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子育ての備忘録〜(4.「恋を止めない」)

「沈黙、待つ、聴く」

それを続けていれば、自然と子供がのびのび育つ、と思っていたけれどそうは問屋が下さなかった。

子供は、ある日突然、何かに恋をする。アンパンマン、乗り物(車、電車、飛行機)、戦隊モノ、仮面ライダー、ゲーム、ポケモン……そして、すぐに飽きる。

わが息子もある日、電車に恋をした。彼は2歳くらいから完璧な「鉄」だった。

「夢中になること」というのは教えられないことの一つだと思う。大人の中には子供が何かに没頭したり夢中になっていると、止めようとする人もいる。私も「電車ばかりじゃなくて、車の名前も覚えさせたら?」とか「これじゃあ、オタクじゃない。もっと幅広い人に育てる気はないの?」と言われたりした。でも、私は止めたくなかった。

その頃、棋士の羽生善治さんのお母さんのエピソードを知った。将棋にばかり夢中になっている羽生さんを心配した周囲の人が「将棋ばかりやらせてないで、他のことも勉強させたら?」と言ったら「こんなに夢中になるものがあるのに、どうして止めなくちゃいけないんですか?」と問い返した、というエピソードだ。

側から見れば、バランスが悪く見えるのかもしれない。それは、成長したときに歪みとなって顕れるのではないか?と心配してくれているのはわかる。でも、取り越し苦労だ。

「なんでもそこそこ」できる子供の方が、なぜか大人たちに安心感を与える。自分が何もしなくても扱いやすいのだろうか。だから大人たちは、「夢中になっている」子供を「止める」。扱いづらいからか、夢中になった先に行く先を予測できずに恐れるからか。

でも私は、夢中になったこどもに寄り添いたかった。「なんでもそこそこ」なんていうのはバランスでもなんでもない。中途半端なだけだ。

飽きてしまったとしても、何かに夢中になって、それに親も付き合ってくれて楽しい思い出があれば、それは大人になった時に子供の力になるはず。

私たちは、長男の「鉄」にとことん付き合った。私も「ママ鉄」になり、あちこちに電車ウォッチングに行ったり車両基地見学をした。旅先の決め手はいつも「電車」。箱根に行く時は、新宿から「ロマンスカー」に乗り「箱根登山電車」にのり、締めは「ケーブルカー」。大井川鉄道でトーマスの機関車に乗ったり、小淵沢の「野辺山SLランド」という、これまたなかなか尋常じゃない永遠の「鉄」おじさんが、自力で山の上まで持ってきたSLに乗った。ちなみに小渕沢を走る小海線は世界初のハイブリッド鉄道車両で鉄道ファンに人気だ。

4歳の誕生日には「キング・オブ・連結」を見るためだけに、盛岡に行った。盛岡駅では、昼間は大体30分おきくらいに上下線で、「はやぶさ」と「こまち」の連結と切り離し、が交互に見られる。一回見れば満足するだろうと思ったら、息子はなんと、1時間半も盛岡駅に居続けた。

恋は、危うい。いつかは終わる。失恋するかもしれない。でも、他人が止めてはいけない。夢中になること。それが大事なのだ。

さて、初恋が終わった長男の次のお相手は「羽生結弦」だった。平昌オリンピックの演技に感動して「羽生結弦になる!」と言い出した。親バカな私、「わー行けるかも!末はオリンピック選手?」なんて思ったりもした。恋に落ちた日から彼は、ソファから何度もくるくる回って飛び降りていた。4回転ジャンプのまね。

しかし、フィギュアスケートができるスケートリンクはアクセスが悪い。準備もあるし面倒くさい。お金もかかる。……どうしようかな……と道端でもクルクル飛んでいる長男を横目に考えて、やっぱりやらせてみようとスクールに通った。フィギュアスケートは好きだったが、残念ながら練習は好きになれなかったらしい。オリンピック選手の夢、破れる。

その後も、子供たちはポケモンカード、将棋、ブロック、鬼滅の刃→どろろ→ブラックジャック、野球、サッカーとまあ、いろいろなものに夢中になる。(ゲームだけはコントロール中)

その度に私たちは手分けして付き合い、夫は、私が少し呆れるくらい自分のポケットマネーを時間もつぎ込む時もある。

もちろん、あまりに夢中な息子たちにイライラする時もある。私だけがくるくる家事をしているのに、当然のように寝っ転がって漫画を読んでいたり、宿題を終わらせる前に、選手年鑑に読み耽っていると時々イラついた声を上げてしまう時もある。そう意味では、線引きはいつも難しい。

私自身も、子供が何かに恋をするたびに「大変」というよりも「私の世界を広げてくれた」と思えるようになった。子供がいなかったら、SLにも乗らなかっただろうし、毎週スケートリンクに通う経験もしなかっただろう。

私たちの世界は、これからも広がってゆく。これからも恋はいっぱいして欲しい。止めないから。



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