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多くを失った後に、取り戻すものは?〜『ミュンヘン』

これは「失っていく」映画。
主人公アヴナーは、報復を重ねるたびごとに人間としての体温を失っていく。
仲間を一人また一人と失っていく。
愛する家族との近しい距離を失っていく。
国家に対する忠誠心を、人を信じる気持ちを、……。

多くのものを失った後に、ある一つの大切なことを、取り戻します。
それは「こんなことをしていても平和は訪れない」という彼の言葉に凝縮されるもの。

一昔前の実話──ミュンヘンオリンピック事件とその後のイスラエルによる報復作戦──に基づいた映画ですが、テーマ的にはテロリズムがさらに深刻化した現代にあって、いっそうアクチュアリティを有することになった作品といえるかもしれません。

ちなみにこの後、デンマークで作られたオーレ・クリスチャン・マセン監督の『誰がため』には明らかに本作の影響をみてとることができます。21世紀の映画史を考えるうえでも、やはり本作は軽視できません。

*『ミュンヘン』
監督:スティーブン・スピルバーグ
出演:エリック・バナ、ダニエル・クレイグ
映画公開:2005年12月(日本公開:2006年2月)
DVD販売元:パラマウント ホーム エンターテインメント ジャパン

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