『神さまの貨物』 レビュー
『神さまの貨物』を読んでの感想を書きます。
日本橋丸善で探したら、三階の高学年読書コーナーに置かれていたのでビックリ。二階の翻訳小説の棚じゃないんだ、ポプラ社から出ているから児童向け読み物と思われたのかな。それともポプラ社の営業さんのセールスで児童向け読み物コーナーになったのかな。最初はそう思いました。
内容を簡単にまず書けば、雪の降る季節のある日、森に住んでいる木こりの夫婦の元に、貨物列車から一人の“女の子”の赤ちゃんが預けられます。木こりの夫婦には子供がなく、夫はとうに諦めていました。妻は神様に貧しくとも自分たちに赤ちゃんを下さいとお願いしていました。ただ、夫は強制労働にかり出され、木こりの仕事も猟師のような仕事も出来ない状態でしたし、本当に貧しいので、妻は森を通る貨物列車に向かって、何でも良いから(食べ物を)プレゼントを下さいと追っかけている毎日でした。そこへ、妻に赤ちゃんが渡されます。妻は赤ちゃんを受け取り、大事に家に持って帰る。そこから物語が本格的に始まります。だいたい、三章までの話しです。
わたし、角川書店から出てます、サカリアス・トペリウス作、石井睦美文、せなけいこ絵の絵本『星のひとみ』は大好きなんです。せなけいこさんの絵で描かれた女の子「星のひとみ」がなんとも神秘的で可愛らしい。フィンランドの民話を元にしたのか、サカリアス・トペリウスのまったくの創作か分かりませんが、何度も読みたくなる不思議な魅力があります。
『星のひとみ』の内容も書きます。話しは冬のある日、サミー人の夫婦が雪深い山を夜中に二艘の橇に乗って越えようとしていました。そこにオオカミの群れが追っかけてきて、橇を引いていたトナカイがビックリして橇を急激に走らせます。母親に抱かれていた女の赤ちゃんは母の胸からも橇からも振り落とされてしまいます。しかし空は雪が上がり、星が輝いていて。星たちが赤ちゃんを照らしオオカミからも不運からも守ってくれます。時期に偶然通りかかったフィンランド人の農夫に赤ちゃんは助けられ、農夫の家に連れ帰って貰えました。赤ちゃんはすくすくと農夫の娘として育ち三才になります。すると「星のひとみ」と呼ばれる女の子に不思議な能力が発現します。「星のひとみ」に見つけられると誰もが、喧嘩していた犬や猫ですら温和しくなり。荒れた天気の空を「星のひとみ」が見れば嵐も治まりました。「星のひとみ」には人の心の中も見えました。気味悪がり、心の中を探られたくない農夫の妻は「星のひとみ」を家の地下の穴蔵に閉じ込めました。「星のひとみ」は穴蔵の外の部屋の様子も、閉じ込められている中から分かり、また部屋にいる人の行動、考えていることまで見えてしまうのです。
といった不思議な女の子の話しです。
『神さまの貨物』も『星のひとみ』に似た物語りかなと思って買いました。
読んで驚きました。ぜんぜん違う。第二次世界大戦中のポーランド辺りを舞台にした話で、最初にナチスを思わせる「くすんだ緑の制服」、ソ連軍を思わせる「赤い星の軍隊」、共産圏型ボーイスカウト「ピオネール」まで最後には出てくる。神様から木こりの妻への贈り物の女の子の出自、と関連してユダヤ人とホロコーストの話がメインだったりします。おとぎ話感は果汁50%くらい。木こりの妻と女の子、木こりの夫、中盤から後半に出てくる、前の戦争で身も心も傷ついたでも本当は気の優しい顔のつぶれた男、の出てくるストーリーはおとぎ話のようですが(そこも少し酸味がありますけど)、女の子の本当のお父さん、とお母さん、女の子の双子の兄弟が出てくるストーリーは相当に苦い味です。激辛というくらい苦い・辛い味です。
大戦が終わって女の子は、木こりのお母さん(木こりの妻)と幸せに、小さな町または小さな村で結婚して子どもを産んで幸せに暮らしましたとさ、で終わると思ったら、ラストはなんと! 女の子はピオネールで模範生になったとさ、で終わるとは。いやー、苦い味です。
そのうえ、「エピローグ」と「覚え書き ほんとうの歴史を知るために」で、作者のジャン=クロード・グランベールさんが実はホロコーストの生き残りの子孫だったことが明かされ、また女の子のモデル、その父さんのモデルが居たことも明かされます。記録はありますが最後は分からないと結ばれています。想像通りだと思います。たぶんガス室でしょう。
小学生高学年の子供たちに読んで欲しいと、作者のジャン=クロードは思っているでしょう。そして詳しく書かなかった場面は、お父さん、お母さんが子供たちに話して欲しいと思っているでしょう。そしてお父さんお母さん子供たちで、ホロコーストのこと、戦争のこと、戦争中に自分の欲に負けて戦争犯罪に加担してしまう人、その弱い心について話し合って欲しいと願っていることでしょう。
『アンネの日記』『夜と霧』に、並ぶとも劣らない物語りだと思います。
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