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経済・政治・教育の三分野を考える〜『日本の未来、本当に大丈夫なんですか会議』

◆西田亮介、安田洋祐著『経済学✕社会学で社会課題を解決する 日本の未来、本当に大丈夫なんですか会議』
出版社:日本実業出版社
発売時期:2024年6月

日本の未来を考えるとき、今やあまり楽観的になれる材料は見当たりません。経済は長らく低空飛行が続いている。政治も腐敗や不正がいっこうにただされる気配がない。天然資源がないのでマンパワーでやっていくしかないのに、肝心の教育も冴えない──。バブルという過去の成功体験にすがったまま、気づけば半世紀近く。「日本、本当に大丈夫?」。そこで気鋭の社会学者と経済学者の二人の学者が語り合いました。

結論的にいえば、日本の行く末を憂慮するという大きなテーマで話しあった割には話が個別的な問題に入りすぎて全体的な見取り図がみえてこないうらみが残ったというのが率直な感想です。

経済を扱った章では「生産性の低さ」が論じられているのですが、生産性を向上させれば日本経済は本当にハッピーになれるのかという疑問が最後まで拭えません。広く思想界全体を見渡せば戦後日本を牽引してきた資本主義経済の限界や問題点が活発に議論されるようになってきています。むろんそれは日本に固有の課題ではないけれど、未来社会を構想するならやはり回避できない論点ではないでしょうか。その点についての問題意識は両者ともに希薄のように感じました。

政治に関する議論も私には今ひとつピンときませんでした。もっぱら政治におけるカネと票のメカニズムが議題になっているけれど、「公民権停止という重すぎる罰則があることによって、政治家は情報の透明化や公開を積極的に嫌うし、隠すわけです」という西田の発言は私には意味不明です。 

教育におけるさまざまな格差は重要な論点に違いありませんが、やはり東京大学における履修制度の問題点など、ここで優先的に取り上げるべき論点とは到底思えません。

末尾で経済学と社会学の基本的なスタイルや手法について論じているくだりは、本書のメインテーマとは直接関係ないけれど、個人的にはもっとも楽しめたといえば皮肉にすぎるでしょうか。文学にも関心を示す西田が「川端康成の視線は究極の社会学ではないか」と述べていて、川端をあらためて読んでみたくなりました。

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