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ゲーム:『ドラゴンクエストIX 星空の守り人』

ドラクエの1作目がリリースされたのは高校生の頃。いまでも最高傑作だと思ってる「2」がたしかその翌年ぐらいで、勇者ロトの物語として事実上の完結編となった「3」の発売は大学受験に失敗した頃でした。

現在40代半ば〜50代前半ぐらいにかけての世代の人たち、とくに当時ゲーム愛好者の中心だった男子各位におかれましては(まだ女子ゲーマーは少なかったはず)、ドラクエ・シリーズ出現の記憶はいまだ鮮明かも知れません。

主人公がカニ歩き、ドアを開けるたびにカギがこわれ、洞窟にさらわれたお姫様を救出に行かなくてもエンディングが向かえられる「1」。

RPG史上随一の悪名高き「ロンダルキアへの洞窟」に行く手を阻まれ、魔術学校の入試問題かと思うほど複雑な「復活の呪文」に翻弄された「2」。

その呪文から解放されたばかりか性別・職業などを選択できるようになり、さらにはなんと雀卓を囲める4人編成パーティーになった「3」(ゲーム内では囲めません)。

とくに「3」発売時の狂騒は当時のニュースで「社会現象」とまで持ち上げられたけれど、すでにシリーズの醍醐味を知った(とくにあの洞窟の辛酸を嘗めた)プレイヤーとしては「いまさらなんで騒いでんの?」という世間との温度差を感じたものでした。

そういや「3」では、初回発売時の出荷本数不足につけこんだ「抱き合わせ商法」として、別の在庫タイトルといっしょに買わされましたよね。ワタシはスペースインベーダー(FC移植版としてもすでに3年落ち)とのカップリングでした。どれだけ当時の売り手が凶悪だったかが知れる黒歴史です。

ともあれ、我が人生の歩みはドラクエとともにありました。いまだカニ歩きでぜんぜん前へ行けないのは「1」で受けたトラウマかも知れません。

以後、ロト直系の親戚が集まって戦う「4」と、現実生活でカノジョと別れた頃にゲーム内でちょい年上の宿屋の娘と結婚した「5」をプレイしたあと、「6」「7」は職業的にちょうど忙しい駆け出しの時期でスルーしてしまい、独立してやっと落ち着いた頃に「8」の美しい3D画面に驚愕しました。


そして、今回プレイしたのが「9」。今回はそのお話をさせていただきます。2009年に国内リリースされた作品です。発売時点ですでにたっぷり中年でしたが、それからさらに10年以上の時が流れました。なぜいま「9」なのかというと、たまたま中古ソフトが安かったからです。ブックオフで会計の列に並んでいるときに見つけました。発売から10年もたてばたいていお買い得ですよね。

ちなみに今回はおもにロト三部作で燃え尽きた、ぐらいの方々向けにお話ししたいと思います。その後いろいろゲーム・システムは変わりましたが、本作「9」は「3」に近いゲーム感だと思うので、もし数十年の時を超えてドラクエの続きをやってみようという気になったなら、途中のタイトルはすっ飛ばしていきなり「9」を始めても楽しめるのでは、と感じるからです。すくなくとも、ちょっとなつかしい気分にはなれますよ。


本作はDS向けにリメイクや移植された作品ではなく、最初からDS専用に開発された作品とのことです。ワタシはゲーム業界の人間ではないので、企画や開発の経緯はわかりませんが、長らく据え置き型コンシューマ機(ファミコンとかプレステとかWiiとか)を主戦場としてきたドラクエ・シリーズとしては、最初から異色の生い立ちだったと言えると思います。

物語設定もけっこう異色だという気がします。なにせ主人公は人間ではありません。天使です。神の使いとして、人間界を見守り続ける天使が、本作のプレイヤー・キャラクター。

ゆえに、そもそも主人公は人間界に生きる人々との直接的なつながりがなく、ともに戦い抜く旅の仲間たちも、かの「ルイーダの酒場」で赤の他人を雇うしかありません。仲間たちとの個別のエピソードも存在せず「装備とか道具をあげるだけでよく文句も言わずついて来てくれるなぁ」と申し訳ないばかり。せめてものいたわりとして、たまに豪華ホテル(かつて主人公を助けた少女が経営者)に泊まらせてあげるぐらいしかできないのが不甲斐ないところです。

ちなみにルイーダの酒場はそのホテルのなかに存在します。豪華ホテルのバーだからといって美麗な店内に気品高きメンツが揃っているわけではなく、ロビーの片隅であやしいゴロツキ戦士とかがウロウロしているだけです。ホテル自体は大繁盛しているので、そのうち建て直しのときにでもこの手配師酒場は別の場所へ移されることでしょう。

前作までとの大きな違いといえば、主人公のキャラクターをメイキングできるところでしょうか。当初の職業は「旅芸人」に縛られますが、容姿までオリジナル設定することができます。人生半世紀を過ぎて自キャラの顔かたちをつくり込むはいささか気恥ずかしいところですが、これはこれで本作の楽しさのひとつ。

ほかにもシリーズ中で最初のマルチプレイ対応作品だった(サービスはとっくに終了)ことなどネットワーク世代のタイトルとして刷新された点は多々あるようですが、ワタシはもとからゲームの世界観とストーリーを味わえればいいシングルプレイ志向者なので、その点には触れません(というか、ネトゲ経験があまりないので触れられません)。

そうそう、本作には例のハローワーク(ダーマの神殿)が存在します。転職できる職種は「3」とたぶん同じだと思いますが、サブクエスト(たまに出会った他人からおつかいを頼まれる)をこなせば、「上級職」として「バトルマスター」とか「パラディン」になることができます。ただし上級職とは言っても給料が上がるわけではないらしく、しかも彼ら従者(というか傭兵)たちは自由業なので退職金もありません。主人公のパーティーは会社ではないので厚生年金加入者でもなく、老後のことを考えるならば旅の合間にひそかにアルバイトをして貯金しつつ、せっせと国民年金を支払い続けるしかありません。そういう現実的な待遇面を考えれば「なにが上級職だよ!」と言いたくなる仕様となっておりますので、くれぐれも転職の際はお気をつけください。


ストーリーについてすこし。

もともと「天使界」の派遣天使としてとある小さな村を守護していた主人公が、ある出来事をきっかけに突如「人間として」人間界に堕とされます(注:けして堕天使となったわけではありません)。主人公がふたたび天使界へ戻るには、人間からの神への感謝のキモチをたくさん集める必要があり、そのために世界中を旅しながら民衆の願いを際限なく叶えてゆくという流れになっています。

これまでのドラクエ・シリーズでは「地上の災難から民衆(国々)を救うために勇者が悪の親玉を探し戦う」ということがテーマというかメインストーリーになっていましたが、本作ではかつての「竜王」のような名高い巨悪の存在が最初から語られているのではなく、とにかく人間界全土に魔物がいっぱい湧き出てきてて世界的に「なんかよくない雰囲気」はあるのだけれど、結局は “元天使” である主人公の個人的な願望(天使界へ戻りたい)が旅の理由となっている点が特色だと思います。

そこに、神々の意志に従う彼ら天使にしか理解できない事情(生命の源となる大樹の危機など)が乗っかってきて、プレイヤーとしてはなんとなく「自分が世界全体を救わなきゃならないんだろうな〜」という曖昧な圧が発生します。正直ここまでは「何のために戦ってるのかな〜?」というモヤモヤした気分が続き、補助呪文を多用してくる倒しにくい敵モンスターたちを相手に、黙々とレベル上げに勤しむだけの日々が過ぎてゆきました。

そんなある日、主人公(とプレイヤーであるワタシ自身)に、突然にして「戦う理由」が現れます。

それは「天使」という存在が何のためにあるのかということに起因します。人間を創った神々は、なぜ天使をも創ったのか。それがある重要な登場者によって語られたとき、やっと、この物語の真意が姿を見せるのです。

このくだりには感動しました。ワタシはこのとき初めて「天使」の存在について考えました。神々は万能なのだから、その創造物である人間を直接支配すればいいですよね。わざわざ中間管理職を置く必要などないはずです。それでも神々は天使を創って人間に近いところへ遣わせました。その理由こそが、本作の本当のテーマを展開させます。これはシブい。

とはいえ、そこへ至るまでが少し長過ぎる気がするので、途中で旅をあきらめたプレイヤーも多いんじゃないかな...。

本作の「ラスボス」は意外な存在ですが、誰しもが100%の憎しみを抱く相手ではないと思います。ある意味「倒すべき相手」でもありません。その点が、最終盤にかけての盛り上がりを欠けさせる要因だとプレイ時は感じましたが、いま思えば「天使」という哀しき存在を語る最高のエピソードだったとも感じています。


プレイ後の所感として、やはり10年以上前の携帯ゲーム機用ソフトとしての限界は感じざるを得ませんでした。多彩なモンスターを狩り続ける楽しさは味わえますが、登場人物個々とのめぐりあいの重厚さは少々薄味です。ただ、これは「手軽にどこでもプレイできるゲーム」としての「特質」というものかも知れません。あまりに色濃いエピソードは通勤電車のひとときでは完結しませんし、学校や仕事でいったん途切れた感情を帰り道で急速に蘇らせることは困難です。むしろそこそこの長さの挿話が適当な頻度で用意され、それを無理なくクリアしながら物語全体の大きな流れも感じられるようにするというのが、本作に求められたことだったのでしょうか。この「9」はドラクエ・シリーズにおける正統なナンバリング・タイトルですが、シリーズ中で初めて「物語世界を日常生活に寄り添わせる」ことを宿命づけられた作品なのではないかといまは感じています。


以上がワタシの「9」の旅でした。もし、これを読んでひさしぶりにドラクエを旅したという方がいらっしゃったなら、ぜひその感想をお聞かせください。そろそろ昔語りを楽しむことを覚えたい年頃なのですが、共通の話題として「ドラゴンクエスト」は最高の旅の記憶だと考えています。

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