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10年間で学んだサブスクリプションビジネスに参入するときに気をつけたいこと

こちらの記事を書いていただいたおかげで、サブスクリプションビジネスについてのご質問をいただくことが増えました。直接お会いしてお話しする場合は問題ないのですが、メッセンジャーなどでのやりとりではごく表面的なお話になってしまいますので、はじめからちゃんと伝えることを諦めてしまうフシもあったりしまして・・・

10年程度BtoBのサブスクリプションサービスを提供してきた中で、大事だなと感じる点を残しておくことで、参考にしていただけることがあればと思いこれを書いてます。

記事は、サブスクリプションビジネスを検討しているSMB経営者や起業を検討されている方を想定しております。

サブスクリプションにすることでLTVが増加するか

LTV(顧客生涯価値)=単価×継続月数
継続月数=1.00÷月次解約率
つまり、LTV=単価×1.00÷月次解約率です。

例えば、単価5,000円で毎月3.0%のお客さんが解約するサービスでは、
予測されるLTVは 5,000円×(1÷0.03)=16.7万円 になります。

上記の計算式で算出したLTVが、一括で販売するよりも高くなることは必須です。お金の時間価値の観点から、同じ10万円なら分割でもらうよりも一括でもらう方が安全なだけでなく、投資に回すサイクルの速度もあがるからです。期間によりますが、サブスクリプションにすることでLTVが数倍になる必要があると思います。そういう意味で「安くなる」サブスクリプションモデルは存在し得ないのではないかと思ってます。サービスの設計においても、「安くする」は競争力を持たせることができないと思います。ただし、「安くする」ではなく「支払いやすくする」ことには価値があると感じます。

寿命の長い商品か

サブスクリプションの収益サイクルは長いです。開発費と顧客獲得コストを年単位で回収した後に、さらに数年かけて一括で販売した場合の収益をあげ、その後にようやくサブスクリプションとしての収益が待っています。流行りものの場合は、そのサイクルが消化される前に商品自体の寿命が来てしまい、十分な収益を回収することができません。少なくとも5年後、できれば10年後もその市場が存在していると思える分野で事業を行うことが、サブスクリプションの場合特に重要だと思います。その観点で見ると、元祖サブスクリプションといえる賃貸不動産や水道電気通信などの生活インフラ、保険などはかなりの未来まで存在すると思われる良い商品だと思います。

マーケット規模は十分か

サブスクリプションは単月単位で見ると薄利多売の構造になります(LTVで見た場合は、逆に高粗利である必要があります)ので、お客さんの数がたくさん必要になります。マーケット規模を簡単に試算して、想定どおり顧客を獲得できた場合に、しっかりとした規模の収益があがるかどうかを計算することが大事です。

計算式:対象顧客数×占有率×単価=想定売上
例えば、1万社が市場にいて10%のシェアが取れる自信があって平均単価が1万円なら、月間で1,000万円 / 年間で1.2億円が達成時の売上です。

このとき、対象顧客数と占有率を甘く計算しがちだと感じます。1万社法人が存在することと1万社がサービスの潜在顧客であることはまったく違います。70%とか80%の顧客にニーズがある商品は、現実的にはなかなかありません。シェアに関しても、販売シェアではなく保有シェアで10%取るのは本当に大変です。冷静に、保守的に考えて試算することが大事です。また、がんばっても市場が小さすぎてぜんぜん儲からないというアイディアも割と見る印象があります。そもそも参入してはいけない分野も少なくありませんので、ざっくりでも計算するのが良いと思います。

競争環境と解約率が激変する要素はないか

サブスクリプションの収益モデルの時間軸は長いです。5年とか10年とかの事業モデルを追いかけていくので、必然的に期間中に対処すべき問題も増えます。はじめは独占状態で販売できていても、今後5年間それが続く可能性はどんな分野でも高くないと思います。
毎月100件受注できていた商品でも、同等の力を持つ競合が現われて販売シェアを二分すると受注量は半分になります。2社現われたら三分の一になります。
また、強力な競合が自社のお客さんに対して安値で乗換を促進する営業方針を取ったら、解約率が一瞬で3倍とか10倍になる可能性もあります。
特許や規制で守られてない場合、そのようなリスクに自力で備え、そう簡単に模倣できない参入障壁を意図的に構築しておく必要があります。

強い販路を持っているか

ご相談いただくお話しの大半に該当すると思っているのですが「売ること」が非常に高いハードルであることは、一括でもサブスクリプションでも変わりがありません。サブスクリプションモデル自体に強みがあるわけではありません。いいサービスであってもそれを売るのはいつだって大変です。特にサブスクリプションの場合は1件あたりの単月単位の売上が非常に低いため、多くのお客さんが必要になります。WEBで公開すればお客さんが群がるようなビジネスは稀で、「売る」という業務の重要性は一括モデルと同様かそれ以上に高いです。売る業務に対して答えを持っておかなければいけません。

受注難易度が下がるか

同じ営業マンや同じ媒体で同じコストをかけたときに、サブスクリプションにすると受注量が増えることも必須だと思います。収益モデルの観点でも大事な点ですが、お客さんから見た魅力という面でも、サブスクリプションにすると受注が余計取りにくくなるようではダメだと思います。一括に比べサブスクリプションは直感的に理解しづらい場合も少なくありません。わかりにくいものはそれだけで売れませんので、複雑になるモデルだからこそわかりやすいサービスに設計することは非常に大事だと思います。

顧客満足度が上がるか

サブスクリプションの場合、一括での売り切り以上に顧客満足度が重要になります。売ってしまいさえすれば10万円の商品の売上は10万円である売り切りモデルと違い、サブスクリプションの場合は販売後に売上(LTV)が変動します。顧客満足度が低いと、良いプロダクトでもすぐに解約されてしまい、開発費や顧客獲得コストさえ回収できないといった事態になりかねません。最低契約期間や違約金で解約を阻止する方法もありますが、顧客の心が離れている状態で契約で縛っても、売上に継続性や再現性がなく、ヘタをすればさらに顧客満足度を下げる結果になります。どうせ解約されるお客さんの顧客満足度は気にしなくても良いのでは?と思われるかも知れませんが、顧客満足度は潜在顧客(未来のお客さん)にも伝染する性質がありますので、実は重要です。できるかぎり契約ではなく感情で継続率を高く維持することが大切です。


以上、これまでに感じた点をざっと箇条書きであげてみました。
業態や規模などによって、当てはまらないことやむしろ逆!ということなどもあるかも知れませんが、僕たちが10年間の実践で学んだ点でもありますのでご参考になれば幸いです。

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