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山暮らしの楽と苦〜『八ヶ岳南麓から』

◆上野千鶴子著『八ヶ岳南麓から』
出版社:山と渓谷社
発売時期:2023年12月

東京と八ヶ岳南麓の二拠点生活をしている上野千鶴子が八ヶ岳南麓での生活をリアルに綴ったエッセイ。四季の景色の移り変わりを楽しみ、地産の食べ物を存分に味わう。そのような享楽だけではない。厳しい自然の中で暮らすには都会人には慣れない仕事もこなす必要があるといいます。
「山暮らしを勧める雑誌にはけっして出ていないこと」まで語ったというのが本書の売り文句。なるほど随所にそのような記述があることで読みでのある本になっています。

……山暮らしのよさは薪ストーブが使えることだが、それだけに頼るわけにはいかない。最初の着火にもコツがいるし、いったん燃えだしたら目が離せない。薪を用意するのも一苦労。寒い中を屋外の薪小屋まで取りに行くのも難儀だ。

八ヶ岳には何年かに一度、虫の大発生が起きる。数年前はヤスデの大行進を見た。道路という道路に体調十センチ以上はあるヤスデが覆い尽くし、クルマで通るときは轢いて進むしかなかった。つぶれたヤスデからは脂が滲み出る。ある年は毛虫が大発生した。ブルーベリーの若葉がほぼ食い尽くされた。

「八ヶ岳離婚」というジンクスもある。密着する時間が長いと、相手の見過ごせない癖やふるまいも増えるのだろうかと上野は推測している。アメリカの離婚も長期休暇の直後が多いらしい……。

ちなみに週刊誌を騒がせた故色川大吉氏との思い出話は最終章にさりげなく記されています。

本書を通読して感じたのは、ここに描かれる楽も苦も私のような凡人にはあまり縁のない話だということです。身も蓋もないことを書けば、都会と山麓の二拠点暮らしなどというものはやはり富裕層のものなのでした。

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