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証明写真ボックスに宿る物語。

そこは懺悔室。新しい出会いの場所。自己を探る装置。
カーテンの向こうの椅子に座った時に写る自分になにを思うのだろうか。


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交通事故による長期欠勤により勤めていた職場の契約が終了になったので、再就職に向けて各種申請などをしている。作家業やフリーランスの仕事もしているが、安定収入がないと家族を養うのは難しい。

せっかくなので新しいスキルを取得して新しい業種にチャレンジしてみようと思っている。コロナ禍というのもあるし、今後家族の介護が必要になる可能性を考えると在宅ワークのみでそこそこ稼げるようにしておきたい。

そのため、職業安定所に提出する為の証明写真を数年ぶりに撮影した。


私は証明写真ボックスが好きだ。20年前の作品だがTVドラマ「私立探偵濱マイク」で浅野忠信演じる殺し屋が、殺人の仕事をする度に証明写真ボックスで自分の罪を懺悔するシーンがある。

証明写真ボックスに神はいない。彼が生きているという記録だけを残す。殺し屋の彼にとってはそれが許しだった。

10話「1分700円」がその物語だ。検索すれば情報や映像も出てくる。20年過ぎた今でもふと思い出してしまう。


映画「アメリ」でも証明写真ボックスの下に捨てられた写真を集める男が登場する。

主人公アメリが出会う、証明写真ボックスの下に捨てられた写真をコレクションしている青年ニノ。二人の物語は証明写真ボックスとそこに宿る秘密から始まる。


また、写真家の澤田知子のデビュー作「ID400」も証明写真ボックスで撮影した400枚のセルフポートレート作品がある。

様々な衣装やメイクで400回も証明写真を撮り続けた狂気の作品。思えば、証明写真に写る自分は本当の自分の姿だろうか。普段着ないスーツと髪型で写り、画像補正ソフトによって加工された写真は「見せたい自分」「相手の要求に答える自分」でしかない。

自分を証明する場所で様々な装いの自分を記録し続けることで本来の自分が焼きついてくるように思える、そんな作品集だ。


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2回フラッシュが光り、撮影が終わった。カーテンをめくり、仕上がった写真を手にとる。これからどんな道を歩むのだろうか。青を背にした見慣れぬ男の写真を切り取り、目標に貼りつける。私も彼らのように生きていけるのだろうか。溜息と笑顔がひとつづつ。






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