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踊り、躍る映画〜『フラガール』

これは、まさに「躍る=踊る」映画。
歴史的役割を終えつつある炭坑に見切りをつけ、女たちが躍り出る。男を支える、という役回りからも舞い降りる。教師のダンスを初めて間近に見た女たちの胸は躍り、フラダンスに自分たちの夢を託す。女たちは、愛を囁くように希望を語るように、フラダンスを踊ります。

時代は変わるが、人はそう簡単には変わらないし、変われない。だからこそ、人が変わっていく姿、成長を遂げていく有り様を見事に描いてくれれば、そこに映画としての感銘が生まれます。

決して混ざり合うことはないと思われた、都落ちしてきた高慢なダンサーと炭坑町に住む田舎の女たち。幾多の試練を乗り越えて、やがて強い絆が生まれます。フラダンスを踊ると宣言した娘を張り倒した母親も、最後には娘のダンスシーンに喝采をおくります。
絶望的な風景から躍動感に満ちたエンディングへ、映画の古典的な作法をためらうことなく踏襲して、きっちり成功させた作品といっていいでしょう。

この作品において「人が変化を遂げる」とは、二重の意味を含意します。文字どおり、人間として心身ともに成長すること。今一つは、時代の節目にあって、新たな時代のステージを自覚して生活そのものを変革していくこと。
人間のそのような変化や成長に、ダンスこそはふさわしい。そこでは、人間のあらゆる感情が身体をとおして表現されるから。女たちのダンスの上達ぶりは、あたかも、この町が生きていくために成し遂げねばならない「脱皮」のように、生命力を感じさせます。それは、私たちが生きてきた戦後社会の一時期の縮図でもあるでしょう。

本作を製作したシネカノンは、李鳳宇が設立した会社ですが、2010年に経営破綻し、東京地裁に民事再生の手続きを申請しました。本作以外にも『月はどっちに出ている』『ビリケン』『パッチギ!』など数々の秀作を世に送り出しただけに残念なことでした。

*『フラガール』
監督:李相日
出演:松雪泰子、豊川悦司
映画公開:2006年9月
DVD販売元:ハピネット・ピクチャーズ

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