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ドスケベ北風とえちえち太陽

第1話 えっちな神様

 北風と太陽は犬猿の仲である。
 先日も、どちらが旅人の外套を脱がせられるかで勝負したばかり。

 そのときは太陽に軍配が上がったが、

「いや、お前、ありゃあ脱がしたんじゃなくて、旅人が自分から脱いだだけだから」

 と北風。対して、

「やれ、負け惜しみか。弱い犬ほど良く吠える」

 と太陽も煽ったものだから、相も変わらず犬猿の仲は続いている。

 そんな彼らの下を、制服姿のうつくしい娘が通る。
 北風と太陽、両者の視線は彼女に集中した。

 髪の長さはショートボブ。
 濡れ羽色の黒髪に、手入れの丹念さがうかがえる、天使の輪のような光沢がつやめいていた。
 庇護欲をそそられる幼顔。
 二重まぶたに、星のきらめく大きな瞳。
 薄く紅をひいた、ぽってりと柔らかそうなくちびる。

 首から下に目を向けると、ブラウス越しでも形がはっきりとわかるたわわな胸元に、ミニスカートの下にすらりと伸びる肉感の良い脚。

「おおお……」「ふむ……」

 北風と太陽は、しばしの間、娘の身体を舐めまわすようにじろじろと眺めると、思わず感嘆の声を漏らした。
 それからにやにやと気持ちの悪い笑みで顔を見合わせ、最初に口を開いたのは太陽。

「北風よ。あの娘を先に脱がせた方が勝利というのはどうだろう?」
「フン、面白い。じゃあ、勝った方だけがあの娘の裸を眺められるって条件でどうだ?」
「乗った」

 かくして、北風と太陽の最低な勝負が始まった。

 初手、太陽。

「人の子よ。温かな我が光を浴びるが良い……」

 娘の裸を想像した太陽は、興奮からか、より一層強く輝いた。
 暑さで衣服を脱ぎたくさせる作戦だ。
 燦々とふりそそぐ光に、目を細める娘。

「あっつ……なんか急に暑いんだけど」

 娘は顔に手をかざし、顔に当たる陽光をさえぎった。

「おい、太陽! 脱がすどころか、娘の顔がよく見えなく……いや、こ、これは!」

 北風は太陽をけなそうとしたが、あることに気付きそれどころではなくなった。
 娘の着用するブラウスが透けていたからだ。
 気温が上昇したことで、たくさんの汗をかいたのだろう。

「「白ッ!!」」

 北風と太陽は、娘のブラジャーの色に尚更の興奮を覚えた。
 透けたブラウス越しに見えたブラの色は、汚れなき純白であった。

「太陽。お前、やるじゃねえか」
「だろう。分かってきたじゃないか、北風よ」

 なぜか意気投合し始めた、ドスケベ北風とえちえち太陽。

「では、北風よ。次は貴様の番だ」
「言われなくとも。ふううぅっ……」

 太陽の煽りを受け、北風はここぞとばかりに一陣の風を吹かせた。
 娘のミニスカートが勢いよくめくれ上がる。

 健康的な生足と、白い布地が露わとなった。

「「こちらも白かッ!!」」

 低俗な神々は、二人して鼻息をあらくした。

「ひゃわっ!?」

 娘は小さな悲鳴を漏らしつつ、あわててスカートを押さえる。

「……びっくりした。誰にも見られてないよね?」

 娘は周囲を見渡し、誰もいないことに一安心する。
 その間、北風と太陽はえもいわれぬ背徳感を覚えていた。
 天候をつかさどる神々の姿を、下々の人間が見ることはできない。

 奇妙な違和感を覚えた娘は、というと。

「急に暑くなったと思えば、あり得ないほど冷たい風吹いてくるし……誰もいないはずなのにキモイ視線感じるし、変な天気」

 とっとと帰ろ、とひとりごち、そそくさとその場を去った。

「ああ、行くな!」「ちょ、待っ……」

 北風と太陽は残念そうに見送った。
 しかし、これくらいで勝負を諦める彼らでは無かった。


第2話 はやく見せてよ、女神様!

「おい、北風よ」
「なんだ、太陽」
「やはり夏場の勝負はこうでなくてはな」
「そりゃそうだ」

 北風と太陽は、空から砂浜を見下ろしていた。
 場所は海水浴場。見渡せばナイスバディのギャルたちが楽しげにたわむれている。

「風のうわさによると、件の娘は今日ここに海水浴に来るらしい」
「ふむ。さすがは北風、耳が早いな」

 どこか機嫌が良さそうな笑顔のエロ神コンビ。
 勝ち負け以前に、美女たちの水着姿で既に大興奮の様子。

 しばらくすると、三人の若い娘が現れた。

「お、うわさをすれば……」

 予定通りのお目見えに、気持ちが高まる太陽。
 三人の娘のうち一人は、黒くつやめくショートボブに愛らしい幼顔の少女。
 見まごうことも無い。先日、白いブラを着用していた娘である。

「ありゃ、しかしあれはどういうこった?」

 少し残念そうに北風が言った。
 今日の彼女は大きめのパーカーを着ており、期待していた水着姿は確認することができない。
 どういうことかと戸惑う彼らの元に、風に乗って声が届く。

「みなっち、な~に恥ずかしがってんの?」
「そーだよ! 勇気出して見せつけてやんなきゃさ~」

 その声は娘の両隣にいる二人のギャルのものだった。

 件の娘――みなっち、というらしい――は彼女らにはさまれ、遠慮しがちな様子で浜に訪れていた。

「いや、中に着てるけど……わ、私、かわいいって思ってもらえるか、不安で……」
「「やーん、すでに可愛いー!!」」

 みなっちの初々しさに、二人のギャルは声をそろえた。
 それを見た北風と太陽も、身を焦がされるようないじらしさを覚えた。

「そそるじゃねえか」
「ふむ。これぞ「尊い」というやつだな」

 なぜか得意げだが、その目つき顔つきはエロジジイのそれでしかなかった。

「さておき、どちらが娘を……みなっちを脱がせることができるかだ」
「ああ。約束、忘れてねえよなあ?」
「先に脱がせた方が娘の裸を独占できる。そんな大事なことを忘れる訳が無いだろう?」

 太陽の熱意で砂浜の温度はわずかに上がり、最低な勝負は最高に盛り上がり始めた。

第3話 女神、脱ぐ。

「まずは俺から行かせてもらうぜェ!」

 北風が浜にそよそよと風を吹かせた。
 夏の暑さを和らげる、優しくひんやりとしたそよ風である。

 変化を察知したギャルたちが言った。

「あ、なんか涼しいんだけど!」
「それな~。まじそよ風感謝。ってか、みなっちも脱いだ方が涼しいよ?」

 彼女らはみなっちにパーカーを脱ぐようにうながした。

「グッジョブだ、ギャルども!」

 ギャルに感謝する北風。しかし。

「……いや、逆に涼しいから脱がなくて良さそう」
「え~」「そういう問題じゃないじゃん~!」

 みなっちはかえってかたくなになってしまった。
 ギャル二人はわちゃわちゃと説得を試みるが、何かと理由をつけられてはぐらかされた。

「ちっ……簡単には脱ぎません、ってか」

 悔しがる北風。太陽は励ますようにして言う。

「それでこそ、脱がしがいがあるというものだろう。さあ、我に任せておけ」

 太陽はそう言うと、自分の番とばかりに輝いた。
 砂浜の温度がじりじりと上がっていく。

「あれ、暑くなった」「そよ風もやんじゃったし」

 ギャル二人はさっそく反応を示した。

「うっ……さすがに暑い……」

 みなっちも暑さににこたえたらしく、パーカーのジッパーに手をかけると――。

「おっ、みなっちついに脱いだ!」「きゃあ~、みなっちの水着姿、かわい~!!」

 どうやら脱いだらしい。
 ……が、空から眺めている北風と太陽からは見えていない。
 みなっちが、パラソルの下に隠れてしまっているからだ。

「おい、なぜパラソルに隠れているのだ!」
「ちくしょう、せっかく水着姿のみなっちを拝めるはずなのに、これじゃあ生殺しみたいなもんだぜ……」

 残念がる北風と太陽。もはや勝負そっちのけである。

「みなっちー、そこにいても意味なくない? もうひと頑張り!」
「いや~、だって太陽の下は暑いしさ……」

 明るい茶髪のギャルその1が呼びかけるも、みなっちは消極的である。
 そんな彼女らの様子をしばし見ていた太陽は、何かを感じ取ったようだ。

「北風よ。あの娘……みなっちだが、なにかと理由をつけて、水着姿をさらしたくないように見えるのだ」
「たしかに。なんというか、ふんぎりがつかねえって感じだよな」

 みなっちは決して、水着姿を絶対に誰にも見られたくない、とまでは思ってはいない。
 エロ神たる北風と太陽はそのように推理した。

「まったく誰にも見られたくないのであれば、水着を着て来ないだろうし、そもそも海にも来ないだろう」

「そうだよな。たぶん、肌を見せることに勇気が出ないんだろう。何か、踏ん切りがつくような……やむを得ず、脱がざるを得なくなる理由をつけてやれれば……あ、そうだ!」

 北風はひらめくと、すぐさま太陽にこそこそと耳打ちした。

「……ほう、それはいい提案だ」

 提案を受け入れた太陽は、さっそくと言わんばかりに海面を照らした。

「いい輝きじゃねえか。んで、俺が適度に海面を揺らす、っと」

 北風が穏やかに吹いて海面を揺らすと、小さな波がきらきらと輝いた。
 その光景に反応したのは。

「ちょっとみなっち! 海、めっちゃきれいだよ!?」
「こんなきれいな海、このコンディション、めったにないよ! 楽しまないと絶対損だって~」

 ギャル二人である。
 今を全力で楽しむことをよしとする彼女らは、波が押し寄せる海辺から、全力でみなっちに手招きした。

「ほんとだ、めっちゃきれい。……し、仕方ないなあ。私も海で遊ぶとしよう」
「いえーい、みなっちの水着姿を見せつけちゃえ!」
「し、仕方なくだから! 別に、たくさんの人に見せたいって訳じゃないし……」
「ん~? じゃあ、誰に見せたいのかな~?」
「それは……って、も~! はやく遊ぶよ!」

 ギャルに呼ばれ、ついにみなっちは、パラソルの下から海へと駆け出した。

 みずみずしく陽光をはじく、白い素肌。
 形の良いやわらかそうな胸は、リボンがついた桃色の水着に彩られている。
 くびれたウエスト、ぼんと突き出た桃尻。
 そこから大胆に伸びる美しい素足は、思わずかぶりつきたくなるようなほどに魅力的な質感を伴っている。
 一流モデル顔負けの超美ボディが、そこにはあった。

 海辺でたわむれるその姿は、まさに、美の女神(アフロディーテ)であった。

「おおおおおッ!!?」
「あああああッ!!?」

 みなっちの水着姿を見た北風と太陽はというと、興奮でおかしくなっていた。
 感涙とよだれと鼻水で、地上にきたない雨を降らせそうな勢いだ。

「ありがとう、北風。お前のアイデアのおかげだ!」
「何言ってるんだよ、太陽。お前の輝きあってこそだよ!」

 二人は硬く、握手をかわした。
 普段はかたくなに敵対視する二人。
 しかし、みなっちの裸体に対するあくなき執着心が、二人のわだかまりを解いたのだ。

 みなっちの水着姿に魅了されたのは北風と太陽だけではない。

「うわあ、あの子めっちゃ可愛くない?」
「やば、めっちゃ綺麗な子おる!」
「藤崎って、脱いだらもっとすごいんだな~」
「あんな美女と同じクラスだなんて、嬉しいわ~」

 周囲の人々(中にはみなっちと親しい者も居るようだ)も、一斉に彼女を見つめていた。

「みなっち、そーれ!」
「わわっ、やったなあ!」

 関心を集めていることなどつゆ知らず、ぴしゃ、ぴしゃ、と水をかけあうギャル二人とみなっち。
 水が玉の肌をしたたっていく様子を、北風と太陽はただただうっとりとしながら、しばし眺めていた。

 そこへ、二人の若い男の影が迫る……。

第4話 イイこと、しよ?

「ねえ、きみ、かわうぃーね!」
「ちょっとお兄ちゃんたちとイイことしない?」

 ギャル二人とみなっちの前に、浅黒い肌をした男二人が現れた。
 一人は金髪、一人は坊主頭だ。

「え、ええと……」

 ちぢこまり、困惑するみなっち。

「あらお兄さんたち。アタシらもいるんだけど?」

 そんなみなっちをかばうように、ギャル二人が前に出た。

「僕はそこのピンクの君に用があるの! 君たちはお呼びではないよ」
「そうだそうだ!」

 チャラ男たちはギャル二人を無視してみなっちに呼びかけようとするが――

「あらあら。アタシらは彼女のマネージャーなのよ」
「みなっちに用があるんなら、私たちをちゃんと通してくれるかしら?」

 ギャルたちが、がっちりとみなっちを守る。

「ちっ、仕方ねえな……どうやったら通してくれるんだよ?」
「ふふふ。まずはアタシたち二人と……イイこと、しましょ?」

 明るめの茶髪をしたギャルその1が、どこからともなく取り出したビーチボールを「ばん!」と両手で叩きながら言った。

 言うや否や、彼女らは砂浜のバレーコートへ移動した。
 どうやらビーチバレーで勝負しようということらしい。

 そのころ、北風と太陽は。

「おい、北風よ。我は美女たちがたわむれる様子を見たいのだ。むさくるしいチャラ男などいらん!」
「みなまで言うな! 分かってるって」

 しばし見守っていたが、すでに我慢の限界の様子。
 勝負を始めようとするギャルとチャラ男たちを横目に、何やらたくらみだした。

 神々の企てなど知るよしもなく、ギャルとチャラ男たちはバレーコートにて対峙する。

「先に10ポイント取った方が勝ち。サーブの初手はアンタたちにゆずってあげる」
「ふん、ハンデ無しで良いのかい?」
「それはこっちのセリフよ」
「じゃあ、俺のサーブから行かせてもらうぜ。――おらッ!」

 約10分後。

「ま、負けた……」
「完敗だ……」

 チャラ男たちは1ポイントも取ることなく、ギャル二人が勝利した。
 北風がギャル二人に有利になるように風を吹かせたのである。

「すげえ、あの子たち超つえー!」
「可愛くてかっこいい!」

 いつの間にか集まっていた観衆から歓声があがっている。
 実はギャル二人はバレー部で、水着で華麗に躍動する姿が、多くの者をとりこにしたのだ。

「やば、なんか注目集めちゃったね」
「それな~。つーか、なんか風向きが良すぎたような……? ま、いっか!」

 ちょっと照れくさそうなギャルたちに、チャラ男たちは申し訳なさそうに歩み寄る。

「君たち、強いんだね」
「ごめんな、急に失礼な絡み方して」
「いいってことよ!」
「案外、楽しかったわ」

 固い握手を交わす彼女らへ、観衆から大きな拍手が送られた。

「そういや、みなっちは?」
「勝負中に海に飛んでったボールを取りに行って……あっ!?」

 赤い髪のギャルその2が海の方を見ると、視線の先にみなっちを見つけた。

「大変! あんなところに!」

 彼らはギャルその2が指さした方角を見つめる。
 砂浜から遠く離れた海面に、みなっちは居た。
 ビーチボールに捕まり、顔だけを海面から出してぷかぷかと波に揺られている。

 それを見た北風と太陽はというと。

「おい、北風! 貴様がギャルどもの尻をまじまじと眺めている間に、みなっちが沖の方に行ってしまったではないか!」
「はあ!? お前こそ胸の谷間に気をとられてただろ!」

 監督不行き届きの責任を押し付け合っていた。

 その頃、みなっちは。

「どうしよう、水着、外れちゃった……」

 胸を覆っていた水着が、泳いでいる間にどこかへ流されてしまっていた。
 今、身につけているのは、下の水着のみ。面積の少ない布きれ一枚である。

「このままじゃ砂浜に戻れないよ。とりあえず、しばらくここでサナエとヒナコが何とかしてくれるのを待ってようかな……って、え?」

 みなっちは周りを見ると、青ざめた。
 ボールに捕まりぷかぷかと浮かぶ彼女の周りには、サメの背びれのようなものが、いくつか海面から突き出ている。

「や、やだ、怖いよ。誰か、助けて!!」

 彼女の悲鳴が聞こえたのか、北風と太陽は再びみなっちに視線を向けた。

「おい、太陽!」
「おお!? 我がみなっちが……みなっちのみなっちが、ついに露わに!!」

 海面下のみなっちの上半身を凝視した太陽は大興奮していた。
 そんなアツアツの太陽をさますように、北風が。

「今は違うだろ!!」

 冷たい風を吹かせるかのごとくツッコんだ。
 我に返った太陽が、みなっちのピンチに気付く。

「サメに囲まれているではないか!」
「そうだよ。はやく助けるぞ!」

 女神(みなっち)の危機に、再び北風と太陽は手を取る。

「サメどもめ。我らが力を見せつけてやる!」


第5話 彼女を「その気」にさせたワケ

 海面でサメに囲まれたみなっちを助けるべく、初めに動き出したのは北風だ。

「みなっち、今助けるぞ! ふううううっ!」

 北風はめいいっぱい、砂浜の方へと風を送る。
 波が砂浜の方へ押し寄せていった。

「わっ!? 急に風が……」

 ボールに掴まっているみなっちが、波に乗り砂浜へと運ばれていく。
 北風に続き、太陽が。

「食らえ、サメども!」

 燦々と輝き、サメへ向けて強力な太陽光線を飛ばした。

「ん、なんか焦げくさ……って、ええっ!?」

 波に揺られながら、後ろを振り返ったみなっちは驚いた。
 太陽光線によって、サメたちが焼き魚となっていたのだ。
 ぷすぷすと煙が上がっている。

「なんかよくわかんないけど、助かりそう!」

 順調に波に乗り、足が着く位置にまで流れ着こうとしていた。
 そして、いよいよ砂浜を前に、みなっちは思い出す。

「そういえば私、上裸だった……」

 ビーチは見守る人々で沢山だし、だからといってこのまま海の中にいるわけにもいかない。
 浅瀬で無理やり身体を海面下に隠しながら、頭だけを出して悩んでいると。

「ミナ!」

 ビーチの向こう側から一人の青年が駆け寄ってきた。

「えっ! リュウヤ!?」

 驚き、彼を呼ぶみなっち。
 突然、美の女神(みなっち)の前に現れた若い男に、北風と太陽は困惑した。

「え、なに、あの男?」
「誰だ、彼奴は。なぜみなっちの前にいる? そしてなぜ、みなっちはヤツを前にして、顔の下半分を海面に隠し、頬を赤らめているのだ……」

 そんなこんなしていると、風に乗ってギャルたちの声が聞こえてきた。

「きゃー、リュウヤ、みなっちのことが心配だったんじゃん?」
「バイトで遅れるって言ってたけど、間に合ったみたいね。あの感じだと、やっぱ両想いじゃね!?」

 ――両想いじゃね!? 両想いじゃね!? 両想いじゃね!?

 ギャルの放った一言が、北風と太陽の耳元に届く。

「「……両想い」」

 そして彼らの脳内に、その言葉が反響した。
 数秒ほど経過すると、二人してため息をついた。何かを悟り、深く落ち込んだ様子である。

「……下々の者どものことで、長年、分からぬことがあった」

 太陽がつらつらと語りだした。

「推しのアイドルとやらに想い人がいることを知った「ファン」と呼ばれる者どもの行動だ。彼らはそれを知ったとたん、裏切られただの、もう推さないなどと喚き散らすだろう?」

 少し寂しそうに話した太陽に、北風は「そうだな」とだけ返した。

「その気持ちが、少しだけ分かった気がした。……だが、本当のファンなら、推しの幸せを強く願ってやまぬものだと思うのだ」

 太陽の持論に北風は涙ぐみながらも「ああ」と応えた。

「……北風よ。今から我が、下々の者どもの目をくらませるべく、キラキラと輝く。お前はそのすきに、みなっちの水着を探し出し、彼女の元へ届けるのだ……」
「ああ。そうするよ」
「それから、みなっちへ今から云う言葉を風に乗せて届けて欲しい」
「ああ」

 言うやいなや、太陽は輝いた。
 海辺に一段とまぶしい光が降り注ぐ。

「わわっ、めっちゃまぶしい!?」
「目がっ、目があ!!」

 みなっちの前に立つリュウヤと、砂浜の人々の目がくらむ。
 立ち位置的にまぶしくなかったみなっちの元に、どこからともなく、水着が流れてきた。

「……あ、私の水着!」
「――みなっちよ」
「……え、誰?」
「――今のうちに、水着を身に着けるのだ。意中の相手に、可愛い水着姿を見せたいのであろう?」
「……う、うん」

 なぜか事情を知っているらしい不思議な声に従い、みなっちは流れてきた水着を装着。

「――お主なら大丈夫だ」
「……え? は、はい……」

 不思議な声はそれきり途絶えると、太陽はいつも通りの輝きに戻り、人々は目くらましから回復した。

最終話 最後は必ず愛が勝つ

「……びっくりした。急になんかまぶしくなって、って、おお、ミナ、水着……めっちゃかわいいいし、めっちゃ似合う!」

 目を開き、開口一番にリュウヤは感想を漏らした。
 水着を着直したみなっちは、今や堂々と彼の前に立っている。

「……そ、そう? 嬉しい。実はね、リュウヤに見てもらいたくって、がんばったの!」
「え!? お、俺に?」
「うんっ……!」

 みなっちは照れくさそうに笑顔を浮かべた。

「そ、そっか。そういや、ミナ、バイトとかめっちゃしてたよね。あと、筋トレとかもしてなかったっけ? ジムで偶然見かけたわ」
「み、見てたの~?」

 みなっちと同じクラスのリュウヤは、生活圏内が彼女と同じであった。
 そのため、彼女をたまたま目にする機会が多かったのである。
 無論、偶然だけが、彼らの距離を近づけた理由ではないけれど。

「水着姿ももちろん可愛いけど、俺はそういう、努力するミナの姿がいいなって思った」
「ふ、ふ~ん?」
「あと、誰にでも優しいとことか、自分の芯持ってるとことか……」
「う、うん。そ、それってさ、つまり……!?」

 何かを期待するようなみなっちの上目遣いに、たじろぐリュウヤ。

「え、えっと……それから、もっと色んなミナが見てみたい。もっと……好きになりたい」

「……私も、リュウヤのこと、好き。陰で努力してるの、見てくれてるトコとか。人を見た目だけで判断しないトコとか。だから、もっとリュウヤのことを知りたいって思うの」

 みなっちはそう言うと、自らの胸に手を当てた。

「さっきみたいに言ってもらえたの、すごく嬉しい……。
 ねえ、私、今すごくドキドキしてる。心臓の音……聞いてみる?」

「うん」

 そう言うと、みなっちとリュウヤは抱き合った。
 周囲からひゅう、ひゅうと歓声があがる。

「よかったね……!」「みなっち……!」

 ギャル二人は感動のあまり涙していた。

「ぐうっ……!」「青春だなあ……!」

 なぜかチャラ男たちももらい泣きしていた。
 そんな観衆をよそに、みなっちとリュウヤは抱き合いながら、互いの耳元でささやくように話し続けた。

「ごめん、俺もドキドキしてるから、どっちの心臓の音だかよく分かんねえや」
「ふふふ。ひとつにつながったみたいで、なんか嬉しい!」

 みなっちの言い回しと、押しあてられている女の子の部分の感触に、否応なしに高まってしまうリュウヤ。

「はは、そんな風に言われると、ちょっと変な気分になっちゃうだろ。……あれ? なんか、くもってきた」

 見上げると、先ほどまでは晴れていた空に、灰色の雲がかかり始めていた。
 みなっちも同じく、空を見上げてつぶやく。

「なんかさ、急に晴れたり風吹いたり、変な天気だよねえ。そういえば……」

 彼女が先ほどの不思議な現象を思い出しながら話そうとすると、その異変は起こった。リュウヤがそれに気付いて声をあげる。

「雨だっ!」

 ぽつり、ぽつりと、それは無数の涙のように空から落ちてきて、二人の身体を濡らした。
 まるで、空が泣いているかのようだった。

「ほんとだ。どんどん強くなってきてない?」
「そうだな……って、さっきはさえぎってゴメン。なんか言おうとしてたか?」
「ううん、なにも!」
「んじゃ、ひとまず身体冷える前に、浜にあがるか」
「うん!」

 みなっちは、リュウヤに手を引かれて砂浜へ向かう途中、後方の空を見て小さくつぶやいた。

「……ありがとう、かみさま」

 それからしばらくの間、少しだけ、雨は小ぶりになった。


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