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本読みの記録(2017)

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ブックレビューなど書物に関するテキストを収録しています。対象は2017年刊行の書籍。
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2017年11月の記事一覧

近代日本の努力が凝縮された行事!?〜『愛と狂瀾のメリークリスマス』

◆堀井憲一郎著『愛と狂瀾のメリークリスマス なぜ異教徒の祭典が日本化したのか』 出版社:講談社 発売時期:2017年10月 クリスマスは今や日本の年中行事の一つとしてすっかり定着しました。しかし一部には未だにこのイベントに対して懐疑的な態度をとり続ける大人たちがいます。キリスト教徒でもないのにワケもわからず大騒ぎしている、と。商売人の煽りに乗せられているだけというのもアンチ・クリスマスの常套句のひとつでしょうか。 私はどちらかといえば、そのような「大人」の態度にこそ違和感

建築の中でもっとも魅力的な部位!?〜『世界の美しい窓』

◆五十嵐太郎、東北大学都市・建築理論研究室編著『世界の美しい窓』 出版社:エクスナレッジ 発売時期:2017年10月 窓は建築の中でももっとも魅力的な部位かもしれない。冒頭でそのように言明する本書は、文字どおり世界の美しい窓を紹介するものです。編者の五十嵐太郎はその惹句につづけて窓に対する認識を次のように示しています。 ファサードを人間の顔に見立てるならば、まず窓は目になるだろう。すなわち、目が顔の印象をつくりだすように、窓は建築の表情を決定する大きな要素である。もちろん

かくて私には歌がのこつた〜『中原中也 沈黙の音楽』

◆佐々木幹郎著『中原中也 沈黙の音楽』 出版社:岩波書店 発売時期:2017年8月 中原中也の詩は現代詩や文学の愛好者だけでなく現代のミュージシャンたちにも幅広く親しまれてきました。友川かずきをはじめ、小室等、おおたか静流らが中也の詩に曲をつけています。加藤登紀子の『いく時代かがありまして』も中也の代表作〈サーカス〉の冒頭の詩句を引用したものです。 中原中也の詩のなかにある「歌」を聴く。それは最終的には「沈黙の音楽」としてある。──本書は、みずからも詩人でもあり1998年