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本読みの記録(2017)

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ブックレビューなど書物に関するテキストを収録しています。対象は2017年刊行の書籍。
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2018年10月の記事一覧

予測不可能な未来に向けて〜『自由のこれから』

◆平野啓一郎著『自由のこれから』 出版社:KKベストセラーズ 発売時期:2017年6月 技術の進化は私たちの生活を便利にしてくれましたが、自分で選択する機会を縮減しているようにも感じられます。ネット上でワンクリックするだけで読みたい本がすぐに届けられ、次にアクセスした時には推薦書がぞろぞろと画面に表示される一方、街の本屋さんは次々にすがたを消し店頭で偶然目にした本を衝動的に買うというようなことが少なくなってきたように思われます。 ──人間の自由意志はどこへ向かうのか? そ

近代日本を体現した二人の同窓生〜『夏目漱石と西田幾太郎』

◆小林敏明著『夏目漱石と西田幾太郎──共鳴する明治の精神』 出版社:岩波書店 発売時期:2017年6月 1901年7月22日、ロンドンに留学していた夏目漱石のもとに、金沢に住んでいた西田幾多郎から手紙がとどきます。その手紙にどのようなことが書かれていたかはわかりません。しかしこのやりとりを糸口に、著者は二人の間に多くの共通点があったことを明らかにし、彼らを包みこんでいた時代環境やネットワークを検証していきます。これは近代日本を体現していたともいえる二人の知的巨人の精神史的評

人間はなぜ〈男〉と〈女〉に分類するのか!?〜『はじめてのジェンダー論』

◆加藤秀一著『はじめてのジェンダー論』 出版社:有斐閣 発売時期:2017年4月 「人間には男と女がいる」という認識は一見自明であり、自然なことであるように感じられます。しかしジェンダー論の立場からいえば、実際には私たち人間がそのような現実を社会的につくりあげているということになります。ではどのようにつくりあげているのでしょうか。本書ではその問題がメインテーマとなります。 そもそもジェンダーとは何でしょうか。ときに「社会的性差」と訳されることがあります。「性差には社会的な

現代日本の最大のリスク〜『アベノミクスによろしく』

◆明石順平著『アベノミクスによろしく』 出版社:集英社インターナショナル 発売時期:2017年10月 アベノミクスは大失敗に終わっている。現代日本の最大のリスクはアベノミクス。──本書のメッセージは実に明快です。 アベノミクスの三本の矢とは「大胆な金融政策」「機動的な財政政策」「民間投資を喚起する成長戦略」です。本書ではとくに第一の矢である金融緩和政策を中心に論じています。大胆な金融政策とは「日銀が民間銀行にたくさんお金を供給してデフレを脱却する」というものです。 その