最後の食事
ある老人が死にかけている。あと数日というところだろう。最期は自宅で迎えたいと、少し前に病院を出た。今は家族と穏やかに過ごしている。
「とんかつが食べたい」
体の状態が少し良いときに老人がそう言った。
ここ数年油物は控えていたが、元々とんかつも、から揚げも、天婦羅も大好きだった。
死期を悟って最後に好きなものを食べたいと思ったのだろう。家族も察した。
「そうだな、親父。昔みんなでよく行ったとんかつ屋に行ってみようか」
老人は自力ではほとんど歩けない。出前を取ることも、自宅で作ることもできたが、家族で昔よく行ったとんかつ屋でみんなで楽しく食べているイメージが、老人と家族の間で自然と共有されていた。
手を貸しながら老人を車に乗せ、家族も車に乗り込んで出発した。そこへ居眠り運転の大型トラックが突っ込んできた。
家族の乗る車はトラックの下敷きになり、老人と息子夫婦、孫の一人は即死。残ったもう一人の孫も病院に運ばれたが翌日死亡した。
めかぶは飲み物です。