近代的人間像を超えた看護師〜『超人ナイチンゲール』
◆栗原康著『超人ナイチンゲール』
出版社:医学書院
発売時期:2023年11月
近代看護の母として知られ「クリミアの天使」とも呼ばれたナイチンゲールの評伝です。
ナイチンゲールは16歳の時に神の啓示を聴いたとされています。そこで栗原は神について神秘主義についていろいろと考察を加えているのですが、それはナイチンゲールの生き方に生涯影響を与えた思想だといいます。本書の文脈に即して簡潔にいえば、看護するのにわけなどいらない、はたらくがゆえにはたらく。ナイチンゲールはそのような人でした。
いつも将来のことを考えて、リスク計算をして合理的に生きる。そんな人間のありかたを突きぬけてしまっている。そういう人を本書では「超人」と呼びます。超人ナイチンゲールは、まさにその定義どおりに生きて死んだ人であったらしい。
そもそも彼女が生まれ育った英国の上流階級では女性が労働するなんてありえないことでした。彼女の生き様は思いのほかラディカルでした。
彼女はまた創意工夫の人でもありました。配膳用エレベーターとナースコールはナイチンゲールの発明だというし、かのカール・マルクスもナイチンゲールについて言及していたという歴史的エピソードも興味深い。
それにしても、ナイチンゲールがこれほど政治的にアクティブな人物だとは知りませんでした。英国の苛烈なインド支配を批判するなど、クリミア戦争が終わってからの彼女の言動の方に私はより惹かれるといいたいくらいです。栗原のノリのいい文体と相まってナイチンゲールの人間像が活き活きと立ち上がってくるのでした。
シリーズ〈ケアをひらく〉には、國分功一郎の『中動態の世界』とか東畑開人の『居るのはつらいよ』とか私にとっても印象深い本が列に加わっていますが、本書もシリーズにふさわしい内容の快著であるといっておきましょう。
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