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ロザリオと薔薇

はじめに

薔薇は様々な概念の象徴であり、宗教においても薔薇に意味付けがなされています。
宗教と薔薇の関係において、身近な物の一つにロザリオがあります。この記事ではロザリオについてまとめています。


ロザリオの概要

ロザリオとは、キリスト教カトリックにおいて聖母マリアへの祈りを捧げるための数珠状の道具です。

ロザリオは基本的には59個のビーズと、センターメダイ、トップの十字架からなりますが、その他にも様々な形態があります。使用されるビーズもガラス、水晶、貝、木など様々な材質があります。

ロザリオの形や要素は、ペンダントやブレスレットなどファッションアイテムとしても取り入れられており、キリスト教ではない人でも一度は目にしたり手にしたりしたことがあるかもしれません。

ロザリオ(rosário)という言葉はポルトガル語です。16世紀にポルトガル船の貿易が行われるとともにロザリオ等のキリスト教用具も日本に入り、宣教師たちが布教活動を行った(1)ことから、日本ではポルトガル語の読みをするようです。

図1.5連ロザリオ(筆者作成)
大きさ:周径約75cm、材質:ビーズ/カット水晶6mm、針金/真鍮0.6mm幅、センターメダイ・十字架/金属製


聖母マリアと薔薇とロザリオ

ロザリオは聖母マリアへの祈りを捧げるための道具ですが、その由来としては以下のような背景があるとされます(2)。

  • 薔薇は古くから愛の象徴であり、聖母マリア崇敬と結びつき、薔薇は聖母マリアの象徴となった。

  • 13世紀には聖母マリアに捧げる祈りの花環という意味の「Rosenkranz」(薔薇の花環)という言葉(ドイツ語)が表れた。この言葉が最初にロザリオの祈りを意味することになった。

  • 「Kranz」(環)は、花や宝石でできた冠や環を指し、恋人への贈り物としても用いられたため、愛の象徴となっている。

このように、「薔薇」や「環」を介して「愛」と「聖母マリア」が結びつけられることから、聖母マリアへの祈りを捧げる数珠状の道具として「薔薇の花環」を意味するロザリオが形作られていったということかと考えられます。

その他、スペイン人神父ドミニコ(1170~1221年)がキリスト教異端派の改宗に失敗し洞窟に隠れている時、聖母マリアの幻が現れ数珠を与えたという説や、ドミニコが聖母マリアへの祈りを捧げている時に聖母マリアが現れ、授けられた150本の薔薇の花環の花が珠に変わり首飾りとなったという説などがあるようです。(3)

聖母マリアは「棘の無い薔薇」とも表現され 、聖母マリアの図像伝統に「薔薇垣の聖母」という図像(4)もあるように、聖母マリアと薔薇が結びつけられていることが伺えます。

図2.《薔薇垣の聖母》1448年頃
Stefan Lochner, Public domain, via Wikimedia Commons
https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Stefan_Lochner_Madonna_im_Rosenhag.jpg


祈りとビーズ

ロザリオのような祈りの際に使用する数珠状のものは、古くからキリスト教に限らず様々な宗教や文化圏で使用されてきました。
紀元前1700年以前にインドで数珠状の道具が使用されていたことも知られています(5)。

数珠はその名の通り珠(ビーズ)が主要な部品です。ビーズ(beads)という語は、アングロサクソンの言葉であるbidden(祈ること)とbede(祈り)に由来します(5)。

現代ではビーズというとアクセサリーパーツの一つとして捉えられますが、もともとは祈りと深い関係を持ったある意味宗教的な物になります。

何かを祈る時、目を瞑ることが一般的かと思います。紐や鎖で繋げられて、目で見なくても手の感触で数えられるビーズは目を瞑って祈る時に、その祈りを数えるのに使いやすい物であったと考えられます。

祈る時に目を瞑るというのが普遍的であるとするならば、祈る時に数珠のような道具を使用することは、宗教や文化を超えた普遍性がありそうです。


多様なロザリオの形

ロザリオは様々な形態が生み出されており、米国ではペンダント(6)やブレスレット(7)などのアクセサリーの形の他、電子機械式(8)の特許なども出願されています。

また、2019年10月にはローマ法王庁からeRosaryというスマートフォンのアプリと連動し祈ることができるロザリオ型のスマートデバイスも発表されました。

ロザリオは、現代でも様々な形で祈りをサポートしているようです。


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見出し画像は、シモーネ・カンタリーニ(Simone Cantarini、1612-1648)の《The Madonna and Child Holding A Rosary Crucifix and a Rose (Madonna Della Rosa)》(1642)という、ロザリオの十字架と薔薇を持つキリストを抱く聖母マリアを描いた絵画です。

ロザリオや薔薇は聖母マリアへの愛を意味していると考えられますが、ロザリオに付いている十字架はイエス・キリストの磔刑を意味していると考えられます。
イエスの母への愛と、行く末を暗示するような絵画です。

図3.《The Madonna and Child Holding A Rosary Crucifix and a Rose (Madonna Della Rosa)》(1642)
Simone Cantarini, Public domain, via Wikimedia Commons
https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Simone_Cantarini_-_The_Madonna_and_Child_Holding_A_Rosary_Crucifix_and_a_Rose_(Madonna_Della_Rosa).jpg


参考文献

(1) 中山千代. 南蛮風俗の伝播形態. 立正女子大学短期大学部研究紀要. 1972, vol. 16, p. 117–131.

(2) 西脇純. 「ロザリオの祈り」にみるキリスト中心主義. 日本の神学. 2004, vol. 2004, no. 43, p. 9–31.

(3) Horwood, Catherine. バラの文化誌. 駒木令翻訳. 東京, 原書房, 2021, ISBN978-4-562-05869-3.

(4) 池上英洋. 花園に咲く薔薇の香り--園芸の図像学(1). 園芸文化. 2006, no. 3, p. 7–16.

(5) Miller, John Desmond. Beads and Prayers: The Rosary in History and Devotion. Burns & Oates, 2002, 282p., ISBN0860123200.

(6) Bakula, Matthew M. Rosary pendant. 1286911. 1918.

(7) Sherman, Charles H. Rosary bracelet. 1525005. 1925.

(8) Dewolf, Lowell E., Scrudato, James J., Wallace, Robert S. Rosary device. 4365246. 1982.

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