秋深く

 鮮やかな葉が風に乗り宙を舞う。
 早朝の空気は透き通っていて、遠く色づく山々がよく見える。
 陽だまりが恋しい。
 体は布団の温もりから離れがたく、「朝日はまだか」と駄々をこねだす。
 月は煌々と夜空を照らし、その光はまっすぐに地上へ降りてくる。
 あたたかな紅茶。湯気と、その香りが、狭い部屋に充満していった。
 近所の果物屋で、先頭に並べられた柿の実の表皮が、光沢を放って唾液の分泌を促してくる。
 ベランダ、陽光。
 窓枠の影が、読んでいる途中の本のページに、ほんのりと落ちている。
 物語のヒロイン。
 頭の中に浮かんだあの人は、きっと今、他の誰かの隣で楽し気に笑っているはずだ。
 笑っていてくれて、いるはずだ。
 センチメンタルな思考に、充実した時間を侵される前に。
 アクティブな現実に身体を投げ出してしまおう。
 階段を降りる。自分の足音で、誰かが目を覚ましてしまった気がした。
 きっと思い違いな罪悪感を抱えながら。
 朝日が昇る前に、この町を一周したい。
 歩き切る頃にはきっと、光と喧騒が満ちているのだろう。
 吐いた息が白くて。それが無性に楽しくて。
 ひとりで怪獣ごっこを続けている。

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