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【ショート ショート】水が執着してくる日

確かあれは、水曜日だったはずだ。
とにかく水から逃れられない日でさ、参ったよ。
まあ、とりあえず聞いてくれ。

まず、水芭蕉がたくさん咲いてる池のほとりで、突然子供らに、水鉄砲で撃たれたんだ。
もちろんその場で倒れてあげたよ。大袈裟に。
僕は大人だからね。 

その日は彼女(水恵ちゃん)とデートだったんだけど、全身ビショ濡れになっちゃったんだ。
でも子供っていいね、無邪気で。
そんなこと考えながら歩いてたら、水苔で滑ったあげくに、水道の蛇口で頭をぶつけたんだ。
一瞬、意識が吹っ飛んだね。
まあ、そんな日もあるさ。
きっとスニーカーの底がすり減ってたんだろう。
悪いのは僕の靴だ。 

さっきも言ったけど、その日はデートだった。
水恵ちゃんは、いつも遅れて来るのでそれについてはもう慣れたし、待ってる間に服も乾くから、別に気にはしていないんだ。

水時計が、午後2時を告げた時だ。
お決まりのゴスロリファッションで、水恵ちゃんはやって来た。
手には、水色のテディベアを抱えて。
その日のドレスは、黒に真紅の水玉模様だった。 
フリルの帽子もバッグも、もちろんトータルコーディネートでね。
公園デートにその格好?って思うだろ?
僕も思うよ。でも、責めないであげて。
人には好みがあるからさ。
僕も別に嫌い・・じゃないよ。
ちなみにゴスロリの意味だけど、ゴシック&ロリータの略ね。シュールだけど、可愛い感じってことであってるかな?
いつも通りすごく目立っているけど、可愛いからってことで許してあげていいですか。 

僕の服はまだ乾いてなかった。
水恵ちゃんは、全身ビショ濡れの僕を一瞬チラッと見たけど、無言で目をそらしたよ。
そうだよね。いつも通りだ。
僕に興味なんかないもんね。
ひとつ聞いてもいいかい?
何で僕たち、付き合ってるんだろ。
きみのそのガラス玉のような目に、僕は映っていますか? 
・・・まあいいや。 

それから、僕たちは水辺のベンチに座って、水鳥を見ながら水絵を描いたんだ。
2人とも絵には自身があるから、どっちが上手いかで水掛け論が始まったんだ。
喧嘩じゃないですよ。あくまで水掛け論。
水恵ちゃん、こういう時はまるで機関銃のように喋るんだよね。普段はほぼ喋らないのに。
結局最後は僕が謝って終わるんだけど。
これもいつも通り。

仲直りのしるしに、売店で水と水あめを買ったら、無料で水鏡の占いをしてくれた。
2人の未来は、、、不透明で何も見えないらしい。
ハハハ 僕もそう思う。
おばちゃん、ありがとね。

水曜日はいつも広場の横で、水芸のイベントをやっているから、それを見に行こうとしたら、段差につまづいて、水溜りに足を突っ込んでしまった。
水恵ちゃんは厚底ヒールのおかげでセーフだったけれどね。
僕を待たずに水芸を見に行ってしまった。
酷い?冷たすぎる?
でも、これが水恵ちゃんなんです。
えっ?彼女のどこが好きかって?
えっと、、、えーっと、、、どこだろ。
ちょっと今、わかりません。

内緒ですが実は僕、水虫なんですよ。
水恵ちゃんには言ってませんし、もし言ったとしても、あの抑揚のない目で、ジッと見られるのが
オチ。これからも絶対、言いませんけどね。

水虫が疼いてきて、我慢が出来なくなった僕は早く薬を塗りたくて、何はともあれすぐに公園を出たのです。
公園滞在時間(デート?)約20分ぐらい。早っ!

ああ、それから帰る途中に、なぜか、イヤどうしても水羊羹(僕の好物)が食べたくなってしまって
水虫をどうにか制しながら、買って帰ったんですよ。 僕、すごくないですか?

そして家で、水虫の薬を塗っている時に、ふと気づいたんです。
水恵ちゃんがいないことにね。
あっ!公園に忘れてきたかも、、、と。
水恵ちゃんからは、あれから、連絡がありません。

これが、水曜日にあった出来事です。

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