用を創出する計画だ。
SOBECK欲しい機能ランキング(反社会人サークル調べ)

1.上司用のSOBECK
「私の部下は100人以上おり、『いいね!』の数が多すぎて正直誰が『いいね!』を押してくれない不届き者なのか把握できません」(58歳・会社役員)

2.上司のコメントに返信してくれる機能
「え、店長がコメントしてくれちゃってるんですけどwwwちょーうける」(25歳・ホステス)

3.上司のFacebookアカウントを消す機能
「そもそもなんで定年間際のくせにFacebookとかやってるんすか。どうせ辞めるのに」(17歳・靴磨き)

4.上司を消す機能
「ソーシャル疲れ? 知らねーよそんなもん。24時間おべっかし続けてもビクともしない体を作れや! そんなことより上司を倒して私が会社の半分をもらう!」(33歳・飲食店)

5.価格を安くして!
「月100万払うくらいなら自分で上司に『いいね!』を押します」(28歳・インフラ)

 特集「メディア」はここで終了となる。いかがだっただろうか? 長年にわたりメディアによってあなたの脳内に刷り込まれてきた社畜像が解体されただろうことを期待する。

 バブル崩壊から二十年。うつろいゆく社畜像とともに、われわれの置かれている情報環境も変化している。既存メディアの支配力が低下し、これまで可能だった盲目的な社畜活動はもはや不可能になった。さらに新規メディアであるSNSによるソーシャル社畜化の流れも避けられない。社畜化包囲網はあらためて再整備されてきている。そのような中でわれわれはどのように振舞えば良いのか。

 SNSという新しいメディアによって生まれたソーシャル社畜を、そのメディアを逆手にとることで消滅させるソーシャルおべっかソリューション……。これが反社会人サークルが世界に対して提示する解答だ。明るい未来はすぐそこにある。

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