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選択に伴う罪(ネタバレ含む感想)


 ストーリーはすごく面白かったです。

 戦争もののフィクションで架空のキャラクターを上手く混ぜ合わせていたし、軍部vs数学という暴力vs知力の、あまり戦争もので見たことがない構図で斬新さがあったと思います。これが『イミテーションゲーム』のように他国への対立で行われるのではなくて自国内での対立で行われるのが日本の悲しいところではあるけど。

 そして、あれだけ立ち向かっても軍人たちの老獪さに最終的には翻弄されて時代の大きな渦に巻き込まれてしまうところもあの時代の遣る瀬無さとどうしようもなさの感じるラストで良かったと思います。

 菅田くんの演技も上手くて特にラストの泣き顔なんてあんな風に涙を流せるなんてと思いました。影の主役たる田中泯さんも迫力があってすごく良かったです。

 でも、でもですよ?国民に負け方と絶望を教えてスクラップアンドビルドをするために戦争するって、犠牲になる名もなき軍人と民草にとっちゃ堪ったもんじゃないと思うんですけど!!!!!

 いや、史実は変えられないし大和は造られちゃうし日本は絶対負けるんだから、あの結末になるとは思います。歴史の授業とかで先生が言い出す「日本が成長するために、ある意味あの戦争と敗北は必要だった」ってやつになるのは。

 ただ、あの映画で違和感があるのは、その話を上のほうだけの描写でして、下の者たちの描写が殆ど無いことなんですよ。その方向に持っていくなら冒頭の大和が沈むシーンで「沈まない船じゃないのか大和は!大和が沈むはずが…そんな、そんなの…」みたいに言って絶望の中で亡くなる軍人の描写はいると思うんですよ。登場人物たちの選択は犠牲を承知で行ったもので、その犠牲になる者にとっては酷く理不尽なもので、でもそういった犠牲があったことは私たちの生きる時代の平和と地続きであると感じる為にも。

 今日、呉へ観光に行って大和ミュージアムを訪れたんですが、そこで流れていた大和の生還者の方の証言はそれはもう壮絶なものでした。そして誰もが言っていたのは「大和は沈まない船だと思っていた」なんですよ。そりゃあんだけ立派な戦艦であれほどの技術を集約させたもの初めて見たら沈まないと思いますよ。既に戦闘機の時代となっていたのに、戦艦を造ってしまうという致命的な判断ミスがあったとしても。だからこそ冒頭のシーンにはもっと力を入れるべきだったと思うんですね。

 正直、田中泯さんが後半に言う「戦争を止めるというのは国民が許さない」という台詞も何言ってんだー!という感じがしました。特にNHKで『この世界の片隅で』の地上波放送を見ていたので。すずさんが言っていた「最後の1人まで戦えと言われたから、ここまでしてきたのに、勝てないなんて、なんのために戦争をしたんだ」という怒りはまさに犠牲になった人のそれで、その人たちに幻想抱かせて苦しめたのはあんた達みたいな奴らだろ!と。責任転嫁するなよ!と。

 だからこそ彼らのしたことは今の時代に繋がっているけど、たしかに罪だったことを表すためにも、菅田くんの涙に重みを持たせるためにも、無惨に犠牲になる人々を描くことは重要だと思うんですよ。

 そこらへんは国内の作品なら『風立たぬ』が真摯だったと思うんですよね。二郎とカプローニさんの会話には「飛行機は呪われた夢だ」という台詞が良く出てきます。彼らは自分たちの罪についてはっきり理解していて、序盤から一貫した姿勢をとっている。技術者としての罪は、あの映画の中でテーマの1つになっていると思います。技術者側からの視点なので戦争描写はほぼないですが、その分、彼らの罪は映画全体で語られているんですよ。特に二郎とカプローニさんのラストの会話なんかは正にそうだと思います。

 反対に『アルキメデスの大戦』は、ずっと戦争を止める為に大和の製造を中止させようと奔走していた主人公が、終盤で本当の意味で戦争を終わらせる為に悪魔の選択をするというストーリーです。罪を認識するまでの時間が尺の中で短い分、冒頭で彼のした選択はこれほどの痛みを持たらしたと描写することは重要ではないかと思うんですが、どうなんですかね。

 それと、なんでラストのところに佑くんいないんですか??なんかあったの???いないことに意味を持たせるなら、それこそ真実を知ってしまって同僚の軍人たちがたくさん亡くなるかもしれないことに怒り菅田くんを糾弾して去る場面とかを入れた方が良いと思うんですけど。

 ここまでめちゃくちゃ監督気取り野郎な感想しちゃいましたがストーリーとしては面白かったと思います。監督の山崎貴さんが私に合わないだけです。どうしても「惜しいッッッ!!」と感じちゃうんですよね。このままだと延々と感想書いちゃいそうなので黙ります。

 菅田くんは本当に演技上手かったので、ラストの涙を見るのだけでも価値はあると思います。

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