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薔薇の香りと人間の心理

はじめに


薔薇の香りと心理学研究

薔薇の香りの主成分は、β-フェニルエチルアルコールなどの化学物質であることが知られています。(1)
これらの物質は化学合成が可能で、試薬としても販売されているものもあります。

こうした物質を薔薇の香りとして用いて、人間が薔薇の香りを嗅いだ時にどのような反応がなされるか、心理学的な研究が行われています。

この記事では、薔薇の香りに関する研究をいくつか紹介します。


薔薇の香りの選好は後天的な学習に影響される

「2歳児のニオイの選好:バラの香りとスカトールのニオイのどちらが好き?」
著者: 綾部早穂, 小早川達, 斉藤幸子.
出典: 感情心理学研究. 2003, vol. 10, no. 1, p. 25–33.

この論文(2)は、2歳前後の幼児に対し、β-フェニルエチルアルコール(薔薇の香り)とスカトール(野菜くず、口臭、糞便のような臭い)の選好(どちらを好むか)について確認した実験に関するものです。

普通に考えると、薔薇の香りであるβ-フェニルエチルアルコールの方が好まれると思われますが、結果として幼児はβ-フェニルエチルアルコールとスカトール、どちらのにおいを好むとは言えませんでした。

一方、9~12歳児や成人では、β-フェニルエチルアルコールの方が有意に好まれる割合が高かったという結果が出ています。

幼児は日常接する機会の多い身近なにおいを好む傾向があり、成長に伴い、そのにおいが自分にとってどのような価値を持つか知識を身に付けることでにおいに対する好みが変化してゆく、と考えられています。

幼児にとっては、糞便の臭いであるスカトールは、薔薇の香りであるβ-フェニルエチルアルコールよりも日常的に接する機会が多いため、親近感があったということのようです。

薔薇の香りを良い香りであると認識して好むということは、後天的な学習によるものであるということのようです。


薔薇の香りは感触に影響を与える

「香りが感触に与える効果に関する心理物理学的分析」
著者: 西野由利恵, Kim Dong Wook, Liu Juan, 安藤広志
出典: 日本バーチャルリアリティ学会論文誌. 2014, vol. 19, no. 1, p. 17–23.

この論文(3)では、滑らかな物に触れる際、薔薇の香り(合成香料)を嗅いでいると、香りが無い時よりも滑らかに感じることが報告されています。

薔薇の香りから直接想起されるイメージ(香水、石鹸、化粧品など)が感触の滑らかさに影響を与えた可能性が考えられています。

嗅覚からイメージされる内容が触覚という異なる感覚へ影響を与える可能性があるようです。

この結果から、感触と香りを組み合わせることで、より豊かな表現を演出することができるのではないかと期待されています。


まとめ

上記の結果から、薔薇の香りに対する選好や感触への影響は、香りそのものに対する生理的反応ではなく、香りから連想される物事によるものであると考えられます。

薔薇に対する知識の個人差の影響もあると思いますが、薔薇は多様な物事の象徴であることから、薔薇の香りから連想される物事も多様になると考えられます。
そしてそれらは、薔薇の香りの価値判断や他の感覚に影響を与えるものと考えられます。


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薔薇の香りの主成分の一つである、フェニルエチルアルコールです。

図1.フェニルエチルアルコール
Edgar181, Public domain, via Wikimedia Commons https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Phenethyl_alcohol.png


参考文献

(1) 蓬田勝之, 黒澤早穂. 現代バラとその香り. におい・かおり環境学会誌. 2010, vol. 41, no. 3, p. 164–174.

(2) 綾部早穂, 小早川達, 斉藤幸子. 2歳児のニオイの選好:バラの香りとスカトールのニオイのどちらが好き?. 感情心理学研究. 2003, vol. 10, no. 1, p. 25–33.

(3) 西野由利恵, Kim Dong Wook, Liu Juan, 安藤広志. 香りが感触に与える効果に関する心理物理学的分析. 日本バーチャルリアリティ学会論文誌. 2014, vol. 19, no. 1, p. 17–23.

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