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大立ち回り、そして最後は……『十三人の刺客』

これは掛け値なしに面白い時代劇映画です。ふと「活劇」という言葉を思い出したくらいです。暴君を討つ。何よりも単純な筋立てがいい。そこに「武士道とは?」「家臣とは?」というような葛藤も紛れ込んでくるのですが、基本的には大立ち回りを楽しめば良い映画なのです。

松竹出身の生真面目な監督がナントカいう時代劇を成功させてからというもの、やたら処世訓を物語に仮託したような辛気臭い時代劇に接する機会が多く寂しい思いをしていたのですが、この作品には素直にブラボーを叫びたい。時代劇はやっぱりチャンバラに限る。といってもこの映画は単なるチャンバラにとどまりません。火の玉を背負った牛が暴れまくるかと思えば、爆薬が町家一軒を吹っ飛ばす。要塞と化した宿場町の古典的で大がかりな仕掛けは、どことなくハワード・ホークスを思い出させるし、キッチュでユーモアを織り込んだ展開はさすがクエンティン・タランティーノとお友達になる監督の手になるだけのことはあると思えます。とはいえ彼ほどB級的イカガワシサに染められてはおらず、重厚な雰囲気はそれなりに維持されているのですが。来た仕事は断わらないという三池崇史の職人芸が十二分に発揮された作品ではないかと思います。

本作は1963年に作られた工藤栄一の同名作品のリメイクです。残念ながらそちらは未見。むしろこの映画を観た誰もが想起するのは『七人の侍』でしょう。そのことについては随時、言及していきます。

刺客の数が13人ということで、『七人の侍』のようにそれぞれのキャラクターを丹念に描き分けることはハナから無理な相談でしょうが、主要な役どころにはそれなりに特長的な人物像を与えています。
主人公は江戸幕府老中から内密に明石藩主で暴君の松平斉韶(稲垣吾郎)の暗殺命令を受けた御目付役・島田新左衛門(役所広司)。もちろんおおっぴらに任務を遂行することはできないので、役目を引き受けた時点で公職を解かれます。
それに参謀役的な御徒目付組頭・倉永左平太(松方弘樹)、孤高の剣豪浪人・平山久十郎(伊原剛志)、刺客の仲間入りに際しては二百両を要求するチャッカリ者ながら槍の腕は立つ佐原平蔵(古田新太)、酒と女と博打に明け暮れるも武士の矜持を失わない新左衛門の甥・島田新六郎(山田孝之)……などが加わります。

前半で斉韶の残酷無比な姿を簡潔に見せて勧善懲悪の構図を明確に示したうえで、暗殺指令から刺客集め、戦略の練り上げ……とトントンと話は進みゆきます。参勤交代で江戸から明石へ行く道中、落合宿で待ち伏せして叩く、という作戦。地図を広げてあれやこれや合議するのは『七人の侍』でもおなじみのシーン。

大枚をはたいて落合宿をまるごと借り上げる交渉場面など、けっこう笑わせてくれます。庄屋の岸部一徳は出番は少ないながらも良い味。宿場を突貫工事で要塞化して、そしてクライマックス、13人対300人の明石藩士たちとの50分間にわたる大死闘劇へとなだれこみます。そこから先は理屈抜き。

倒れた刺客の視線で描出される仲間の立ち回り、刺客の亡骸の上を翔ぶ蝿の音、戦いが終わった後に無常の音を響かせて燃え落ちる梯子……。印象深いシークエンスがいくつもあります。かつて同門として競いあった新左衛門と今や明石藩御用人となって暴君を守り続ける鬼頭半兵衛(市村正親)との対決(剣の戦いだけでなく論戦も)も見どころ。

もちろん冷静に観れば、いろいろ難癖をつけたくなる点もあります。一つだけいえば、即席の刺客集団でありながら、新左衛門から「これからお命使い捨てにする」といわれて皆が皆ホイホイついていくものかね、ちょいとムリがあるんでねぇの、という疑問。実際、ムリといえばムリだと思う。でも、まぁ、そんなことは見ているうちに忘れてしまいます。忘れさせてくれれば、それで良し。最初に斉韶の極悪ぶりを見せられているから、あいつをやっつけるという一点でまとまれるのじゃ。てな感じでしょうか。

あえて最後に野暮な講釈を。
13人の刺客の一人として途中から参戦する山の民・木賀小弥太(伊勢谷友介)の存在は重要です。『七人の侍』における三船敏郎の役どころを戯画化したようなトリックスター的な野人なのですが、この男は終始、侍嫌いの言動を見せるのです。他の12名の刺客たちが天下正道のため命を賭して立ち上がったとはいっても、戦っているのは武士どうし。小弥太が武士階級そのものをバカにするような態度を示し続けることによって、劇中における正義対暴君の構図そのものが相対化されます。侍の戦いは面白くねぇ。それを補完するかのように、エンディングの字幕でまもなく江戸徳川の時代に終止符が打たれたことが告げられます。
それまで太平の世の中を生きてきた真剣勝負を知らぬ武士たちが、互いに一世一代の肉弾相打つ死闘を繰り広げ、揚げ句、彼らの生命のみならず武士そのものの時代が終わる──。

そうです。この映画はいかにも壮大な規模で描出された武士階級への挽歌ともいえましょう。ただし、この挽歌、ラストのラストで御清めの塩ではなくちょっぴり甘い味付けがほどこされているのも一興。ってここに書いてしまうのは、やっぱり野暮の上塗りでしょうか。

*『十三人の刺客』
監督:三池崇史
出演:役所広司、山田孝之
映画公開:2010年9月
DVD販売元:東宝

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