だるま食堂の住人 その1

俺は、場所を探していたんだ。――
俺を……俺の全てを誰もが、知らない場所を…
着の身着のままで、逃げてきた。――新幹線と電車を乗り継ぎ…無人駅で降り立った。
人気の無い道を何時間も…ひたすら歩く。
しかし…人気どころか……店すら無い。――
目の前には、果てしない海が広がる。……のは、良いが…逆サイドは山で…
今にも、獣が出て来そうで怖かった。――
と、――薄ぼんやり…明かりが見えた!
国道に沿い歩いて行くと…閉まってはいるが店だ。
「だるま食堂」と、雑な手描きの看板が、潮風に揺れている。――
2階が住居なのか…?明かりついていた……
庭に木のベンチが置いて有る。
人気が有る事に安心感を覚えた俺は……
そっとベンチに寝っ転がった。
疲れ果てていたのだろう…
そのまま、眠ってしまったんだ。――

夢を見た……作り笑いをしていた。――
可笑しくも無い事に笑って…
口に出し、言った様だ…寝言ってやつだね。
「ハハハッ。面白いですね。」――
自分の声で…目が覚めた。と…
少し離れた場所に…女の人が立っていた。――
目を見開き、驚きの表情を浮かべている。
手に、バケツと雑巾を持ち……
「あ…」――後退った……
俺は、何か言わなくては……と、思った。
「お早う御座います。――あの…スミマセン……」
彼女はジーッと俺を見回している。――もう、驚きからは醒めたようだな。
「…辺りに…何も無かったので…泊めて……は…は」
「…?は…は?」――彼女が言った――途端に…
「ハクション!」 俺は、クシャミが、出た。
「あー、クシャミか。」 彼女は笑顔になった…
寝転んでいた俺は、起き上がりながら…
「スミマセン。泊めて貰いました。」――と言った。
「だって……朝方、雨が降ったでしょ?」
彼女は、俺に近寄りながら訊く。
俺も、彼女をマジマジと見て…
「あぁ、それで、寒かったのか…少し、ぬれてる…」――と、髪の毛を触った。
「ぶっ!」――突然、彼女が吹き出した。
「え…?」 今度は、笑い出す。――「ハハハッ!」
バケツを下に置き…「ハハハッ。顔!」と…
俺は、慌てて顔をはらい…「何?何か付いてる…?」
「ハハハッ。落ちないよ…ベンチの型が、二本…ハハハッ。顔!」 笑い過ぎだろ。――
自分で言うのも何だが…笑われる程の顔ではない…
顔を撫でて確認するが……
「え…解らないや…酷い…の…?ハクション。」
女は、俺を見ていて、暫く間を開け、――
「――風邪ひくよ。着替えは?」 訊く。
「いや…着の身着のままで、逃げ……出て来ちゃったから…無い。」
逃げたと、言いそうになり、言い直していた。
俺は、金髪だったし、逃げて来たと言ったら…何だか…勘違いされそうだと思ったんだ……
「店、入って。――お風呂、入れるよ。」
驚いて…一瞬、躊躇した様になり…慌てて言った。
「……悪いから…これから、お店開けるんじゃ?…」
「ウチは、昼にしか開けないから。大丈夫、襲いやしないし、――顔も…見て欲しい。ハハハッ。」
冗談混じりに軽く言った。
やはり、躊躇したと思ったらしい――が…彼女の言い方に、俺は気が楽になった…
「俺も、顔見たい。ハハハッ。じゃあ…遠慮無く…襲うって…なんだよー。ハハハッ。」 笑った。
「じゃあ、急いでお風呂入れるよ。来て。」
バケツを持ち、足早に戻って行く。
俺は、慌てて立ち上がり。「体が痛いよ…待って…」
と、彼女を追っていた。――
ガラガラと、引き戸を入り、奥から二階に向かいながら…「座って、待っててね。」俺に声を掛ける。「はーい。」 答えた…
短いカウンターの席に腰を落ち着ける。
後は、二つのテーブル席が有るだけのお洒落とは、縁遠い店だった。――
なんか…いいなー。ここ…手帳にメモをした。
深夜に発見した時点で、――爺さんと婆さんが、やっている店だと、俺は決めつけていた…
「だるま食堂」だぜ。……まさか、女の人がやってるとは…思いもしなかった。
2階から、声が掛かる…「上がって来てー。」
「はーい。」 俺は、階段をミシミシと上がった。
彼女が、手招きをし…
「着てる物、洗っちゃうから脱衣カゴに入れてね。私、車で、トランクス…?で……良いのかな?買って来るからさ…」 彼女は続けて…
「顔…みながら、ゆっくり、温まって。唐辛子のお風呂だよ!ハハッ。」
俺は、顔を撫で…「有難う御座います…ハハッ…」と、照れて笑う。――
風呂で…先ずは、鏡を見た…2色パンの様にぐっきりと型がついている。――笑う訳だわ…
自分でも苦笑して…イイ男が台無しだな。などと、考える。
エンジン音が聞こえる…出掛けたらしい。
「おいおい…」俺が、物や金を盗み、逃げでもしたらどうするんだ…?「全くっ!」
見ず知らずの人間…しかも男を、家に上げる時点で充分、無用心じゃないかっ!――
お門違いにも…俺は、独り言を言い、怒っていた。
……恩知らずもいいところだ。――
冷え切った体が解れ…ポカポカしてきた。
二本の線を消すべく、顔を湯船の中で揉んだ。
グウ……腹の虫がなる。――「腹減った…」 呟く。
ゆっくりとつかり…体や髪を洗い始めた。と…
車の音が聞こえ…ガラガラと、引き戸を開ける音がした…続けて、ミシミシと音が鳴り…
「間に合った…」と、呟きが、聞こえる。――
「ここに、トランクス置くよー。着替えたら下に来てね!」 彼女が風呂場に声を掛ける。
「はーい!」 泡だらけの髪で、俺は答えた。
体も温まり、顔の線も薄らいで……
用意して貰った、ジャージーと、トレーナーを身に付け、ミシミシと階段を下りる。――
いい匂いがしてくる…グウ……又、腹が鳴った…
下に行くと…「おっ。イイ男になったね。ハハハッ」
彼女が言った。――「お腹空いたでしょ?」
「有難う御座いました…温まった…」 グウー…
この挙げ句、飯までなんて…遠慮しなきゃ……
思う俺よりも早く……腹が答えてしまった。
「ハハハッ。だよねー。私も食べるから。座りなよ。」 
俺は……遠慮がちにカウンターの隅に座りながら…
「昨日の昼から…食べて無くて…」
と、一応の言い訳をした。――
「じゃあ、大盛りだ。」 言い。
大きめの、お碗に入った豚汁と、野菜を添えたハムエッグを出して、丼にご飯を盛った。――
実は。彼女が風呂を入れている時から…腹が減り、店のメニューを見ていた…
「豚汁――200円」と大きな張り紙が有る。
おいっ…書き間違いか…?…値段、おかしいだろ!
美味そうだなぁ……思っていた。
彼女と、カウンターに並び。――
俺は、言う…
「本当に…何から何まで……」
「はい。頂きます!早く、食べなよー。」 
俺の言葉を遮り…彼女は食べ始める。――
「頂きます!」 俺は、夢中で食べた。
豚汁とご飯をおかわりまでして――いささか、自分の図々しさに呆れながら……
食べている途中に、ちょっと…メモを取った。
「はぁー。ご馳走様でした。美味しかったー!」
「落ち着いた?」 彼女は、片付け。
お茶を配りながら言った。――
「洗濯しちゃうよ。適当しててね。」
「あ…俺が、やります…」 お茶をすすり、言う。
緑茶……美味いなー。
「いいよー、人のウチの家電ってさ…使いづらいじゃん?」 お茶をすすりながら、彼女は言い……
「あー…若者。そこにコーヒーメーカー有るから、セルフでね!」 と、続けた…
若者って歳でもないが…「はい。」――答えた…

彼女は、二階に上がっていった。――
俺は、手帳を取り出し、携帯を手に作業に入る。――カチカチ携帯を押していると…
「毎度ーぉ……」――年齢不詳の…ツインテールにした女が、野菜の詰まった箱を持ち……
俺に驚き……立ち尽くす。
「あぁ…上です。待って…」 
上を指さし、二階に声を掛ける。――
「あのー!…」 大きな声は出したものの…
言葉に詰まった……誰だ?
「八百屋だよ。」 女が言った。
「八百屋さんでーす!」 俺は、そのまま繰り返す。
「はーい!」 ミシミシ彼女が下りながら…
「あー。あられか。ゴメン…洗濯してた。」
「びっくりしたよ…」 と、言い。――
「満留が、若いの…連れ込んだよー。って…だって服がさぁ。」 
俺の着ている、彼女の服を見回した。
「連れ込んだんだよ!今朝、拾って。風呂に入れた…これから!って時に…あられが来ちゃった。」
おいっ…
――彼女は吹き出し…「ハハハッ。嘘、嘘。」
「たくっ…自分、いくつだよ!――今日の分だよ。……これから、開けるの?」 と、訊く。
「有難う。多分ね。」 彼女は、曖昧に答える。
多分ね。って…そんな感じ?適当だなー。
普通は、何時から何時までってのが、食堂だろ?
場所柄なのか…? 一体、この場所で商売になるのだろうか……もう直ぐ、お昼だが…
いくつだよ!って……彼女はいくつだよ…? 
八百屋のあられさん…あなたもね。――
彼女達の会話を、黙って聞きながら、色々、思い…俺の想像が広がっていく。
この、迷い込んだ、不思議な店に興味深々だ。――

お昼近くに、店は一応…開いた。
俺は、カウンターに腰を据えたまま……携帯を操作し、自分で煎れた、コーヒーをすすっていた。――
「こんちわー。」 と、三人連れの漁師らしき人が、来店した。――「はーい。これ、土産。」
「いらっしゃい。わー。有難う!」彼女は受け取り。
「お疲れ。今日は…豚汁と…何?」と、訊く。
「俺は、唐揚げで、ビール。」
「俺も同じね。」
「俺は、今日、運転の番だから…焼き肉。」
それぞれが答える。
「了解!」 
彼女は、台所に入り、手早に作業を始めた。――「市場、忙しいの?」 
男達に声を掛け、ビールを持って行く。
「まだまだ、ここからだろ。」 答えが返る。
台所では、ピチピチと、唐揚げが音をたて…いい匂いがしていた。
彼女は、野菜を切り…肉を手早く炒める。
「お待ちどおさま。」
焼き肉定食を先に出し。――
「嬉しいな。やっと、夏だね!」と、微笑む。
「満留は、夏が好きだねー。」 一人が言い――
「俺も、冬よりゃいいがな。」と、続ける。
「でしょー。はい、唐揚げ、お待ちどおさま。」
全部を出し終わり、――又、カウンターに戻った。
俺は、一つしか空きの無いテーブルを見て…
「俺…邪魔?」と訊く。
「大丈夫。混まないから。」――真顔で答えた。
聞いていた、男達が…
「えっ。お客じゃないの?」 もう一人が、
「まさか…彼氏?」 すかさず、もう一人が…
「ないない。」と、言い出す。
「ちょっとぉ。ないない。ってねー。彼氏だよ!」
彼女は言い切った。
おいっ…
「ハハハッ。無いかー。拾い物だよ。ねっ?」
と、続けて……俺を見て笑い掛ける。――
――綺麗な顔だ。…笑うと、可愛いに変わるんだよなぁ……なんて、考えながら。
「はぁ……」 と、曖昧に答えた。
「カッコいい物、拾ったなー?満留。ハハハッ。」
「でしょ。良いでしょー。これ。ハハハッ。」
と…笑った。
漁師らしき人達が、帰ると入れ違いに、前の工事の人達が6人で、来店した。
その後、肉屋さんが配達に来て、お肉の切り端をお土産にくれ、飯を食べ、話していく…
俺は、仕事を続けていた。――
その後は、誰も来なかった。
二時頃だ。――「あー、忙しかった。」
彼女が言い。――
「腹ペコだ。パスタにしよっ。貰った、イカが美味しそう!」
忙しかった…のか?多分、夜がメインなんだな…?
彼女が、訊く。
「若者、イカは、大丈夫?」
「大好き!――獲れたて?美味そー。」
すっかり。食べる気、満々だよ…俺。
「うん。美味そー!じゃあ、待ってて。」
彼女はパスタの準備に掛かった――
俺は、又、手帳にメモした。――彼女の、手際良い作業を目で追いながら、携帯を操作し始める。
一段落した俺は、彼女に声を掛けた。
「ねえ、コーヒー煎れるけど…飲む?人のウチのだけどさ。ハハッ。」
彼女は手を止めず…「飲みたいー!煎れてくれる?――ウチのだけどさ。ハハッ。」
と、笑う。
俺は、コーヒーをセットしつつ。――窓から、見える海を眺めた……いいなぁー。
この店は、仕事が進む……アイデアも出てくる。
ここの様な場所が、近くにないかな?――
無いわ……歩いて来る間に、ホテルは一切、無かったもんなー。
ってか、店さえ無かったし…
この近くに泊まり、――暇な…この店で、彼女の豚汁を食べ、コーヒーを飲み、売り上げ貢献しつつ、仕事が出来たらなぁー。
勝手に俺は、考えていたんだ……
「コーヒー、煎れたよー。」 配りながら言う。
「私も出来たよー。」 皿を置き、彼女も言った。
カウンターに二人で並び……
「はぁー。美味そう!頂きます。」
遠慮という言葉を……宇宙の果てに飛ばしてしまった俺は、食べ始めた。――
彼女も、「頂きます。」 と、食べ始め…。
「うーん!イカが、ピキピキして、美味しい!」
一心不乱に食べていた俺は…
「本当に、美味しー。獲れたてってこんなにも……ピキピキしてるんだねー。」 と、言った。
又、手帳にメモする。――イカ…ピキピキ… 
後は、二人で黙々と、モグモグ食べていた……いや洒落ではない。――
途中で、コーヒーをすすりながら……静だなー。
波の音が聞こえる…?
「んっ!ヤッバっ!」――彼女は立ち上がり、二階に走っていった。
俺は、驚き……手が止まる。――瞬間。
バツバツバツバツ……晴れているのに、――
それこそ突然、雨が降り出した。
「えぇー!嘘だろ……」 唖然とし、呟く。
「やられたよー!――狐の嫁入りだね。」
不思議な言葉を言いながら、彼女が戻って……
「ゴメンね…間に合わなかった!」と言い… 
「今…洗濯し直してる。もう少しでさ、乾いたのにね!悔しー」 と、腰を降ろす。
「凄いね…晴れてるのに。お天気雨…狐の…?」
俺は、又パスタを食べ始め…訊く。
彼女は笑い。
「ハハッ。言わない?…か、狐の嫁入り。――提灯行列して…狐がお嫁に行くのが…この天気。みたいな?」
と、答え、パスタを食べ始める。
俺は……可愛い狐が、白無垢姿で…提灯を持った、お就きの狐をぞろぞろ従えて……村の田んぼ道を行く姿が…昔話の絵になり浮かんだんだ。――
「狐の嫁入りか…いいなぁー。ハハッ。」
俺は、微笑み――「凄い…解る。きっと、こんな天気だよ。狐の嫁入りは……うん。」
手帳を開く…
「ハハハッ。呑気だなー。狐の嫁入り、違う地方では、人魂的な怪談チックなのも有るらしい…直ぐ止むけどさ。帰り急ぐなら…服乾かないよ。乾燥機って無いからさー。ウチ。」
無邪気に喜ぶ俺を見て…彼女は苦笑して…
「コインランドリーって何処だっけ…?まぁ……その服あげても、構わないけど……ジャージーが、短いよね?ハハッ。」 今度は、笑う。
「俺は……全然っ!急がない。けど…邪魔?」
「全然。多分、お客もこれでお終い。夜中までは、一応は開けてるけど…それも…気分次第。」
おいっ……閉店まで…一応は、で…気分次第かよ…夜中までって…女が一人で危ないな!――空手の有段者とかなのか…?今一度…彼女を見た。
俺は、思い出し訊いた。――「あのー、市場って?」
「あぁ、通ってこなかった?」
手を止めて彼女は、逆に訊き、――「ここに居ると解らないけど、逆方面はね、いきなり、賑やか!」
一口、飲み……「観光バスとかも着く魚市場が有ってさ――イカ焼きや、サザエをその場で食べれる。土産物屋や食堂、民宿――全部、固まってるんだよ。」 とても…嬉しそうに話す。
俺もその顔につられちゃって…
「楽しそうだね!」 久しぶりに…本音で笑顔が出たんだ。――本当、久しぶりに……
彼女は、その言葉に……微笑み。
「うん。楽しいの!市場の旗、見てるだけでも楽しくなる!――夏は…楽しいを通り超して、凄い人だけどね。ハハッ。」と言う。
「えーっ。やっぱり…この海も混んじゃうの?」
俺は、前の海を指し、残念に思い…訊く。
「いや、この辺はそうでも無い。施設が整ってないし、海の家も無いからね。」
少し考えて、続ける…
「地元の家族連れが主だけど…そうだね…残念な事に――この頃は、ちょっとだけ混むかな?」
「残念なの?賑やかなのが、好きなんじゃ?」
「うーん。海は別…ここが、流行って、湘南みたいになったら…住みたくない。興味も無くなる。」 
彼女は、呟く様に言った。
「…でも…儲かるよ…ね?」――
俺は、非常に。下世話な事を言ってみた。
「ハハッ。そうだねー。でも…海は別。垢抜けないこの海だから、好きなんだ…」
「――解る。うん。……解る。」
暫く、二人で海を眺めていた……
「名前……ハル?」 さっき、あられさん達が呼んでいたな…?…訊いた。
「違うよ。――マル…満月の満に、留まるの留で、満留だよ。」――彼女は説明した。
うわー。良いっ!彼女の名前……いいなぁー。
何が良いのか自分でも解らなかったが…これ以上無い位に彼女の名前だ。と感じたんだ。
「俺は……美しい月で、美月。」――訊いたからには、言わざるを得ない。
彼女の様子を少し窺った……
「へー。らしい名前。美月か…月系繋がりだね!」
普通に彼女は言った…俺は、安心した。
「本当だ……月系だね。満留……か…」
もう一度、名前を呟いてみてから…訪ねた。
「その、――市場周辺のホテルから、ここに歩いて来る事は可能?」
満留は首を振り。
「大変過ぎる!市場も隣町からも……8㎞位は有るからねえ…歩きは、キツいよね。」と言う。
俺は、諦められずに……
「近くに…泊まれ所は、――」
「無いよねー。」 二人で言った。
有れば、ベンチに寝てないし…俺の求める地では、無かっただろう。――
「美月は…今日、帰るの?ここまで…電車で…来たの?」――どこまで訊いた物か?…という感じで…満留は、訊いた。
俺も、考えながら…
「暫く、余り人が多い所に居たくなくて――この辺…俺、好きだ。気に入っちゃった。」 答えた。
「あっ!大変だ。洗濯干してくる!」
自分で質問を振ったのに……いきなり、彼女は立ち上がり又、二階に走った。
何だか……驚ろかす人だなー。俺は思う…
話しをしている間に……辺りは、もう薄らと夕方の気配を漂わせていた。
夕陽も、綺麗なんだろうなぁー。
雨はとっくに上がり、……満留の好きな夏の匂いを含んだ潮風が、店に流れ込む。――
俺は、手帳を閉じ…目も閉じて風を吸い込む……

ミシミシと階段を下り、満留が戻り…
「うーん……綿ニットじゃん?パンツも綿だしさ。キッツいわ。」 椅子に座って……
「日中じゃない…これからの日差しじゃね…明日の朝…いや、昼までかかるかなー。」
独り言の様に言い。――「ねえ、免許…有る?」
と、訊いた。
その言葉に、目を見開き激しく首を振り…
「無理、無理!有るけど…運転したのなんか…何年も前。ましてや…知らない土地じゃ…被害者が出そうで、恐ろしいや。ハハッ。」――俺は笑う。
「うわー怖っ。無理だな!私がコインランドリー行って…店番して貰うか。――でも…万が一、来客が有ったら、困る…よね。」
「めちゃめちゃ、困るよ!こんな場所…失礼。…まで来て貰って、断るのも悪いし……」
はっきり言って…俺が、この服を借りて帰り、郵送で送り返せば良いだけの事だった。
彼女は気付かないのか…言い出し辛いのか……真剣に悩んでいる。
いくら何でも……タクシーの1台位は有るだろう。
駅に行こうが、コインランドリーに行こうが……
どうにでもなる。――俺は…考えたし…言った方が、満留を困らせないって解ってもいたんだ。
でも、もう少しだけ……ここに居たかった。
満留という女と……一緒に話しをして…ここに、居たい。――
そんな気持ちから……言葉が出なかった。
「よし!ウダウダ言ってても仕方ない。今日は、ウチにお泊まりだね、美月…」
「いいの!」――くい気味に言ったよ…俺。
「いい。又、ベンチに泊まられても、困るからね!ハハッ。」 彼女は、片付けをしながら…
「店、夜中まで開けるし。数時間の事だよ。ただ…使える部屋は、一つ。テーブルを挟んで寝る事になる。私は襲わないけど、美月は……大丈夫?」
と、訊く。
「襲わないよっ!ちょっと何それー。ハハハッ。」
「ハハハッ。冗談だよ。」
自分でも想像出来なかった程、嬉しくて仕方なかった…こんな……ワクワク感は、いつ以来だろう?
俺、普段は、殆どの事を心で思い、口にする事が無い…今まででも解るだろ?
無口だが、実は、お喋りな人以上に、心では色々、話している。――
なのに……満留の前では、いつになく、饒舌になっていた…言葉が話したい。と出てしまうんだ。
「あのさー。俺だから良い様な物の…今朝、下着を買いに行ったのもそうだけど…危ないよ!」
満留が入れてくれた、お茶をすすりながら言う。
「万が一、俺が泥棒だったらどーするんだよ。今だってさー…」
「えっ!泥棒なの?」――満留が口を挟む。
「違うよ!馬鹿!そうじゃなくてぇ、知らない男を泊めるとか、危ないよ!」
「ほぉ…下着買い行って、男を泊める…危ないって?どの……口が言ってんだぁ?この口かっ!」
頬を指で挟み、俺の口をタコみたいにしながら、満留が呆れ顔で言った。
又、驚き…話し辛い口で、反抗する。
「やめれー。だってしゃー……」
だってさー、だよ……俺。
「だってしゃー…じゃない!しかも知らない男じゃないでしょ?美月じゃん。」
「じゃん。…じゃないよ。本当、危ないって。」
この人は……警戒心と言う言葉を知ってるか?
「あのねー。危ないと思えば、朝の時点で入れてないから。」 満留はお茶をすすり…「しかも、私、合気道と空手の有段者!――じゃないけど。」
やっぱりな!一瞬、思った俺は…呆気にとられて…
「ハハハッ。顔!でもね、美月。私位の歳になると怖い物も減るし、それなりに、人をみる目も養われるのだよ。」――頷き…
「現に、美月は、良い子じゃん?」と、言う…
「だからー、俺だから良いけどって言ってんの!」
俺は……「俺以外の奴なんか、泊めるなよなっ!」
と、注意した。
「乙女ゲームの…ツンデレ…?焼きもち焼きの彼氏みたいだね!」
「馬鹿……ブッ…ハハハッ。確かに!ハハハッ。」
満留の的確な指摘に…自分の言葉を思い出し、ツボにハマった。――「駄目だ!可笑しい!ハハハッ。」
満留は、俺を見つめて……
「良い顔!今朝の、寝言の時みたいな……悲しいつくった笑顔は、美月にして欲しくない。」 
と言った…
可笑しくも無い事に笑った…寝言の笑顔だ…
「……俺…悲しそうだった……?」
真顔になり、俺は、訊いていた…いや、呟いた。
「あーっ!ほらっ!」 と、満留は叫んで、突然、立ち上がった。――
俺は、又、驚いたが……満留は構わず、俺の手を取り、引っ張って行く。――
ガラガラと引き戸を開け、外に出て……
「夕焼け!日の入りだよ。綺麗過ぎて…悩みも吹き飛ぶ!ねっ!」
俺は言葉も出なかった。――今までに、見た事が無いって訳じゃない。
でも…満留と一緒に見た夕陽は……
言葉が消える程、大きく…綺麗だった。――
潮風に吹かれ…二人は手を繋いだまま…
夕陽に魅了されていた。――「ハクション。」
俺のクシャミで、その時間は終了した。
「はいはい。入ろ。マジで風邪引くよ美月。」
満留が、背中を軽く叩く…
「うん。……満留。やっぱり俺…ここが好きだよ。」
「よし。解った!――好きなだけ、居れば良いよ。はい、店に入って!」
満留が、俺の背中をポンと押した。――それが…
人生を押してくれた様に俺は、感じたんだ。
「本当に?やったねっー!入る、入る!」
そして…らしくもなく、はしゃいでいた。

満留の言葉通りだった。――
客は来ない……夜もメインでは無かった様だ。
これで生活が成り立つのか……
人事ながら、心配になった。
せっかく見つけた俺の聖地が潰れて無くなったのでは、絶対に…困る。
満留はさっき――「好きなだけ居れば良いよ」と、言った。
俺は、その言葉に甘え切ろうと決めた。
だって、近くにはホテルが無いし、民宿じゃ…ちょっと仕事にならなそうだ…なによりも……
ここを離れたくない。痛く…惹かれていた……
俺には…滅多に無い事だった。
カウンターに俺は、居着いたままでいた。
ここが、居心地が良い位置だ。――部屋でもそうだが、しっくりとくる場所が有るのだ。
満留は、二階で俺の布団を出し、寝床の支度をしていた。
俺は、メモを見て、セッセと仕事を進める。
順調だ……何に悩まされる事も無く…無限に続けられる。
こんなに仕事が捗る事が、最近では珍しい。
かつて…楽しくて仕方なかった頃の様に…
夢中で仕上げる。
夜中までの営業も、朝が早くない事も、俺には最高の生活リズムだった。
まだ、一晩も過ごしてないのにな……
慎重派の俺にしたら…ここに居着くと、決めている自分に戸惑ってもいた。
ミシミシ…階段の音だ…満留…今度は、何を言いながら下りて来るかな…?
「いやー、泊まり客なんか、久しぶりだからさー。布団、湿っぽいけど…明日、干そうね!」
言いながら、椅子に座って…
「新婚初夜の夜具みたいに…ピッタリ並べて布団敷いておいた!――ハハッ。嘘だよ。」 
と、笑う。
「いつの時代だよー。新婚初夜も夜具も!ハハッ。」
笑いながら、――布団を明日、干すんだ…本当にここに居て良いんだ!……安心した。
「ねえ、上、行って寝転がってて良いんだよ。自由にしな。」
「ここが、良いんだ。ここに座って居たい。」
俺は、答えた。
「じゃあ、そうしなよ。――私が居ても邪魔じゃないの?何か……真剣にやってるけど…」
満留は、急須と、茶碗を洗いながら訊いた。
「うん。なんでだろう…?普通は……絶対に一人じゃないと駄目なんだけど。満留には…一緒に居て欲しいんだ。」 
「今度は…プロポーズか!乙女ゲーム進展、早っ。」
「ハハハッ。だよなー。ハハハッ。超受ける!」
一緒に居て欲しいって――なんだよ……俺。
「ハハハッ。何なの、俺?」
顔が赤くなる。……本当、何なの、俺。――
マジで照れてるよ……
「居て欲しいなら、居るよ。私の店だけど。」
ほうじ茶に入れ替えて、配りながら…
満留は笑顔で言った。
「うん。この位置で、満留が居る空間が良い。人のウチだけど。ハハッ。」
ほうじ茶を、照れ隠しに、すする…
美味しい……湯呑みで日本茶を家で飲む事がまず無い。――そうか…お茶が俺を落ち着かせ仕事を捗らせるのかもしれないな…
「もう少しで10時か、お腹空いたね?いつもは、豚汁と、ご飯に適当なおかずで、済ますんだけど…」
満留が言い掛ける。
「それが良い。満留の豚汁、毎日でもいい!」
「全く…美月は、無自覚タラシだね。満留のねー…普通の若い女の子なら、今の言葉で次の日に、婚姻届持ってくるわ。危ないのは、美月の方だよ。」
「はぁ?無自覚タラシ、って何だよ!ハハッ。だって、満留の豚汁、美味いんだもん。」
「それなら良かった。まさに、朝晩は毎日だよ。余るからね。365日は、大袈裟だけど、ほぼ、毎日だから、覚悟して。」 彼女は言った。
「365日でもOK。後は、ご飯だけで良いんだ。俺。贅沢言える立場じゃない…って言うんじゃ無くて、それで充分、満足って事だよ。」 と、言った。
「そー?じゃあ、私は唐揚げも食べよっと、美月は要らないんだね?」
「食べる!満留の唐揚げ、食べる!」 
又、くい気味にキタよ…俺。
「ハハハッ。又だよー。満留のって付ける所が、無自覚タラシなんだよなー。美月は!」
「違うよー!コンビニの唐揚げなら、俺、食べたくない。お昼から、美味しそうだー。と、思ってたんだもん。」
だもん……?じゃないだろ。しっかりしてよ…俺。
「そうか。じゃあ…美月の為に。揚げるよ。」
満留は、真顔で…作業に掛かりながら言う。
「無自覚タラシだね……満留も。」
俺は、赤くなった自分に呆れ果て……
言い返した。――
メモを取るまでも無く、携帯を操作し出す。
ほうじ茶をすすりながら……カチカチと……
そして、唐揚げを揚げる満留の後ろ姿を…じっと見ては、又、想像が広がっていくんだ。
カチカチと……携帯に刻んでいく……
一段落した俺は、唐揚げの良い匂いに顔をあげた。
満留は、お皿に野菜を盛り付け、横に唐揚げを乗せていく。――美味しそうだ。
美月の為に揚げた唐揚げだ!
一人で又、赤くなった。――途端に…
満留が振り返った……俺は、焦って…「手伝うよ!」
言い立ち上がる。
「大丈夫だけど……」と、台所から唐揚げの皿を持ってきて置き。……
俺の凄い近くに来た。――すっと、おでこに手を当てて…
「良かった。顔、赤かったから…熱ないよね?」 
と、微笑む。
益々、俺は、赤くなり…
「む…無自覚タラシは満留だよなー!照れるよ……」
照れた事を思わず、カミングアウトしていた!
「…ハハハッ。照れるのか?美月は、可愛いねー。」
と、俺の頭を撫でる。
マジで!――満留は、タラシだ!
「食べるよっ!」 なぜか、俺は、プンプン怒って言っていたんだ。だって……
こんな事さー、他の奴にやったら、絶対、勘違いされるんだからなっ!危ないったらないよっ!と……
「はいはい。ハハッ。豚汁と、ご飯を直ぐに出すから、お野菜から食べてて、先ベジ。ねっ。」
と、満留は笑う。
「頂きますっ!」 まだ怒り気味に俺は食べ始めた。
ただ飯を貰い…挙げ句、プンプン怒っている自分を…もう一人の自分が些か…呆れていた。――

俺は、美味しい唐揚げを怒りながらも、しっかりと食べ終わり。
「凄い、美味しかったよー。」 言った。
「良かったー。もう一つ食べる?はい。…あーん。」
と、お箸で俺の方に差し出す。
本当……満留がタラシだ……
「……あーん。」 俺は、唐揚げを食べ、顔が赤くなるのを見られない様に慌てて…
「コーヒー煎れるよ…飲む?」 訊いた。
「あーあ。美月の煎れたコーヒー飲みたいなー。でもね……眠れなくなるんだよねー。この歳になるとさー。」
満留だって、「美月の」って付けるじゃん。タラシめっ!と、心で怒り…
「アメリカンにするから。大丈夫、眠れるよ。」
と、コーヒーメーカーの方に行く。
「えー。眠れなかったら、責任取って貰う!」
「なんだよ。責任って!」
「えー勿論。朝まで……昔話とか、聞かせて貰う!」
一瞬……有り得ない答えを考えてしまって…
「はぁー?そんな、引き出し持って無いし…」言う。
「じゃあ、子守唄?……うわー…余計、眠れなそうだ…ハハハッ。」
「おいっ満留。失礼なヤツだなー!」
食べ終て、片付けをしながら満留は喋る。
「ねえ美月、市場行ってみたい?――今ならまだ、そんなに混まないけど…」
俺は、コーヒーを煎れながら…
「今ならって?」 と、訊く。
「後……1週間位か…それ過ぎると、夏の間は盆過ぎまで半端ない!平日でも、人、人、人で、大賑わいになっちゃう。」
コーヒーを俺は、配って…「へー。」 腰を下ろす。
「有難うね。――今はさ。GWと、夏の間だから…調度、空いてる時期。」 と、コーヒーをすすり…
「あー…美味しい。ねっ。」――俺を見る。
一瞬、満留の瞳に見入ってしまった……慌てて…
「…うん。美味しいね。」 と、呟いて…
「市場か…満留の話しを聞いていると、行きたくなる。楽しいんでしょ?」 ぼーっと訊いた…
「私は楽しい!美月、魚好き?」 と、訊かれ…
「うん。食べる機会は少ないけど、好きだよ。」
「私も好き。――じゃあ…明日、少しだけ早起きして朝食に行こうか!」
俺は……人に見られるのが、怖かった。――
でも……それ以上に満留の大好きな、市場を見たかった。
それに……満留と、外を歩いてみたかったんだ。
二人で、市場の出店に興奮して、はしゃぐ姿が目に浮かんだ。――
俺は、コーヒーをすすりながら、メモを取り。
携帯を操作し出す…カチカチ……没頭していた。
フッと、横を向くと…満留がカウンターで、腕を枕に、うたた寝をしている……
何が……眠れなかったらだよ。――可愛い…
えっ?いやいや、――今、何を思った?
ちょっと…さっきっから可笑しいだろ!
照れたり、怒ったり…変な事考えたりしてさー!
しっかし……店の中で、可愛い顔して寝ちゃって…
全く…無用心だよなー。腹立つわっ!
俺の忠告なんか、全然、聞いちゃいないよ!
俺が、もし…もし…キスでもしちゃったらどーしてくれるんだよ。――いや、違うよっ!
俺以外の奴に、キスされたらどーするんだよ!――
いや、これも、違うっ!
もーっ!――仕事的には最適の場所なのにっ!
精神衛生上、この店は良くないな!
明らかに!俺は可笑しくなってる。――
若い女達に騒がれるのが嫌で逃げて来たクセに……
仕事のペースは上げ上げなのに、心のペースが乱されっ放しだよ……
かなり年上…多分、母親に近い歳の女だぜ……
体系的にも…ムラムラくるというよりは、中年体系にさしかかっている女なのに…
なんか、気になって、気になって……可愛い。
違うってっ!首を激しく振ってると……
「あ……寝ちゃった…?お早う、美月。」 
ニコッと笑う。
うわーっ…その顔やめろって!――動揺して…
「ね…眠れないんじゃなかったの?子守唄、必要なかったよね。」 と、言ってやった。
「うーん。気持ち良かったー!普段は、こんな事、無いのにな……」 伸びをして…
「美月が居て、安心しちゃった。」笑顔で言う。
頼むから!これ以上、俺を……赤くしないでよ!
「俺で良かったよ。」 と、目をそらす……
「一時か…明日、十時には、起きないといけないから閉めよっと。」 
満留は立ち上がり…「お風呂、入れてくる!」
と、二階に上がって行く。
み……身が持たない…
きっと、ここに居られる嬉しさで、テンションが上がってるんだな。俺。
直ぐ、普段の冷めた俺に戻るさ……と、考えていたんだ。――
ミシミシ……階段の音がして…
「良かったー。シルクだから、トランクスは何とか乾いたよ!」と、寄ってきて…
「まだ、寒いよね。ほら。」 俺の顔に手を当てる。
「つ…冷たい!」 けど…顔は熱い!おい…
「ハハハッ。美月、温かい。」 と、笑った。
この……タラシが!
「店、閉めるよー。二階、温かいけど…美月ここに居たい?」
「満留は?二階に行くの?」
「私は二階に行くよ。」
「じゃあ、俺も、一緒に行く!」
「うわー。…甘えたキャラきたよ!」
「何だよそれー。俺、甘えたじゃねぇし。」
「どーだか?彼女の前とか…甘えたっぽい!」
「あのねー!俺はいつでもクールだよ!」
おいおい……自分でクールって…
「ぷっ。クールな奴が照れるのかー?」
俺の頭を撫でる。――
もーっ!勘弁してってー ……
「行くよ。甘えた君。」
「もーっ!クール君だよっ!」
自分で「君」って言うなよ……俺。
「じゃあ、美月は…クーデレだな。ハハッ。」
「違うよ。クールだよ!」
ふわふわ。体全体が愉快な気持ちで一杯だ…
俺は、いそいそと後を着いて行った。
テーブルを挟み、布団が二組敷いて有った……
部屋の中はポカポカしてた。
「そっちが、美月ね。明日の服と兼用で。大きいトレーナーとジャージ置いたからね。」
と、満留は言った。
「有難う!」――言う俺に…満留は続けて…
「布団がちょっと冷たいかも…明日までの辛抱だ。一緒に干せば良かったね……」
と、言う。
「そんなに、違うの?満留のは、フカフカ?」 
俺は、訊く。
普段、俺はベッドだ、マットレスって、干して変わらない。
「フカフカだよ。一緒に寝るか?ハ…」
「うん。」
又、くい気味だよ……えぇ…何?うん。って……
何?え…?自分の返事に驚いた。
「えーっ?冗談で言ったのに!ハハハッ。」
さすがに満留も驚いて…でも、笑った。
満留が笑ったから、俺は……安心したんだ。
「だってさー。満留がフカフカって言うから。気持ち良さそうだもん。冷たいの嫌だ!」
俺は、心のままを口に出していた…
「はぁー。美月は…全く…はいはい。今日だけ一緒に寝ようね。はぁ…狭いよっ!」
満留は…呆れ、言った。
「狭いの、楽しい!ね。満留!」
俺は、はしゃいでいた。
「楽しかねえよっ!――襲うなよ美月。ハハハッ。」
笑いながら言う。
「自信無いわ。」――マジで……大丈夫か?俺。
真面目顔で答えた。
「ハハハッ。美月、受けるわ!」
「ハハハッ。」
一応……俺は笑った。
「ピーピー」 お風呂の音がした。
「満留、先に入って。――満留んちだけど…」
俺は、言った。
「ジャンケンしよ。――私んちだけど…」
満留は真似して言う。
「俺、もう少し、やっちゃう。」
携帯を見せて言う。
「そっか、じゃあ、お先ね。――覗くなよ!」
又、冗談を言った。
「解らない…一緒に入りに行くかもよ。」
照れてばかりはいられない、俺は、言ってやった。
「背中でも、流して貰うか?……馬鹿!」
「マジで。俺、下に居る?」 訊いた。
「全然。フカフカに居なよ。じゃあ、入る。」
と、満留は風呂に行った。
俺は、フカフカに寝転がってみる。――
本当だ太陽の…満留の匂い…
布団なんて…何年ぶりだろう?
携帯を操作し、暫くは、没頭した。
作業は進む。――キリが良いここまで!
一日で、普段の四日分はこなした……
満留が入るお風呂の音……安心、出来る。
二人でフカフカで眠るんだっ!
眠るんだっ!…じゃないって……
よし!この機会に落ち着こうよ。俺。――
冷静になるんだ。
うん。参った…何回か落ち着こうと試みるも……
落ち着くどころか…ニヤニヤ訳も無く笑う始末だ。
俺は、悟った。…?――もう、いいや!
自分の好きにさせよう…
こんな気持ち初めてだ…解らなくても仕方ない。
苦痛だとか不快なら我慢出来ないが……
ふわふわって感じかな…?ムズムズって感じ?
もーっ!解らないけど、――
今の自分が、気持ち良かったんだ。
このまま…許される限り――このままでいよう……
「お待たせ。美月、上がったよー!」
満留の声がする。――湯上がりの薄らと赤い顔で…髪をターバン巻きにした満留が部屋に来た。
トレーナーにジャージー姿だ。――可愛い…違う!
「入るね…満留、パジャマ着ないの?」
「パジャマ着てさー。まくれ上がったりしたら……少年に目の毒でしょ?ハハハッ。」
「何だよ。少年って!もーっ。入る!覗くなよ!」
俺は、言ってやった。
「さー。気分次第かな?ハハッ。」
「気分かよ!」
気分次第では、覗くのか?……馬鹿な事を考え。
着替えを持って急いで風呂に行く。
又…照れそうだったから…
風呂に浸かり、――満留…すっぴんでも変わらないな…普段も化粧は濃くないもんなー。
明日は、市場で朝食デートだ。楽しみ!
眠れるかな?俺。腕枕とか…しちゃう?…え?…
無い、無い。――遂に、とち狂ったか?俺。
早く上がって、満留と、フカフカしよっと!
突然、急ぎ、全てを済ませる。
「満留。上がったー。」
ドライヤーをしてた、満留が振り返り…
「早いな!美月。ゴシゴシしたの?」
満留は訊く。
「したよ!満留。子供扱いし過ぎだよ!」
「ハハッ。ゴメンね。大人の美月君、ビールは?」
「余り、飲まないけど、少し飲みたい気分。」
「私も。じゃあー、二人で一本、半分こ?同居初夜だからさ。ねっ。」 ニッコリ笑う。
俺は、又…その顔に魅せられていた…慌てて目をそらして、――「付き合うよ。」と、クールに答え……
「何だよ。同居初夜ってぇー。」
ニヤニヤしてしまった……クールも形無しだ…
「はい。ドライヤー…乾かしてあげようか?」
非常に!乾かして欲しかったが……
「自分で出来るよ!大人だじょー。」
あ……かんだ。じょー。って…なんだよ…俺。
「ハハハッ。しょーでちゅか?…今度は幼児プレイかよ。美月。最高!ハハッ。」
「か…かんだだけだよっ!満留。最低!」
本格的に真っ赤になり……プリプリした。
プリプリしつつ、髪を乾かす…
ビールと、グラスが二つ出て来る。
お互いに、注ぎ合い、――「乾杯!」と…飲む。
「何だか……濃い一日だった。もう昨日だけどさ。美月に会ったばっかりなのに…ねっ。」
ビールで、少し赤くなった笑顔は…
い…色っペー!ヤバいって…こっち見ないで!
満留は…そんな、俺の心の叫びも知らず。
じーっとこっちを見つめる……
「美月って。綺麗な顔してるね…私、さっきマジマジ見ちゃってね。そしたら……寝てたよ。」
「最後のフレーズが無きゃ、最高の褒め言葉だったよね?」 俺は言う。
「えーっ。最後のフレーズが最高の褒め言葉なのになー。顔を見てて、寝ちゃうなんて…初めてだったよ。私。――幸せな眠りだったよ…」
酔ってる?――タラシどころじゃないぜ…
魔性系だな!コイツ。
「あのさー。満留、婚姻届は、持って来ないまでも他の奴なら、今の、愛の告白に取るよ!」――
俺は、又、おこだった…「駄目だよ!店で無用心に寝ちゃ。キスでもされたら、どーするんだよ!」
「ハハハッ。誰もしないよ。絶対。――されたって、減るもんじゃ無し。ハハハッ。」
「減るよっ!もーっ。」
なんて、軽い奴なんだ!腹立つわ!
さっき、キスを我慢した俺の努力は何だったんだ!ん?…えーっ!我慢したんかい……俺。
「はぁー?」――怒っている俺を不思議顔で見る……
「ともかく減るのっ!絶対に、満留は注意する事!はい。もう、寝るよ。全く!」
俺は、ビールを飲み干し、立ち上がった。
「はぁ……?じゃあ、二人で歯を磨いてさ。フカフカで、寝よう!――美月、手貸してー。」
手を伸ばす。――この…魔性系めっ!
「……甘えたは、どっちだよ!はい。」
俺は、満留を引っ張る…
「重いっ。」
何か、言わなきゃ…可愛さに、ニヤニヤしそうだ…
「ちょっとー!失礼な!……当たってるけどねっ!ハハッ。」
満留は、立ち上がり…
「歯ブラシ用意してあるよ。磨こ。」
「うん。有難う。磨こ。」
並んで、歯を磨いて…コップに二本立てた。
「ねえ…本当に、一緒に寝るの?」
「うん。寝るよ!」
「はぁ…よし!フカフカに行こっか。」
「うん。行こう!」
二人で右だ左だと揉めながら、布団に潜る。
「凄いね。フカフカ。お日様の匂いだ。」
「気持ち良いよね!明日、美月のもフカフカにしようね。――私、横向きじゃないと眠れない…美月の方向くよ…大丈夫?」
「俺も。満留の方向くけど…大丈夫?」
「ノーブラだから…余りこっち来ないでね。ぷっ!」
「――ちょっと!ノーブラ言うなっ!襲うよ!」
「ハハハッ。美月、受けるわ!」
「馬鹿!知らないからなっ!」
「はいはい。ねえ、二人で寝るって温かいね!」
「全く!警戒心なさ過ぎる!――でも…温かいね。」
「電気消す。お休み、美月。」
「うん。お休み、満留。」
カチッ。電気が消える。
「ねえ…腕の置き場が無い。満留の上に置いても良いかな?」
「ほら、狭いじゃん。美月の好きにして良いよ。寝やすい様にしな。フフッ。」
暗い中…満留の笑い声がした。
美月の好きに…ヤバいだろ…それ。
「狭いんじゃないよー。満留がいけないんだ、ノーブラなんて言うから…緊張して動けなくなった。」
「そっか。フフッ。気にしないで、好きに動きな。」
「うん。狭いの楽しい。俺。張り付いて寝よっと。フフッ。」 満留を抱きしめる形になった。
「ちょ……全く!甘えたには、困ったもんだ…お休み。」
満留が……俺の頭に自分の頭をコツンと付けた。
「甘えたでいい……お休み。」
眠れるかな…?心配は無用だった……フカフカに…ポカポカの満留が気持ち良かった。
悪夢にうなされる事も無く、途中でハッと起きる事も無い眠りは…久々だった。
気持ち良く目覚めた。…満留が居ない。
下で音がした…一階か…
俺は、安心したんだ…満留が居る事に、安心した。
洗面を済ませる。満留が用意したシェーバーで、顔もツルツルだ。
二本並んだ歯ブラシを見て…何故か、深く頷き……
ミシミシと一階に降りて行く。
仕込みをしていた満留が、振り返り。
「お早う。美月。眠れた?」 と、微笑む。
一晩、経っても尚……病気は治らない様だ。
朝から…微笑む顔に魅せられていた……
もう、駄目だな。俺。――諦めよう。
「お早う。満留!俺、久々に良く寝た。――満留は、眠れた?迷惑だった…俺?」
「全然!人って温かいね。私も久々に良く寝たよ。」
ニッコリ笑う。
「そこ……人じゃなくて…美月って温かいね。だったら、最高だった!」
段々、口から出る言葉まで、遠慮なくなってきた…
「だってさー。又、愛の告白だよ!って、怒り出すじゃん?ウチのクーデレ説教坊主が…ハハッ。」
「だ…誰だよ!説教坊主って!」
「さー。誰だろう?――行こうか?」
「誤魔化したよな?」
「帰ったら、美月の布団、フカフカするからね。」
「雨が降れば良いのに…」
な…何を言うんだ……俺。カミングアウトし過ぎ…
「出たよ。必殺の甘えたクーデレタラシがっ!」
満留は、呆れて……「ほら、行こ。楽しいぞー。」
俺の手を引く。
「出たよ!必殺の無自覚魔性系が!」
俺は、言い返した。
「魔性系?…それ。もっと、色っぽい人じゃない?」
充ー分。色っぽいんだよっ!全く…
プリプリ病のまま、車に乗り込む。
海岸沿いをずーっと走る…最高のドライブコース。
海猫が騒いでいる。――
まだ少し冷たい潮風が入り、俺と満留の髪を乱して遊ぶ。――朝と呼ぶには、少し遅い時間。
だが俺と、満留にとっては、まだ朝だ。
こんなにも、気持ちのいい朝はいつ振りだろう?
手帳を取り出しメモする。――
店やホテルはまだ無い……
海の逆側は、やはり、獣が出そうな山だ。
「ねえ、美月は…何処から来たの?」
「え…?――火星。」
「……天然キャラかよ?――駅だよ!駅。」
「うーん。突然、降りて…見なかった…無人駅だったよ。」 俺は、右を指し…「向こうから、何時間も歩いた…始め、民家や店も有ったんだ……そのウチに国道?に出た。――でも、何も無くて……熊とか、出そうで怖くなってさ。――満留の家の明かりが見えた、俺、嬉しくて…ベンチで……ね。」
「無人駅か…有り過ぎて解らん。」 首を振る。――
「ほら、漁師さんの小屋が出て来たよ。船の名前書いてあるでしょ?」 満留は、指を指し言う。
「本当だ!」
「もう直ぐだよ。」――急なカーブを曲がる…ポツポツと、民家や銀行が出て来た。
「一軒しか無いコンビニがここね。」
「今時、一軒なんだ…」
「そう。今時、一軒。」
満留は続け…
「ほら。あられの八百屋。隣が、源ちゃんの肉屋。で…」
「で……?」 俺が訊く。
緩やかなカーブを進む。――と…
「うわー!」 思わず、声を上げた…
「うわー!カッコいい!」――突然、昔…親に連れられ行った、アメ横的な通りに出る…
彩り豊かな旗が立つ店が、賑やかに軒を連ねる。――満留の言った通りだ!
見てるだけで、ワックワクするっ!
「ハハッ。カッコいい!か、美月は!ハハハッ。」
満留は、自慢そうに満足して。
俺の頭をくしゃくしゃ撫でる。――堪らん……
「うん!カッコいい!」
俺は、市場にも、頭を撫でられた事にも…
興奮していた……
駐車場に車を停め…
「行こ!初めては、何、食べるか迷うんだよー。」
「行こ!迷いたい!楽しそう!」
俺は、満留の手を子供の様にぐいぐいと、引っ張っていく。
「はいはい。行くから…落ち着いて。ハハハッ。」
満留も、楽しそうだ!
「えー…えー…」 
串に刺した海鮮が、ズラリと並ぶ。
「落ち着け、美月。ここから先。お寿司も有れば、蟹汁や、私の一推しの番屋汁も有る。――取り敢えず…1回、全てを見て決めないとだな。後の店で…しまった!と、なるのだよ。」
満留は、早速、一軒目で迷う俺を制して、わざとっぽい真剣な顔で言う。
「理解っ!軍曹。視察後、作戦を練ります!」
俺は、敬礼した。
「ハハッ。んじゃ、視察に行こ。」
俺は、二人で市場の出店にはしゃぐ様を思い浮かべていたが……一人で、はしゃぎ、「満留!見て!」
「満留、これは?」――「満留、……」 
満留を連呼して、腕を引っ張っり大騒ぎだ。
そこらの店で満留に、驚きの…声が掛かる。
蟹屋さんが、
「珍しい!満留、若いの連れてえー!」 言う。
「ハハッ。ウチの住人だよ。宜しくね。」
お土産屋さんが、
「どーしたの?早起きデート?ハハッ。」
「ハハッ。って!デートだよ!ウチの住人。宜しくね。」
満留が「ウチの住人」って、言う度に…俺は、嬉しくて仕方なかったんだ……ニコニコしてた。
「さー。終わった。作戦は決まった?食べよう!」
「満留は?どんな作戦?」
チラッと俺を見て…
「秘密ー。」 イタズラっぽく、口を尖らせた…
くっ……可愛いい…。そんな場合じゃない!
「教えてよおー。」 腕をぐいぐいと引っ張った…
「出たよ。デレキャラ、キタよ。――はいはい。先ずは番屋汁。二杯かも?――以上。」
「……はぁ?先ずは、じゃないじゃん!」
「お腹一杯になっちゃうのよ!後…海老の唐揚げ!勿論。蟹は買う。夜のお.た.の.し.み。ハハッ。」
「出たよ。魔性系!」
「ハハッ。魔性系なんだ。わ.た.し。」 
俺の頭を又、撫でた……
夜のお楽しみ……ヤバっ。――赤くなりそう…
慌てて、言う…
「俺はね。満留が一推しの番屋汁でしょー。サザエさん!後は…」
「サザエさんの前なら、まるちゃんだけど…後は、知らないよ。」 満留が……馬鹿な事を言う。
「ちょっと!真剣に悩んでるのにー!」
「はいはい。」
「イカ焼きか、マグロ丼か、鯖焼き…薩摩揚げも美味しそう…ここに来て?…って感じだけど、トウモロコシに惹かれちゃう…」
俺は、半分…独り言状態で悩む。
「ハハッ。美月…全然!作戦練れて無いじゃんっ!」
「だってえー…」
だってえー……じゃないだろ!デレかっ?
「じゃあ、番屋汁にマグロ丼とサザエさんにして、焼き物は、持ち帰る?」
「だって……夜は俺…満留と一緒にお.た.の.し.み。するんだもん。」
俺だって、蟹は是非。食べたかった。――
「おいおい……人が聞いたら絶対に。勘違いする!全く、美月は、危ない奴だ。無自覚タラシがっ!」
自分の言った事を思い出し……真っ赤になり…
「か…か…蟹だよ!蟹!」
俺は、必死に言っていた。
「か…か…ってカラスかよ。ハハハッ。」
満留は、完全に俺をからかって楽しんでるっ!
腹立つわっ!
「だったら。お昼に焼き物のお持ち帰り食べたら?」
「俺…満留の豚汁が食べたい!365日ねっ。」
「美月……惚れるよ。私。――婚姻届取りに行ってくるわ……」
「一緒に行くよ。俺。」
真顔で言ってやった。……半分は本気で。――
いやいや…待てっ!はい、一旦、落ち着こ。俺!
「はぁー。魔性系はどっちだ…じゃあさ、豚汁におかず作らないから、何か買おう。ね?」
「うん。そうする!行こ。」
俺は、満留の手を取った。
「はあー……身が持たん。全く……」
番屋汁を二つ買い…他も買う。
通路を挟んで設置した、テーブル席に落ち着く……並んで食べ始めた。
「美味しいー!何これ?満留!美味しい……」
「いや、番屋汁だよ、美月。」
「知ってるよ!そーじゃ無くてさ…こんなに美味しいの?食べた事無かったから…」
「ねー。美味しいねー。しかも、温まる!ねっ?」
ニッコリ笑う。
そのさー……ねっ?を止めてよ!俺。弱い……
「うん。満留の豚汁の次に美味しい!気に入った!」
一生懸命に魚のアラを食べた…
「殺し文句。キタよ……はぁぁ……」
「ねえねえ。マグロ丼も美味しいよ。はい、満留。あーん。して。」
俺だって、仕返しに…?あーん。してやった。
「はぁ……あーん。――ん!美味しい!」
あーん。したよぉ……可愛い過ぎる!満留。
……可笑し過ぎる!俺。
「だよね。俺…」 言い掛けたら…
「あーっ!なんで?マジ?えーっ!」
大騒ぎで、俺を指しながら…
あられさんが、来た。
「ウルサいよ。あられ。」 満留が、続けた…
「ウチの住人になったんだよ。」
「なんでっ!何?どーゆー事?」
「こっちが訊きたいし、知りたいよ。はぁ……」
「えーっ!昨日は…お泊まり……?」
「うん。二人で寝たよ。――宜しくね。」
俺が笑顔で答えた。
あられさんは…
「うえーっ!ね…寝た?どーゆー事?」
頭を抱えて……大騒ぎした。
「はぁ……糞ガキが……全く!――まんまだよ。二人で、眠った。寝たじゃない。眠ったねっ!」
満留は、強く言い直す。
「ハハハッ。それ、眠ったよ。」
俺は、満留のリアクションが、可笑しくて!大笑いしていたんだ。
自分を惑わせる小悪魔を。――困らせた事が、愉快だったから…… その2に続く

















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