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本読みの記録(2017)

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ブックレビューなど書物に関するテキストを収録しています。対象は2017年刊行の書籍。
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2017年8月の記事一覧

ディーセントな暮らし、フェアな社会〜『僕らの社会主義』

◆國分功一郎、山崎亮著『僕らの社会主義』 出版社:筑摩書房 発売時期:2017年7月 気鋭の哲学者とコミュニティデザインを生業としている二人による異色の対談集です。ジョン・ラスキン、ウィリアム・モリス、ロバート・オウエンらの名前で知られるイギリスの初期社会主義がメインテーマ。 「今さら社会主義かよ」という外野からのツッコミにあらかじめ答えるかのように、山崎は「社会主義をスパイスのように」取り扱うことを明言しています。社会主義が提示してきた理念や構想を真っ向から吟味する、と

小さいことにクヨクヨすることから自己表現は始まる!?〜『コンプレックス文化論』

◆武田砂鉄著『コンプレックス文化論』 出版社:文藝春秋 発売時期:2017年7月 コンプレックスについて語る。といっても本当に切実そうなものからネタ的なものまで種々雑多。リストアップされているのは〈天然パーマ〉〈下戸〉〈解雇〉〈一重〉〈親が金持ち〉〈セーラー服〉〈遅刻〉〈実家暮らし〉〈背が低い〉〈ハゲ〉の10項目です。 それぞれの項目について、該当者へのインタビューを真ん中にはさんで、関連するテクストを読み込み文化全般に目配りのきいた武田の批評的なエッセイを前後に配する、

大事なのはファクトなのだ!〜『フェイクニュースの見分け方』

◆烏賀陽弘道著『フェイクニュースの見分け方』 出版社:新潮社 発売時期:2017年6月 誰もが発信者になれるインターネットの普及は、情報社会の活性化に貢献したかもしれませんが、同時に虚偽の情報=フェイクニュースがノーチェックで撒き散らされる状況をもたらしました。SNSでは出典が明記されていないデータや写真を平気で拡散するユーザーはあとを絶ちませんし、論者が具体的論拠を示さずに私見を述べあっている風景はメディアの新旧を問わず日常茶飯事です。現代では、事実=ファクトを探りあてる

一歩でも自由に近づくための〜『中動態の世界』

◆國分功一郎著『中動態の世界 意志と責任の考古学』 出版社:医学書院 発売時期:2017年3月 薬物やアルコールの依存症は本人の「意志」や「やる気」ではどうにもできない。これは医療現場では常識的な認識となっているそうです。「絶対にもうやらないぞ」と思うことが回復への出発点のように素人は考えがちですが、「むしろそう思うとダメ」なのだと専門家はいいます。 「意志」とは、私たちにとっては一般的にポジティブな概念ですが、むしろマイナスに作用する場合もありうる。言い方を変えれば、意