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友達は100人いらない

今でも覚えている。幼稚園だった頃。年長さんだった。先生が教えてくれた歌。「一年生になったら」有名な歌だ。

一年生になったら 一年生になったら 友達100人できるかな 100人で食べたいな 富士山の上でおにぎりを パックン パックン パックンと。

歌は三番まであって、100人で日本中駆け回ったり世界中をふるわせるくらい笑おう、というスケールの大きい歌だ。調べたら、作詞、まどみちお さん 作曲は山本直純先生だった。きっと、お二人の先生も意図していなかったと思うけれど、このうたは呪いのように小学生の私にまとわりついた。

幼稚園の頃は平和だったので、「いいなー。小学生になったら仲良しのお友達が100人もできて楽しそう」と単純に思っていた。けれど、のどかな幼稚園時代が終わり、小学校に入ったら世界は激変していた。

まず、知っている子がいない。家の事情で年長の2学期に駅の反対側に引っ越した私は、幼稚園時代に仲良しだったお友達とは離れてしまった。入学式の日、周囲の女の子たちは隣や後ろを振り返り、手を振ったりこそこそ話したりしているけれど、私にはその相手がいない。転校生でもないのに、自分だけひとり、取り残されたような気持ちになった。

本が好きだったから、休み時間に活発に校庭で遊ぶ方でもない。それでも、低学年の頃はまだよかった。本が好きな私にも居場所があった。

四年生の家庭訪問の時だった。母親が先生に「この子、放課後友達と遊ばないんですけど、大丈夫でしょうか」と尋ねた。ドキッとした。先生は「いやー普通にしていますよ。お友達とも遊んでますよ」とあまり取り合わなかったが、私の心臓はバクバク波打っていた。「やっぱり、友達100人いなくちゃいけないんだ!」

その頃の私は、友達と遊ぶよりも本を読んだりテレビドラマの再放送を見る方が好きだった。友達がいると放課後も遊んだりしないといけない。でも、私は自由。だから、特に困っていなかった。それなのに、母は「友達がいないなんて、おかしい」と思っている。衝撃だった。

それに、担任の先生がちっとも自分を理解していないことに驚いた。当時の私は矯正していて、男の子たちからは「イレバ」とからかわれ、母親が中学受験を保護者会で公言したので小学校ではとにかく浮いていた。今思うと、問題を「なかったこと」にするタイプの先生だったのだろう。

でも、塾には友達がいた。悩みを話し合ったりテレビの話をしたり、他愛もないおしゃべりが楽しかった。手紙をやり取りするくらい仲の良い子もいた。だから、私は早く中学生になりたいと思うだけで、自分に問題があるとは思わなかった。でも、親は私に問題があると思っている。私は、おかしいのか?

学校生活はそれからどんどん味気ないものになっていった。今でもそうだが、ルーティンも集団生活も私には合わない。今でこそ「個性を大事に」とか「ゆとり」と言われるが、昭和時代は集団生活を乱さない、目立たない子が「良い子」とされていた。私は勉強はできたけれど、みんなが大好きなドッチボールもゴム段も嫌いだし不得意。「女子の世界」に合わせるのも面倒臭くて、なるだけ一人でいたかった。

本の中の主人公は、みんな一人で戦っている。私はそんなヒロインたちを自分に重ねて「これでいい」と思っていた。でも、母はそんな私を「おかしい」と言い、不安がる。どうしていいかわからなかった。それはずいぶん後まで続いた。

振り返って、自分の子供たちを見ていると友人関係はとても自由だ。まだ小さくて男の子だからかもしれないけれど、面倒臭そうなグループもないし屈託がない。二人とも、旅先でもこちらがハラハラするくらいの図々しさで声をかけて遊び、バイバイ、とまた別れて帰ってくる。

あれでいいんだよなあ…とあるとき思った。

それに、50代になって感じるのは、昔どんなに仲の良かった友達も、時が経ってそれぞれの経験や選択があまりにかけ離れてしまうと、気持ちも離れてしまうのだ。

あの頃は、何時間でも喫茶店で喋ったり長電話したのに、ふとあるとき、話が続かなくてお互い白けてしまう。

全く別の道を歩いているんだな、と思うとあまり会いたいとは思わなくなる。そして、自分が選んだ先で出会った友人たちとの方が付き合いの時間は短いのに、濃くて深い話ができたりする。それは、きっと相手も同じ。

今の私は少ないけれどとても良い友人に恵まれている。学校時代の友人もいるし、社会人になってからの友人もいる。

一度に100人の友達と深くて濃い関係なんて築けるわけはない。そう思えるようになってから、私は友達との付き合いがとても楽になったし、「友達がいない」と悩むこともなくなった。

いつの間にか疎遠になった友人も、数年ぶりなのに出会った時と同じように新鮮で刺激的な友人もいる。色々いて、それでいいのだと思う。

だから、自分の子供たちの背中を見ながら、時々昔の自分に声をかける。「友達なんて、100人もいらないよ」と。









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