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本読みの記録(2019)

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ブックレビューなど書物に関するテキストを収録しています。対象は2019年刊行の書籍。
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2019年6月の記事一覧

労働力ではなく人間として〜『外国人労働者・移民・難民ってだれのこと?』

◆内藤正典著『外国人労働者・移民・難民ってだれのこと?』 出版社:集英社 発売時期:2019年3月 国家を越え、地域を越えて移動する人間が増えてきました。それに伴うトラブルや衝突もマスコミを賑わすようになって久しい。ヨーロッパでは移民や外国人労働者に対して排外主義的な政党の支持率が高まってきているようです。 一方、日本では2018年に入国管理法が改正され、今後、外国人労働者の受け入れを進めることになりました。世界の趨勢に逆らう政策転換がなされたわけです。もっとも実際にはこ

現代の実験心理学的知見を先取りした芸術論!?〜『詩学』

◆アリストテレス著『詩学』(三浦洋訳) 出版社:光文社 発売時期:2019年3月 アリストテレスの『詩学』は芸術論の古典中の古典として世界中で読み継がれてきました。本邦でもこれまで10種類の訳書が刊行されているらしい。 本書は近年の研究動向を参照しつつ現代の日常語に近い訳語を選んだというだけあって読みやすい和文に移し変えられています。おまけに、微に入り細を穿った注釈をほどこし、巻末の解説も180ページ近いボリュームです。 注釈を気にしなければ本文はスラスラと読めます。 本

違和感を巧みに言語化する文章芸〜『無目的な思索の応答』

◆又吉直樹、武田砂鉄著『無目的な思索の応答 往復書簡』 出版社:朝日出版社 発売時期:2019年3月 久しぶりの投稿で恐縮です。諸般の事情でnoteから遠ざかっていましたが、また、ぼちぼちと発信していきたいと思いますのでよろしくお願いします。 さて、今回紹介いたしますのは又吉直樹と武田砂鉄の往復書簡。 両者の立場は一見したところ対極にあるように思われます。片やコントや小説など何もないところから何かを創り出すのが仕事。一方は、そうして創作された作品を受けとめ批評することを生