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『かがみの孤城』 レビュー

 今回から読書感想を書いてみようと思います。
 はじめの一冊は最近発売された文庫本『かがみの孤城』です。作者の辻村深月さんです。辻村深月さんはファンも多いので、ファンを増やすような使命を感じなくてもいいから気軽でもあり、ファンが多いので不満や不愉快にさせるかもしれない心配もあり、気軽に書くには良いんだか良くないんだか……と思う『かがみの孤城』のレビューをします。それでは……

 舞台は中学校に行けなくなった物語の主人公安西こころの部屋と、そこに繋がった鏡の中の『かがみの孤城』。安西こころは中学一年生。イジメによって学校に行けなくなっています。たぶん家からも出られなくなった女の子です。両親は健在。兄弟はなし。父、母共に夕方遅くまで働いてます。たぶん二人ともサラリーマン。会社でバリバリと仕事している様子。
 辻村深月さんの『ゼロ、ハチ、ゼロ、ナナ』『太陽の座る場所』『島は僕らと』を以前に読んでいるわたしは、先の三冊が高校生たちを主人公にした小説だったから、その中学生版を想像するわけです。
 狼のリアルなお面をつけ、フリルのドレスを着た小学生くらいの女の子「オオカミさま」から、(現在五月から)三月三十日までに「願いの部屋」に入る鍵を城の中で見つけ、最初に見つけた一人が願いを一つだけ叶えるというゲームに強制的に招待される主人公たち。オオカミさまの表現では『異世界ファンタジーもの』の設定を思い浮かべ興奮する展開となる。こころは興奮するどころかドン引き。宝探しのようなゲームにはこころの他にも参加者が六人いる。全員が不登校か自分の部屋に引きこもっている中学生。
 想像をさらに膨らませ、『ネバー・エンディング・ストーリー』とか、作中にもあげられる『ナルニア国物語』とか、『不思議の国のアリス』『鏡の国のアリス』、『ライラの冒険』のような世界観が広がるのか? と想像します。母親が忙しく働くシーンがあって、父は存在するけども影が薄いから『魔法少女まどか☆マギカ』のような話しというのも考えられます。暁美ほむらが転校してきた処からストーリーが始まるし、ほむらは「時間操作」の魔法を使える設定で物語が何度もループするから、同じシーンが何度も出てくる展開も想像できるな。なにしろ東条萌さんが転校してきたところから、こころが不登校になった切っ掛けがあったわけだから、勘ぐれば六人のなかに実は東条さんがいるというのもありえる。オオカミさまが東条さんという展開もあるな。その他に、実はオオカミさまは小学校までのこころの分身という展開もあるし、実は、こころのことを心配している母が小さい女の子の姿で現れているというも考えられる。
 と、いったことを最初の『五月』の章を読み終わった処で想像しました。

 『六月』の章でこころの願い事が判明します。その願いとは、こころが学校に行けなくな理由でもあり、家から出られなくなった理由を作った同じクラスのいじめっ子真田美織が居なくなること。
 うーん……待て待て、いじめっ子が居なくなったっても、きっとこころの世界は変わらないよ。また別のいじめっ子が現れてクラスの猿山のボス猿のポジションに座るだろうよ。もしかした真田美織が半年後にはいじめっ子のポジションから引きずり下ろされていじめられっ子の地位にいるかもしれない。一年後の中学二年に上がったとき、クラス替えで入った新しいクラスで真田美織がいじめられっ子のポジションを当てられるかもしれない。
 わたしの経験では、中学一年のときにブイブイ言わせて好き勝手に傍若無人に振る舞っていた不良少年が、二年ときに学校にあまり来なくなり、学校辞めちゃうのかなーと想像していたら、中学三年生のときに母親が文字通り三年生のクラス担任の前で頭を床に付けて土下座をして「学校の残らしれてください」とお願いして残ったことがあったんだ。彼は一年生の頃、二年生の頃より温和しくなったよ。しかし、周りは腫れ物に触るように付き合うようになった。当時の雰囲気を表現すれば「軽い村八分」。誰も彼の方を見ない、声を積極的にかけない、彼のそばに近づかない。彼が大声を上げるとか、誰かを恐喝するとか、教室の物を壊すとかすると、黙ってクラス委員が担任に知らせる。担任が来て、「帰えるか?」「もう学校来るのやめるか?」「先生が、お母さんに知らせて(学校を)辞めさせて貰えるように言おうか?」と聞くというのが何度もあり、少しずつ彼は温和しくなりました。そして、クラスのみんなから「嫌なヤツ」早く(学校を)辞めてしまえば良いのにと思われながら、三月に一緒に卒業して行きました。

 この章ではこころが家から出られなくなった本当の理由――次の七月の章でこころの口から明らかになる――の伏線になる、ウレシノからのこころへ向けての恋愛“事件”があります。わたしも小中学校のときにウレシノのように恋愛至上主義的なところがありました。クラスの女子の誰かを好きだったし、テレビの中のアイドル、女優、芸能人も好きでした。好きな人がいっぱい居て、毎日幸せだった気がします。告白こそ“そこそこ”しかしませんでした。空気は読めましたので、断られそうな女子には言いませんでしたし、断られても受け止めてくれる女子にしか告白しませんでした。ネタにされ、クラスの笑いものにされるのはたまったものじゃありませんから。こころやフウカのように“普通”に女子として男子の告白を、誰かに面白おかしくネタとして話すタイプの女子には告白しないでおきました。ネタにされたりからかわれたりは、一度……二度あったかな……その位です(笑い)

 『七月』の章では、こころが家から出られなくなった本当の理由が、アキ、フウカの前で語られます。真田美織からどんな恐ろしいことをされたかを、こころが涙ながらに語ります。
 真田美織の蛮行を聞いて(読んで)、それは酷いねとわたしも思います。
 こころが美織(たち)に何をされたのは伏せておきます。三つ大きな嫌がらせがあったと思います。その他にも同じく教室に居れば、日常的に記憶しきれない沢山の嫌がらせを受けていたと想像できます。その細かい嫌がらせもこころは全て覚えているし、逆に美織はほぼ忘れてしまっているだろうと思います。

 『八月』の章では、フウカの誕生日、マサムネとこころの心の行き違い、スバル、アキが髪を染めて現れて五人が動揺する、ウレシノが「ぼく、二学期から学校に行く。ぼく、学校に行けないわけじゃないから」宣言に、こころを含めた六人が動揺するというのがあります。
 書き遅くなりましたがこころを含めた七人は学校に行っていない雰囲気です。実際、リオン以外の六人は不登校です。
 もう一つ書き忘れていました。『鏡の城』に集められた七人を、本文の一部を引用して書きます。
主人公の女の子 安西こころ
ジャージ姿のイケメン ハワイから来ている リオン
ポニーテールのしっかり者 年長者 アキ
眼鏡をかけた 声優こえの真面目な女の子 フウカ
ゲーム機をお城に持ち込むほどのゲーム好き マサムネ
(ハリーポッターの)ロンのみたいなそばかすの 物静かな 優しい スバル
小太りで気弱そうな 恋愛至上主義的 友好的に振る舞いたい ウレシノ
 作中の七人はこころの目から見ても、もし七人が同じ歳、同じ学校、同じクラスに在籍していたとしても共通点がない、たぶん別々のグループ、別の仲の良い人たちと連んでいると思われる個性がバラバラの七人です。

 『九月』の章では、二学期が始まりウレシノが学校に通いはじめたらしいところから始まります。こころたちはウレシノが鏡の城を出て行った(卒業した)ように感じられ、ウレシノが上手くいっているか気になります。そのウレシノが二週間後に、顔を腫らして、腕に包帯を巻いて再び現れます。彼の話では、「自分はイジメにあって、学校に行けなくなったのではない」。仲の良い友達と思っていた数人にジュースをおごったり、アイスをおごったり、マックをおごったりしていた。しかしその行為がパパに知られることになり、パパはウレシノがたかられているかカツアゲされている、もしくは食べ物を"だし"に彼が仲間を“釣っている”かしていると誤解したと言いました。そしてパパが学校に言い、問題として大きくしてしまいウレシノが学校に通うづらくなったしまったと、最初の不登校になった訳を話します。そして久しぶりに二学期から学校に戻ってみたら、以前仲が良いと思っていた者たちから「奢って貰えないなら、もうお前に用ない」と言われ、違うと思っていた彼は真実に気づき、キレて一人で元仲間たちに殴りかかった。多勢に無勢だったらしく返り討ちにあい、顔を腫らし腕に包帯を巻く大怪我を負った。またパパ、ママから学校に行かなくて良いといわれ、こころたちが居る鏡の城に戻ってきたと訳を話しました。
 マサムネのウレシノに向けた「お疲れ」の一言で、六人の気持ちが軽くなり、ウレシノはまた六人の仲間に戻りました。
 わたしもウレシノに似た男子の思い出があります。小学校のときの話しです。彼の場合、飴と鞭のように、暴力で人を従わせるかジュースやお菓子を人数分買って与えて従わせるかしました。当時付き合っていたわたしは、嫌で嫌でしょうが無かったです。中学になりクラスも増え、同級生も増え、わたしへの興味が薄れ(彼とわたしは中学のクラスが違いました)一年の二学期頃には彼と連むことはなくなってホッとした想い出があります。ウレシノは暴力を使ったりはしなかったでしょうけど。
 八月の章ではもう一つ、今後の展開に繋がるこころのエピソードがあります。ウレシノも、後にマサムネも通う「(フリー)スクール」【※スクールとは、学校に行っていない行けない子供たちが集まれる場所。情緒面や勉強面で面倒をみてくれる大人がいるので、本人、両親とも頼れる、安心できる場所】の先生、喜多嶋先生が、四月から夏休み明けのいまでも家に閉じこもっているこころを心配して様子を見に家まで来てくれました。喜多嶋先生はこころが傷付いていることに気付いてくれていて、しかもどれくらい今も一人で辛い思いをしているかも察してくれているようです。「こころちゃんは毎日、闘ってるでしょ?」「これまでも充分闘ってきたように見えるし、今も、がんばって闘っているように見える」と言ってくれました。こころは今まで、パパやママにも、クラス担任の伊田先生にも理解して貰えない、大人にはこころの気持ちなんて分かって貰えないと思っていたので、喜多嶋先生がこころの気持ちを分かってくれていることを感じ、初めて喜多嶋先生になら心を開けるかなと思います。一人で闘ってきたことを理解していると言って貰えるまで、こころは喜多嶋先生とも距離をとってました。

 『十月』の章では、この「鏡の城」での宝探しゲームのルールの、“最後”のルールがオオカミさまから伝えられます。
 まず宝探しゲームのルールを整理して書きます。
○ 選ばれた七人で、「鏡の城」に中で宝探しをする。
○ 宝は「願いの部屋」に入る鍵。見つけた一人だけが入れる。
○ 「願いの部屋」では、どんな願いでも一つ叶えられる。
○ 宝探し期間は、五月の七人が集められた日から三月三十日まで。
○ 鏡の城には、一日の中で日本時間の午前九時から午後五時まで入れる。開いている時間内なら、何度でも自分の部屋と行ったり来たり出来る。
○ ただし午後五時を過ぎたら自分の(現実の)部屋には二度と帰れなくなる。その上ペナルティーとして、城の中にいるオオカミに食べられる。また一人が犯したペナルティーは全体責任として、”当日”城に来ていた全員にも及ぶ。
○ 協力して鍵を探しても良いが、鏡を使って互いの(現実の)部屋に行き来したりはできない。
○ 第三者に話しても良いが、第三者の前では鏡の城に入れる“鏡”は開かない(鏡は光らない)。
 そして最後にオオカミさまが七人に伝えたルールが、
○ 鍵を使って、誰かが「願いの部屋」で願いを叶えた時点で、七人の参加者たちは「鏡の城」での記憶を失う。ただし三月三十日までに鍵が見つから場合、または鍵を見つけても誰も願い事をしなかった場合は、記憶は失われない。鏡の城は閉じられるが、個々での各自の記憶は持ったままになる。
 七人は、五月からの五ヶ月間の“鏡の城”で過ごしたみんなとの記憶が失われると知って、鍵を本気で探すか迷います。今までも本気探しているメンバーは少なっかったようですが、ますます探す気がなくなります。しかしアキは、これまでの記憶がなくなっても叶えたい願いがある様子。自分は鍵を探すと呟きます。
 そのアキが、突然、自分の中学校の制服を着てお城にやってきます。その制服は、こころが四月まで通っていた、現在通えていない「雪科第五中」の制服です。しかも驚くことにリオン以外のスバルもマサムネのフウカもウレシノも、こころ、アキと同じ雪科第五中の生徒だったことが分かります。また実はリオンもハワイではなく日本に居たならば雪科第五中に通っていたかもしれないと告白します。(←これ十一月にオオカミさまの口から判明する話し。リオンが認める形です)

 『十一月』の章では、アキの制服姿からリオン以外の全員が雪科第五中の生徒だということが解り。なら(リオン以外の)六人はもしかして”ご近所さん”だったのかな? という思いをおぼえ、六人で近所の様子を確認しあいます。すると微妙にずれます。ショッピングモールの名前が違ったり、マックの位置が違ったり、雪科第五中の一学年のクラスの数だったりが違います。「本当に、わたしたち同じ雪科第五中なのか?」と六人は考え込みます。
 あとリオンがオオカミさまに、「いつも雪科第五中の生徒の中から(ゲームに参加する七人を)選んでいるの?」「何年かに一度、こうやって集めるの?」「雪科第五中学校の全生徒がゲームの対象だったけど、光る鏡に気付いて潜ってきたメンバーがこの七人だったの?」と質問します。オオカミさま「違う。呼んだのはお前たちだけだ。最初から、このメンバーを選んだ」とリオンたちに答えます。

 『十二月』の章では、こころのクラスの担任の伊田先生が、学期末なのでこころに会いにきたいとママに知らせてきたことから始まります。伊田先生はこころが真田美織とケンカしたらしいから、二人を仲直りさせたいといった感じにこころのママに伝えています。このままではママまで、真田美織に操られた伊田先生に”言いくるめられ”てころろを誤解してしまうと思います。そこで初めて、傷付いて家からも出られなく本当の理由をこころはママに話します。こころが真田美織に、入学してから四月の間に何をされたのかを初めて聞いたママはショックを受けます。次の日に来た伊田先生は、やっぱりこころのことを手のかかる“問題児”と思っているようで、「真田美織と仲直りしないか?」「彼女も反省している」「彼女は明るくて、責任感がある子なのだけれど、誤解されやすいところがあるんです」とこころとこころのママに言いました。真田美織の反省は、伊田先生の心証を良くしようとするウソだとこころは直ぐに分かります。伊田先生はやっぱり真田美織に操られてます。でも伊田先生には分かりません。こころと真田美織を平等に扱おうとして、こころも真田美織に歩み寄ることを求めます。結果的にママが、「真田さんというお嬢さんの口から事情を聞いたと同じように、こころの口からも何があったか聞いてもらうのが先ではありませんか」という言葉に、ことばをなくした伊田先生は「また、来ます」と言ってすごすごと帰って行きます。喜多嶋先生とママ、事情を聞いたパパが味方に成ってくれて、こころは四月のあの日から初めて気持ちが安らぎました。
 十二月二十五日、こころたちは鏡の城でクリスマスパーティーをします。七人は各々ケーキやお菓子や、飲み物を持ち寄り。またプレゼント交換は止めようと言いながらも、自分の家からクリスマス気分を盛り上げる“ちょっとした”小物のプレゼント持ってきて各々が配ります(交換します)。
 クリスマスパーティーのあと、楽しい気分のまま七人が各々が部屋に戻ろうとする時、固い顔をしたマサムネがみんなを呼び止めます。「なあ、三学期だけど、一日だけ学校に行ってくれないか」と提案します。「始業式の一月十日、一日だけ、雪科第五中にみんなで登校して集まらないか」と。
 八ヶ月の間にすっかり仲が良なった「雪科第五中」の六人は、一緒に同じ日に、一日だけ登校することに異論はありません。逆に自分以外の五人も同じ日に来てくれると思うだけで勇気が湧きました。お互いに助け合おうと固く誓います。もし自分のクラスの教室に入れなくても、保健室で会おう。保健室がダメなら、音楽室か図書室に逃げ込んで、みんなで集まろうと約束します。そして上巻が終わり、下巻の『一月』の章へと続きます。

 気付いたかもしれませんが、わたし、ほぼ一章一章読みながらその都度感想文を書いてます。集中力がないのか、要約する力がないのか。プロの書評家が書く「解説」みたいなものが、作者の略歴も交え、急所(読みどころ)を盛り上げ、要約をさらりと書いて、自身の感想を面白く書くようことが出来ないのです。なので“少し”は読んだ人が盛り上がるように一章一章書くことに決めました。ネタバレが多い感想文ですが、本屋大賞を含め多くの賞に輝いた作品で、100万部を越えたベストセラーだから読んだ人が多いと思うので、事前に一回以上は読んでいる人が多いだろうと思うので、ネタバレは許してください。

 ということで下巻、『一月』の章です。マサムネ、アキ、スバル、こころ、フウカ、ウレシノは年が明けた一月十日に学校に向かいます。
 結果を先に書けば、こころはマサムネはおろか、誰とも雪科第五中の校内で会えませんでした。マサムネもアキもスバルもフウカもウレシノも、誰にも会えませんでした。鏡の城で固く約束したのに誰も学校に来ませんでした。こころはガッカリを通り越して悲しい気持ちになります。
 六人の約束は守られませんでしたが、こころが学校に行くと事件が起きます。まず、こころは始業式の時間をずらし登校したのに、東条萌さんも遅れて登校してきて、昇降口の靴箱の所でばったり出会います。こころは「萌ちゃんだぁ」と心の中で思いますが、東条さんはこころの姿を見て固い表情になり、こころに声をかけずに“無視"して行ってしまいます。こころはやっぱり自分は東条さんに嫌われているんだと確信します。続いて、上履きを履こうと靴箱を開けるとウサギのシールが貼られた封筒がこころの上履きの上に置いてあります。真田美織からです。中の手紙には「安西(こころ)さんと会って話したいです。」とありました。そして池田くんを譲ってもいいとか、応援するとか、こころからすればバカみたいなトンチンカンなことが真面目に書かれています。その真田美織の身勝手な振る舞いと、先の東条さんに見られたことを考え、玄関のところで息苦しくなって、教室にも始業式が行われている講堂にも行けなく成りました。すぐに保健室に向かいます。
 保健室に入って直ぐに、マサムネたちが居ないこと、学校に来ていないことに気付きます。その上、なぜか他の五人が雪科第五中に存在していないかのように養護の先生は言います。もうこころは立ってもいられなくなります。クラッと後ろに倒れそうになった処を、スクールの喜多嶋先生が受け止めてくれました。こころは喜多嶋先生の腕の中で気絶します。目覚めたあと、こころは保健室のベッドに寝かされています。側らには喜多嶋先生がこころを優しく見守ってくれています。そしてこころが真田さんから貰った手紙を読んだことを告げて、「あれは、ない」担任の伊田先生も酷いし、真田さんも酷いとこころの気持ちを代弁してくれました。もう一つ、こころが不登校になった理由、家から出られなくなった理由を喜多嶋先生やこころのママ、また伊田先生に教えてくれたのは東条萌さんだということを、喜多嶋先生はこころに教えてくれます。玄関で無視されたと思っているこころは、すんなり受け入れられません。ですが喜多嶋先生は「萌ちゃんは、こころちゃんに久しぶりに会って驚いてしまっただけで。こころちゃんの味方だよ」と言います。
 整理のつかない気持ちのこころは「家に帰りたい」と喜多嶋先生に言います。喜多嶋先生は「闘わなくて、いいよ。帰ろう」と認めてくれました。
 家に帰り、鏡の城に行くと、五人は城に居ません。こころがモヤモヤした気持ちで待っていると、リオンだけがいつものように遅れて城に来ました。「どうだった?」と無邪気に聞くリオンに、「今日、誰にも会わなかった。誰も学校に来なかった」とこころは胸が苦しくなりながらつっかえつっかえ教えます。
 午後五時のお別れの前にリオンからこころだけに、願い事が叶うなら「死んだお姉ちゃんを返して欲しい」という願い事をすると教えられます。こころは自分の「真田美織を消したい」という自分勝手願いよりも、もっと悲しい、切実なリオンの願い事に心をうたれます。協力したいとまで思います。

 『二月』の章です。その章では一月の約束の日に、なぜ六人が学校で出会え成ったのか。なぜ他の五人の存在が先生や周りの生徒に分からなかったのかを、マサムネを中心に議論されます。そしてマサムネの考えで、「僕たちは平行世界の住人で、一つの次元には一人しか存在しないから出会えなかったんだ」となります。こころ、アキ、スバル、フウカ、ウレシノの五人はなんとなくマサムネのパラレルワールド説を受け入れます。後ろで聞いていたオオカミさまは「またずいぶんたいそうな屁理屈を考えるものだなー」と呆れます。「会えないとも、助け合えないとも私は言っていない」とも付け加え。自分たちでもっと「考えろ」としつこく言います。鍵探しのヒントは、十分すぎるほど毎回出してもいるとも言います。
 で、わたしも考えました。ここに出てくるオオカミが童話のオオカミならば、『赤ずきんちゃん』『三匹の子豚』『狼と七匹の子ヤギ』のオオカミだよね。一番可能性があるのは、こころが見つけた暖炉の「×」印、アキが見つけたクローゼットの「×」印、フウカが見つけた机の下の「×」印、リオンが見つけたベッドの下に「×」、スバルが見つけた台所の洗面器の下の「×」、マサムネが見つけた台所の戸棚の「×」から推理して、『七匹の子ヤギ』に関係あるんだろうな。とすれば鍵はそこに「隠れている」……→「隠されている」ということになります。鏡の城だから、左右逆転の世界? 鏡を間に隔てて、こころたちの本当の部屋と対になっている世界なのかな? こころの場合はキッチンの換気用ダクトの中にある? もしくは、こころたちが七匹の子ヤギだとすれば、鏡の城の世界には“一人"だけ余る者がいます。それはオオカミさまです。オオカミさまはこころたちを「赤ずきんちゃん」と呼ぶけども、自身が狼の面を被った赤ずきんちゃんかもしれない。なぜなら、童話『赤ずきん』で狼はお婆さんに化けていたし、『七匹の子ヤギ』で狼はお母さんに化けていたから。『三匹の子豚』の狼は誰にも化けていない。もし赤ずきんちゃんが身を守る為に化けるなら、逆に狼の姿に化けるでしょう。それにオオカミさまが言う「大いなる力」災いをもたらす大きな狼は存在が分からないが、子供のような姿のオオカミさまは城の中に存在します。ということは、鍵はオオカミさま(本物の赤ずきん)なんじゃない? つまり、現れたり消えたり自由にできるオオカミさまを捕まえて、「願いの部屋」に連れてゆけば叶えられる。じゃあ「願いの部屋」はどこかと言えば、自分たちの鏡の向こうの部屋。オオカミさまを掴まえて自分の部屋に連れ帰った人の願いは、現実の世界で叶えられるが、オオカミさまを連れ去られた鏡の城の世界は消滅する。それに、他の六人の部屋の鏡も同時に閉じ、記憶も失われる。どうだろう。苦しいのは誰も正面の大時計を確認していないこと。大時計の中に「願いの部屋」の入り口があるかもしれない。「×」の換わりに本物の鍵があるとは思えない、他の場所は「×」印で、正解は「○」なんてべたでしょ(だから鍵は赤ずきん)。なにしろ『七匹の子ヤギ』の最後の一匹は大時計の中に隠れていて助かったのだから、一番大時計が怪しいんだけど、誰も調べていない。あと各々の鏡の真後ろ。そこに鍵がくっついていてもおかしくないんだよな。
と推理します。

 そして運命の『三月』の章です。謎は解決します。タイムトラベルと表現するのか、タイムワープと表現するのか分かりません。結末は七人が七年おきに鏡の城に呼ばれたということになります。
 クライマックスシーンを詳しく書かないのは、詳しく書いても私の筆力では面白くないからです。辻村深月さんによる本作を読んで貰ったほうが百倍面白いです。
 オオカミさま=赤ずきんの正体に関していえばはずれました。オオカミさまの正体は、なるほど、それは想像してませんでした。喜多嶋先生に関しては、やっぱりという感想です。なにしろ喜多嶋先生の下の名前が出てきてませんでしたから、鏡の城の彼女か? 同窓の彼女か? が大人になってこころたちの前に現れたという風になるんだろうなと想像してました。わたしは、まあ喜多嶋先生がタイムトラベラーという想像です。作品中にこころたちが「ありえない世界観」と鏡の城に集められたことを表現していたので、もう一つあり得ない設定があって、実は喜多嶋先生は、成長した彼女が未来から来て、こころたちのピンチを優しく助ける姿だった 。というふうに考えて読んでいました。

 『かがみの孤城』を読み終わって、わたしは『太陽の坐る場所』のほうが面白かったです。クライマックスのシーンも読み応えあったからです。
 もし読む順番が逆だったら、印象は違っていたかもしれません。
 (ネタバレになりますが)勝手ながら、こころと東条萌さんが友達(親友)に成って終わるだろうなーと思っていたので、「2006年4月7日」のページで仲良くなる転校生がリオンくんだったのがすこしガッカリです。ああ、恋愛モノに発展する予感を残すのかぁー、という感じ。あれだけこころは「バカみたい恋愛ゴト」で振り回されたのに、恋の予感をの残すのかぁー、とね。

 漢字が読めるのならば小学生から、中学生くらいの子供たちに、
老若男女、読む人の年齢を選ばない作品です。面白かったです。

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