ヒッチハイカーをのせた話
まだ夏の暑さと日差しが残る9月。そう、この話は昨年、2023年の9月上旬の割と晴れていた土曜日の話である。
その日、朝起きてから少し喉が痛かった私は、龍角散を大量に摂取させていただいた。お陰で少しましになったが、万が一のことを考え、その日約束していた相手に迷惑をかけてはいけないと思い、いわゆるドタキャンの連絡をいれた。
相手は理解はしたが納得がいかなかったようで、喉が痛い相手に通話をご所望されていた。私は龍角散のお陰でましになっていたので受け答えできていたが、やや不機嫌な様子を隠せるほどの体調ではなかった。
なぜ1年たったのにこんなにも鮮明に思い出せるのかはわからないが、自分がドタキャンしたのが悪いと反省の心は持ちつづけている。
そんな朝だったが、やっぱり不調だったので二度寝をかます。昼頃に目を覚ました私は、体調が回復してきていたため実家に行こうと思い立った。文字にして自分の言動を思い返すと、人との予定をドタキャンした挙げ句、体調回復してきたからって出掛けようとする自分の人間失格なところが出ていて最悪な印象をお持ちだと思う。私もそう思うし、お持ちの印象を否定できる材料を持ち合わせていない。
さて、詳しい時間は覚えていないが、お腹がすくころにゆっくり荷造りをして実家に帰ろうとする。車に乗って気づいたが財布のなかに1000円しか入っていなかった。実家に行く前にATMに行かなければと思いつつ、大きい通りに右ウインカーを出して出る。すると、すぐに信号待ちで交差点に捕まった。ふと、歩道を見ると暑い中白いボードを掲げている男性がいた。
信号が青になり進み始めるとホワイトボードの文字が見えてきた。そこには隣県の市町村名方面へ行きたい旨が書かれていた。そう、彼こそが今回の主役のヒッチハイカーだ。
私は彼を見た瞬間、ヒッチハイカーを乗せてみたいという夢が叶うのでは!?と期待を膨らませた。しかし、私にはATM に行くという試練があった。そのためまずはATM へ向かう。どこかそわついた気持ちでATM の近くに行ったが、近くで行われていたお祭りの影響で駐車場がいっぱいだったため、ATM を諦めざるを得なかった私。
ここで、二択に迫られた。
1. ヒッチハイカーの元に戻る
2. このまま実家に帰る
私は心残りだったため、ヒッチハイカーの方面へ車を走らせた。
まだ変わらぬ場所にいたヒッチハイカー。戻ってきた私は反対車線にいたため、近くに車を止めて降りて近く。
「○○には行かないんですけど途中の○○まででも良ければ乗りますか?」
○○は土地名なので一応伏せるが、上記の言葉掛けは鮮明に覚えている。
こちらの提案を快諾したヒッチハイカーは、助手席に乗る。
そうして私とヒッチハイカーの旅がスタートした。
ヒッチハイカーを乗せるぐらいだから、私の事をコミュ力のある人間だと感じているかもしれないが、私は人見知りである。
私は初めましての人と喋るときに自分が話しまくって相手にすきを与えない戦法をとっているが、さすがに2時間近く話つづけることは出来なかった。
初めは風景の話。近くでやってたお祭りや観光地の話はとても話しやすかった。
しかし、市街地を抜けると風景は大きく変わらなくなる。それでも風景の話で戦おうとする私。さすがに話が尽きたので、ヒッチハイカーに話をふる。
どうやら、彼は南の方から来たようだった。そして日本一周を目指しているとのこと。私が声をかけるまで40分ほど待っていた。私の前の人には海鮮丼を奢ってもらったらしい。
その話に私は財布のなかに1000円しかないことを正直に話、なにも期待しないでくれと懇願したことを覚えている。
それから今まで出会った人の話。
高速道路をぶっ飛ばすトラック乗りの愉快な人や社長、NPO活動などをされている人との出会い。
そして、女1人が声をかけたのは初めてだったと。
その時初めて悟ったのだ。私のヒッチハイカーを乗っけたいという夢は少数派かもしれないと。
なぜヒッチハイクを?と質問してみる。
ゆくゆくは世界を旅してみたいのだと言っていた。そのための準備のような形で日本一周をしているとのこと。今まで出会った人の中には、その夢を支援するよと声をかけてくれてる人もいたらしい。
私はなにも持たざるものですみません、と謝り倒した記憶がある。
年齢の話で発覚したが、彼は自分より若く、衝撃を受けてしまった。
果たして自分は彼の年齢の時に夢に向かってなにか行動していたか?そもそも夢を持っていたのか?そんな自問自答になりそうだったが、今現在ヒッチハイカーを乗っけたいという夢を叶えている最中である。持ちこたえた。
車は再び市街地を走るようになった。
そうなると再び風景の話攻撃が炸裂する。
その中で、彼の目指している地についての話になった。
おいしい食べ物やさんはあるか?温泉によろうか。などなど、彼の未来はとても明るいのだと実感せざるを得なかった。
あいにく、チェーン店で生きてる人間のため、地元の味よりも、地元で根強い人気がある店のおすすめしか出来なかった。でも、美味しいんだ…
そして、私がこれから降ろそうとしている場所の話もした。
自分の実家から近い施設施設だということ。そこだと彼の目指す方向に行く方もいるのではないかと思うことを伝える。
本当はもう少し彼の目指す場所に近いところに行きたい気持ちもあったが、1番最初に言い訳のように述べた通り、体調が万全ではない人間であったためお節介は控えた。
彼もこれまでのヒッチハイクで拾われやすいコツを何となく掴んでいたらしい。だから、お気遣いなくと言質をとったので遠慮なく商業施設に連れていった。
ヒッチハイクをしてる方に聞きたかったことも聞いた。それは、寝床だ。
彼は野宿をしてると言っていた。また、ネットカフェも利用しているようでその時にお風呂に入って清潔を保っているらしい。
私はカラオケ屋さんの提案をした。スマホで調べているようであった。素直な姿勢は自分も取り入れたい。
思い出せる話はもうなくなってきているので、お別れの話を。
上記でも話した商業施設に到着する。入口付近に車を停車させた。
彼は商業施設内で少し買い物などをするというので、このままお別れをするが、どうしても彼を乗せたという記録がほしくて、図々しくホワイトボードの写真を撮らせてほしいと懇願する。
快諾をいただき、写真を撮った私に彼は挨拶をし、ドアを閉じる。普段聞いているはずのドアの閉じる音もなんだか重く感じた。そのまま彼を残して私はアクセルを踏む。一期一会が終わった瞬間であった。
ちなみに、誰かに話したくてホワイトボードの写真をインスタグラムのストーリーで友人向けに載せると、何してるのとお叱りのメッセージが飛んできた。また、夜にアッシーをさせられた酔っぱらいの友人にも根掘り葉掘り聞かれ咎められた。さらに、職場でもこの話をすると注意しなさいと心配された。
そのため、絶対に親に言わないとこうと決意していたが、先日バレて問い詰められた。その事を記念(?)してこの文章を書いている。
私は密かに抱えていた夢を叶えたいという欲望に駆られた自分を恥じました。
以上が私がヒッチハイカーを乗せた話である。
最後に今でも覚えている話を。
車内で流れている音楽に対して彼が
「懐かしい!これ、小学生とかで流行ってました!」
と言った曲は
『君の知らない物語/Supercell』
絶句と共に、背筋が凍ったのを今でも覚えている。
彼の将来に幸福があらんことを願って文章を閉じようと思う。