ぐるぐる話:3話 【そして、記憶は紡ぐ】
これはtsumuguitoさんの始められたリレー小説企画です。
リレー衛星は反射衛星砲とも言いますね。
そんな訳で通常業務である晩飯記事は、本日お休みとさせて頂きます。
楽しみにしていた私には申し訳ありません。
だって、小説は執筆と推敲に物凄く時間がかかるんだもーん!
読まれていない方は1話から目を通す事をお願い致します。
読む気がない人はシッシッ!
あっち行け!シッシッ!
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【 第3話 】
私は闇と静寂と真空に包まれていた。
微かな光点たちは何千何万、何億光年もの先の、星々の煌めきだ。
私や私の肉親、私達の祖先が産まれる、遥か昔の輝きだ。
そして私の周囲にあるのは、観測機器でしか計測不可能な、星間物質だけだった。
他には何も、何もなかった。
もう長い間、私は孤独だった。
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定期の低温睡眠中だった木綿子は、例外的な割り込みで自動注入された薬剤と、警告サインによって目覚めた。
どうやら、赤外線センサーに反応があったらしい。
それをトリガーとして機体各所が一斉に、私へ起動準備完了のシグナルを送る。
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21世紀初頭、地球と異星体との星間戦争は熾烈を極め、人類は次々に敗北し追い詰められていった。
すでに、正式な軍の訓練を受けた者など微々たる惨状だ。
ついには老幼婦女子にまで、動員の矛先が向かい始める有様となっている。
そして私は率先して志願し家族のため、孫たちの未来のため、テストすら済んでいない希望の最終兵器に、先をも知れぬ命を賭けたのだった。
それは人類が想像もした事のないメカニズムだったが、搭載される私は全く根拠もないのに機体を信頼し、その威力を確信していた。
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スリープ明けの、朦朧とする意識の中で状況確認を行う。
欺瞞のために極低温でスタンバイしている各種計測計器、動力などは問題ないようだ。
あらためて警告があったセンサーの記録を追う。
間違いない。
赤外線の偏差ベクトルは毎秒10万kmで射手座方向から太陽へ向かい、更に加速している。
その攻撃目標は明らかだった。
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5年ほど前、予測される敵の侵攻に合わせ、私はエッジワース・カイパーベルトへと単機で射出された。
漂う小惑星に偽装し、敵を待ち伏せする役割だ。
いつ現れるか知れない敵を、何年も待ち続ける役割だ。
そして接近してきた敵の軌道上へ向け、広範囲に強力な重力波を放ちながら亜光速で交差し、一気に殲滅する役割だ。
理論上、私の軌道近傍にある全ての物質は、事象の地平面へと巻き込まれて粉砕される。
ふと、後悔が脳裏を過ぎる。
この兵器の性質により、生還などは望めないだろう。
全てが終わった後は、敵の残骸と共に太陽系外へと光速の99.98%で永遠に飛翔する。
もう一度、肉親と、孫たちと触れ合いたかったが、それは叶わぬ夢だった。
未来へと希望を紡ぐ糸は、これしか残されていないのだ。
私は、私の事を孫たち肉親たちの記憶に留められるのなら、もうそれだけでいい。
後悔を断ち切る。
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再起動した各受動センサーの解析が終わった。
この周囲6000万km、つまり200光秒圏内に友軍など作戦上存在しない。
補給や援軍など望むべくもなく、命令の変更も受信しておらず、無線封止の為その命令系統が残っているのかさえ知る術がない。
しかし、これは紛れもなく敵だ。
敵の反応だった。
機体が私に応え、瞬時に戦闘態勢へ移行していく。
私の意識は遥か彼方、今は単なる光点の一つにしかすぎない蒼い星へと別れを告げた。
さよなら。
各所の機器へとコマンドが送信され、私の機体が目覚める。
推進剤が動力機関へと送られる感覚も、心地よく感じられた。
そして、やがて訪れる強大な加速度に対して身を構える。
さよなら。
これから未知の事象へと向かう。
まだ私の中にある思い出を含めた、全てを守るために。
宇宙空間での戦闘で不要となる肉体を捨て、この脳だけが移植された機体で。
エンジン点火のカウントダウンが始まる。
ふと、中枢区画に置かれた古い古い、思い出のある古いスマートフォンが、かすかに光った。
「ありがとう、おばあちゃん」
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カーテン越しの御天道様で目が覚めた。
なんなんだ、この夢は。
どうやら慣れないスマホの刺激で、頭がサイエンス・フィクション化したらしい。
おかしくて、少し笑った。
夢に散りばめられた単語の意味が、自分でも全く分からない。
おかしくて、少し嬉しくて、少し涙が出た。
さあ、気を取り直して!
今日はみんなで温泉旅行に出発だ!
押すなよ!絶対に押すなよ!!