見出し画像

権利を実現するのは大変 その1

 経営法務のテキストでは、債務者が債務を履行しなかった場合には、民事執行法その他
法令の規定に従って強制履行ができ、強制履行の方法には、直接強制、代替執行、間接強制などがあると説明される。
 しかし、「債務者が債務を履行してくれない」と相談してくる社長に対し、「強制履行ができますよ」と言ってみたところで、強制履行をするにはどうしたらよいのかまで説明できないのでは有益なアドバイスとは言えまい。
 そこで、何回かに分けて、権利(債権)を実現するための手続について説明していく。

債務名義が必要

 誤解している人もいるが、債権を有していたとしても、それだけで強制履行(強制執行)ができるという訳ではない。ちゃんとした契約書があったとしても同様である。
 強制執行をするためには、民事執行法が定める、債権者が債権を有することを証明する公的な文書が必要である。この文書のことを債務名義というが、強制執行をするには、予め債務名義を取得しておかなければならないということである。経営法務のテキストではこの点の説明が欠落している。

債務名義の取得

 債務名義は、後に触れる公正証書を除いて、すべて裁判所が作成する文書であり、その代表格が確定判決である。
 判決は、裁判に対する裁判所の判断を示すものである。判決のうち、「被告は原告に対し(以下略)金〇〇円支払え」「〇〇を引き渡せ」「建物を明け渡せ」「所有権移転登記手続をせよ」というように給付を命じる判決(給付判決という)で、控訴等の不服申立ての手段が尽きて確定したものは、債務名義となる。したがって、強制執行をするためには、裁判を起こして、判決を取得することが、まず必要である。
 しかし、裁判は、相手方の言い分を聴き、証拠調べをして、どちらの言い分が正しいのかを判断するものなので、判決まで時間がかかる(相手方に言い分がなけれはすぐに取得できる。)。また、1審の判決が出ても控訴される可能性があり、確定まで時間がかかる(1審の判決で仮執行宣言が付されていれば、控訴中でも強制執行ができる。)。
 相手方の言い分を聞かずに、裁判所が債務名義を作ってくれる支払督促という手続もあるが、相手方が異議を述べれば普通の裁判に移行してしまう。 
 公正証書は、債権者と債務者が公証人の面前で約束をし、書面にしてもらうというものである。このうち、金銭その他代替物の給付を約束し、かつ、不履行の場合には強制執行に服する旨を約束するもの(執行受諾文言と言われる)は、債務名義となる(執行証書と言われる)。ここで、債務名義となるのは、金銭その他代替物の給付を約束する部分だけであり、建物の明渡しなどを約束しても債務名義とはならないということは覚えておく必要がある。
 公正証書は、裁判所の関与も必要なく、時間もかからず取得できるものであるが、取得のためには相手方の協力が不可欠であるという点が難点である。相手方の協力が得られない場合は、裁判をするしかない。
 このように、強制執行は、第1段階である債務名義の取得からして難関である。

試験では

 試験で問われるとすれば、次の点くらいであろう。
 ①判決その他の裁判所が作成した文書のほか、公正証書(執行証書)も債務名義になること
しかし、
 ②公正証書が債務名義となるのは、金銭その他の代替物の給付(普通は金銭の支払)を約束する部分に限り、建物の明渡しを約束しても債務名義にならないこと 
 
 


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?